木走日記

場末の時事評論

日本の大企業の「思いやる気持ち」〜「メタボおやじのテーブル・フォー・ツー」とか「東京ドームの1万1000個分の古紙偽装」とか

●「テーブル・フォー・ツー」〜社員食堂に低カロリーメニューを設け、代金のうち1食につき20円を・・・

 昨日(30日)の毎日新聞朝刊コラム「余録」から。

余録:2人の食卓

 20円で何が買えるだろう。近くのコンビニエンスストアで軽食類の棚を見渡すと、一口サイズのチョコレートやミニパイが税込み1個21円だった。口寂しい時に手ごろだが、内臓脂肪や血糖値がちょっと気になる▲20円あれば、飢餓に直面するアフリカやアジアの国々では、学童1人が1回給食を受けられる。飽食する先進国の大人たちが、食費の一部を給食支援に回して「食の不均衡」を解決しよう。そう呼びかけている国際貢献活動が「テーブル・フォー・ツー」(2人の食卓)だ▲世界経済フォーラムに参加した日本人グループが提唱した。これに共鳴する企業が、昨年から次々協力している。社員食堂に低カロリーメニューを設け、代金のうち1食につき20円を、世界食糧計画(WFP)を通じた寄金に充てる。毎日新聞社も4月1日から参加する▲途上国の貧困や政治混乱はなお続く。バイオ燃料の原料として注目される農産物の価格が高騰し、危機的状況はさらに広がりつつある。日々の食に事欠く地域の子供たちにとって、学校に行けば給食があるというのがどれほど心強く、うれしいことか▲日本の学校給食も明治時代に、不作にあえぐ東北地方の欠食児童対策として始まった。太平洋戦争後には食糧難の都会っ子救済から復活した。いま50〜60歳代の人なら、脱脂粉乳の給食にほろ苦い思い出があろう。そんな体験を持つ日本が、先頭に立つ意義は大きい▲ヘルシー食で肥満や生活習慣病克服、の狙いもあるが、それはおまけと思えばいい。飢えた子供たちと同じ食卓を囲み、食事を分かち合う心を持ち続けたい。思いやる気持ちの一層の広がりを、切に願う。

毎日新聞 2008年3月30日 0時05分
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20080330k0000m070112000c.html

 「20円あれば、飢餓に直面するアフリカやアジアの国々では、学童1人が1回給食を受けられる」ことから、「社員食堂に低カロリーメニューを設け、代金のうち1食につき20円を、世界食糧計画(WFP)を通じた寄金に充てる」ことを、毎日新聞社も4月1日から参加するのだそうであります。

 「飽食する先進国の大人たちが、食費の一部を給食支援に回して「食の不均衡」を解決しよう」とは、たいへんけっこうな試みであります。

 コラムの結語。

飢えた子供たちと同じ食卓を囲み、食事を分かち合う心を持ち続けたい。思いやる気持ちの一層の広がりを、切に願う。

 このような一食20円の負担とささやかではあるが崇高な試みを毎日新聞のような大企業が率先して行うことは多くの人々を啓蒙する点で効果的でありますし、その思いやりの気持ちを大事にしたいという優しい観点で見れば誰がこの「テーブル・フォー・ツー」(2人の食卓)の運動に反対できましょう。

 全国紙のコラムで紹介するのも啓蒙する点で効果的でしょう。

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 しかし、このような大企業の「慈善活動」を穿った目で見ることしかできない、さもしい下請け零細企業主(苦笑)、不肖・木走がここにいるのであります。

 日本の大企業の大きな立派な社員食堂にて、飢餓に直面するアフリカやアジアの国々の子等のために低カロリーメニューを食し、その代金のうち20円を寄付する、メタボなおやじやダイエットを気にするOL達には一石二鳥、会社としても企業イメージが向上する、八方円満わたしたちは飢えた子供たちと「テーブル・フォー・ツー」、食卓を共にしているのだと自己満足もできるのであります。

 その構図をどうしてもシニカルな目線で見てしまう、天の邪鬼な私がおるのでございます。

 大企業がきれいな大きな社員食堂で「飢えた子供たちと同じ食卓を囲む」ことで慈善活動するのはけっこうなことですが、それを支えているものの中に「飢えた下請け」や「飢えたパート労働者」がいることも忘れないでほしいですね(苦笑)。

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 私は過去経験でこの日本の大企業の小さな「慈善活動」が、えてしてその崇高な目的とは裏腹に「ポーズ」のみであり、一種の企業PRとして極めて薄っぺらい動機であったことを知っているからであります。

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●実はほとんど古紙が使われてなかった「古紙再利用名刺」〜東京ドームの1万1000個分の古紙偽装

 2年前のある自治体のある会合で名刺交換したときの話です。

 自治体の環境福祉関連の会合だったのですが、全部で15人ぐらいの参加者の中で、学者や専門家が半分、残りの民間企業関係者が7名だったと思います。

 で、その方々と名刺交換させていただいたとき、ちょっと苦笑した驚きがあったのでございます。

 名前を出せばみなさまご存じの有名企業が居並んでおりましたが、受け取った名刺を見てちょっとびっくり、その全てが「この名刺は古紙を再利用しています」と書かれているではありませんか。

 環境福祉関連の会合とはいえ、この奇妙な「統一感」に当時の私は、自分の名刺(もちろん古紙再利用などではありませんでした)が少し恥ずかしい存在なことで照れたのと、それにしても全社の名刺が古紙再利用とはすごいことであると、奇妙な感心をしたのであります。

 そりゃね、古紙再利用の名刺は普通の名刺よりかなり高額ですから、そのコストを負担していることからも、地球環境保全のため当社は古紙再利用を進めています、ってPRしたいのはわかります。

 しかしですね、名刺自体に「この名刺は古紙を再利用しています」なんてすっちゃうのはどうなんでしょうか、「私は善良な人間です」って自己紹介しているようななんとも「胡散臭さ」が漂うと感じるのは、私が天の邪鬼だからでしょうねえ。

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 しかし最近になりこの古紙再利用が「嘘八百」であり、なにも環境資源に優しくなくただ古紙再利用を謳った会社にとって企業イメージ向上戦略以外のナンの効果もなかったことが判明しました。

 29日付け読売新聞記事から。

古紙偽装、7社で577万トン

 製紙会社が古紙配合率を偽装していた問題で、製紙会社7社の偽装量が計577万トンにのぼることが28日、環境省の調査でわかった。

 国際環境NGO「FoE Japan」(東京都豊島区)は、「本来の古紙配合率を守っていれば、東京ドームの1万1000個分の森林が伐採されなくて済んだはず」と試算している。

 同省では、これまで偽装を認めた製紙会社18社に対し偽装量を調査するよう求めているが、このうち大手製紙会社4社を含む7社が、それぞれ保存している1990年〜2002年以降のデータに基づき回答した。最も多かったのは、大王製紙の231万トン(古紙換算)で、日本製紙の198万トン(同)、王子製紙47万トン(古紙パルプ換算)、三菱製紙39万トン(同)と続いた。

(2008年3月29日03時34分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080329-OYT1T00137.htm

 古紙偽装、7社で577万トン、「東京ドームの1万1000個分の森林が伐採」ですか、とんだ「古紙再利用」なのであります。

 古紙再利用名刺の方も名刺メーカー側は全ては製紙会社側の嘘八百であったことを認めております。

【既製品】名刺用紙 古紙パルプ 調査の中間報告
http://www.yamazakura.co.jp/info/pdf/080212/080212info_meishi.pdf

 ちょっと冒頭部分を抜粋

 この度、製紙会社における古紙パルプ配合率の偽装問題を受けまして、弊社では封筒以外に名刺の原紙の調査も急ぎ進めております。現在の調査段階では、下記の通り殆どの名刺において公称の古紙パルプ配合率と実績配合率に乖離が発生しております。つきましては、「サイセイ(再生)」という名称を全て削除させていただき、新しい品名にて調査結果を掲載させていただきます(製品名変更のお知らせを参照ください)。
なお、この調査結果は途中段階であり、各製紙会社の発表も続いていることから、日々刻々と変化する可能性があります。この点をご理解いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
製紙会社でこのような偽装が行われたことは、誠に遺憾でございます。弊社といたしましては、今後とも再発防止策を含め調査、対策を行ってまいります。
ご迷惑をお掛けいたしますことをお詫び申し上げます。

(後略)

 この名刺メーカーにはナンの罪もないのですが、今後「サイセイ(再生)」という名称を全て削除するのは、当然な事であります。

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 今回の製紙業界大手7社による古紙偽装ですが、日本の大企業のちょっとささやかだけど環境福祉などを意識した崇高な「慈善活動」が、実はいかに自社イメージ戦略に基づく薄っぺらなモノなのか、その実態の一端をこれほどコミカルに照らし出した、水を浴びせた事件はないのでしょう。

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●大企業様、下請け零細企業やパート労働者にも、もう少し愛とお金を分けてください

 大企業にいいたい。

 社食でメタボオヤジのダイエットメニューで「テーブル・フォー・ツー」も、どこまで古紙が使われていたのかよくわからない「古紙再利用の名刺」も、私には同根に思えます。

 もちろん前者はなんら法に触れていませんし、社会的モラルにも抵触している後者と同列に扱うことは社会通念上違和感を持たれる読者もおられるでしょう。

 しかし私に言わせればその行為を大企業のPRに利用しているという点で両者は通底しているのです。

 そのような活動をするならば黙して粛々とすすめるほうがエレガントであります。
 
 本当にささやかでも環境福祉に貢献するための活動を支援したいのなら、いちいちそれを自社の参加を自社の新聞コラムで触れたり、名刺に「この名刺は古紙を再利用しています」と恥ずかしくもなく謳ってしまうのは、どうにもこうにも、天の邪鬼な私の目にはエセっぽく映ってしまうのであります。

 日本の大企業の「思いやる気持ち」はどうにも胡散臭く思えるのです。

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 それにね。

 遠くアフリカの子等や熱帯雨林を「思いやる気持ち」があるのなら、その百分の一でもいいから、恵まれないこの国の下請け零細企業やパート労働者にも、もう少しこっちにも愛とお金を分けてくださいませ。

 大企業様よ、おねげえしますだ(苦笑。



(木走まさみず)