木走日記

場末の時事評論

胡(ふう)さんがパンダ土産(みやげ)に春の旅〜「最悪の情勢下」(警察幹部)での「暖かい春の旅」(新華社)

 今日(6日)、胡錦濤国家主席兼総書記が来日します。

 新華社が伝えるところ、「暖かい春の旅」なのだそうです。

胡錦濤主席が間もなく訪日 「暖春の旅」へ

胡錦濤国家主席は4日北京で、日本メディア16社の共同取材に応じ、日本への公式訪問について、春暖かく花咲く時期にあたることから「暖かい春の旅」と位置づけ、「中日両国民の友情が常に春暖かくあることを心から望む」と述べた。新華社が伝えた。

(後略)

http://j.peopledaily.com.cn/2008/05/05/jp20080505_87668.html

 「中日両国民の友情が常に春暖かくあることを心から望む」とのこと、けっこうなことではございます。

 今回の「暖春の旅」という命名は明らかに昨年12月に訪中した福田首相自らが命名した「融氷の旅」を意識したモノでありましょう。

 昨年の福田訪中が長年の両国の冷え切った外交の「氷を溶かす」エポックであったのに対し、今回の胡錦濤来日が、日中両国外交が確かに氷が溶けて「暖かい春」を迎えることができたことを確認する旅ということなのでしょう。

 しかしながら、親中派福田首相はともかく、冷凍ギョーザ中毒事件やチベット問題などで、国民の対中感情が厳しいなか、中国国家主席国賓として迎え入れる警察幹部は「最悪の情勢下での来日。緊張感は極度に高まっている」とピリピリしておるわけで、受け入れる日本側としては、とてものどかなうららかな暖かい春の旅というわけにはいかなそうです。

 昨日(5日)の産経記事から。

胡主席あす来日 超厳戒 都内警備最大6600人 唐招提寺法隆寺に抗議も (1/2ページ)
2008.5.5 00:40

 冷凍ギョーザ中毒事件やチベット問題などで、対中感情が厳しいなか、6日、来日する胡錦濤国家主席。首脳会談などが行われる東京だけでも主席の滞在中、右翼団体が170台以上の街宣車を走らせるとみられ、警察当局は都内警備だけで最大時約6600人態勢で臨む。主席は中国にゆかりがある奈良県唐招提寺法隆寺にも足を延ばす予定だが、両寺には参拝を断るよう抗議が寄せられている。警察幹部は「最悪の情勢下での来日。緊張感は極度に高まっている」と話している。

 警視庁によると、胡主席の滞在中、都内での街宣活動を明らかにしている右翼団体は、6日から9日までの4日間で延べ約150団体、約550人。170台以上の車で、街宣するとみられる。

 中国の国家主席は9年6カ月ぶりの来日となるが、長野市北京五輪聖火リレーでも見られたように対中感情は厳しく、極めて難しい警備を迫られそう。警備方針について、警察幹部は「胡主席への直接危害を防ぐのは当たり前。車窓越しや徒歩移動中、見聞きしたことで主席に不安や不快感を抱かせること自体、外交問題化する可能性がある。抗議行為や音を一切、見せず、聞かせずの警備が必要だ」と明かす。

 「長野のような小競り合いは絶対にさせない」(警備担当者)と、宿泊先からの移動に当たり、主席の車両を中心に周囲数百メートル、数キロごとに段階的に“排除線”を設定。不審人物や車への警戒を極度に高めた「面の警備」を徹底する。

 トラブルの芽を事前に摘もうと、警察当局は関東地方での主席の繁華街視察のキャンセルを中国側に要請、了承された。「市民とふれあう繁華街視察を中国は目玉の一つに据えていたが、不審者の接近が完全排除できないという警備上の問題があった」(同)。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080505/crm0805050044001-n1.htm

 うーん、胡主席への直接危害を防ぐのは当たり前。車窓越しや徒歩移動中、見聞きしたことで主席に不安や不快感を抱かせること自体、外交問題化する可能性がある。抗議行為や音を一切、見せず、聞かせずの警備が必要だ」(警察幹部)とは、すごい力みぶりであります。

 「長野のような小競り合いは絶対にさせない」(警備担当者)とのことのようです、「主席の車両を中心に周囲数百メートル、数キロごとに段階的に“排除線”を設定。不審人物や車への警戒を極度に高めた「面の警備」を徹底」」とは、これでは一般の民も恐ろしくてとても歓迎の列を作れそうにないのであります。

 「面の警備」ですか、いやはやなんともであります。

 ・・・

 国賓として国家元首を向かい入れる限り、国家として礼節をもってもてなし歓待することは当然のことであり、右翼団体街宣車活動などは「抗議行為や音を一切、見せず、聞かせずの警備が必要」なのは理解できます。

 しかしながらこの国は言論の自由が保障されている民主主義国なのであり、適法で平和的な抗議の声までも封印するかのような国家による圧力は、誉められたことではありません。

 今回のような過剰な警戒や警備が常態化してしまうと、かえってこの国を旧ソ連北朝鮮のような全体主義的・警察国家に貶めてしまうという点で、非常に危惧してしまいます。

 ・・・

 いずれにせよ、「最悪の情勢下」(警察幹部)での「暖かい春の旅」(新華社)なのであります。

 国家としては福田首相はじめ建前は熱烈歓迎でしょうが、長野聖火リレー五星紅旗の林立を見せつけられた一般の民(たみ)としては、冷め切っておるようにも思えます。

 今回の訪日、成果としてはパンダ以外何も期待できそうにありません。

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 「暖かい春の旅」(新華社)を祝して、一句。

 胡(ふう)さんが パンダ土産(みやげ)に 春の旅

 面の警備で 暖(だん)を得るかな

 オソマツ。



(木走まさみず)