木走日記

場末の時事評論

日本の外務省はどの国の国益を守ろうとしているのか〜「ギョーザ事件で、中国とはけんかできないことがはっきりしたのではないか」(外務省幹部)

●早くもデタラメが明らかになった「事件処理の全過程で、いかなる殺傷武器も携帯、使用していない」中国当局発言

 中国が国際社会でしかるべきステークホルダーとしての立場を維持したいのならば、少なくとも今回のチベット騒乱において、事後にチベットから海外メディアを閉め出したり、国際調査団の受け入れを拒否したりしてはいけません。

外国人記者を徹底排除 中国、チベット暴動の拡大で
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2008032101000459.html

 ほとんど中国当局の一方的な報道以外、公式な報道がなされていないこと自体、この問題における国際世論を中国政府不信に導いていることを中国当局は強く自覚することです。

 インターネットが普及した今日、前時代的な報道管制をいかに強めても、真実は漏れ伝わるようになっているのです。

 例えば発生当時、チベット自治区主席は次のように豪語していました。

 中華人民共和国駐日本国大使館公式サイトから。

チベット自治区主席、ラサの殴打・破壊・略奪・放火事件について語る

2008/03/18

(前略)

憤りを感じるのは、ダライ集団と西側諸国の一部の人々が、暴徒の殴打・破壊・略奪・放火行為を「平和的デモ」と言いくるめ、我々が人民大衆の生命・財産の安全と社会の秩序を著しく害するこの暴力行為を法に基づいて取り締まっていることを「平和的デモを鎮圧」するものと言いくるめていることだ。まったく黒白転倒、言語道断だ。このような暴挙を容認する民主・法治国家が世界のどこに存在するかお聞きしたい。この事件を処理する過程において、我々の公安と武装警察が極めて自制的な態度をとり、法に基づく法執行、文明的な法執行を貫いたことも、ここで皆さんに明らかにしたい。事件処理の全過程で、いかなる殺傷武器も携帯、使用していない。

http://www.fmprc.gov.cn/ce/cejp/jpn/xwdt/t415765.htm

 この「事件処理の全過程で、いかなる殺傷武器も携帯、使用していない」発言ですが、そのご欧米NGO団体などから、今回の暴動の犠牲者の死体に明らかに銃傷があることが確認できる写真が公表されるにいたり、まったくの虚偽であることが判明しています。

遺体写真に銃創 ロンドンの国際人権団体が公表
http://sankei.jp.msn.com/world/china/080319/chn0803191052003-n1.htm

 18日の声明で「事件処理の全過程で、いかなる殺傷武器も携帯、使用していない」とした中国当局ですが、翌19日には国際人権団体に動かぬ証拠を公表され、次の20日には、国営新華社を通じて「四川省アバ・チベット族チャン族自治州で16日に騒乱が起き、警察官の発砲で「暴徒」4人が負傷」、威嚇ではなく発砲行為が行われていたことを間接的に認めたわけです。

2008/03/21-01:33
警官発砲で「暴徒」4人負傷=新華社が異例の訂正−中国四川省

 【北京20日時事】中国国営新華社通信は20日、四川省アバ・チベット族チャン族自治州で16日に暴動が起き、警察官の発砲で「暴徒」4人が負傷したと報じた。警察当局者は「自衛のためだった」と主張している。
 新華社チベット自治区ラサの暴動でも威嚇射撃があったと伝えていたが、当局の発砲で負傷者が出たと認めたのは初めて。
 新華社はいったん、「警官が暴徒4人を射殺」と速報し、一報も出したが、25分後に「4人負傷」と訂正した。新華社がこうした訂正を行うのは極めて異例。

http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=2008032100016

 一部にはこの四川省の暴動では少女を含め23人が当局によって射殺されたとの情報もあるようですが、NGO団体の発表であり中国側はこの事実を認めてはいません。

16歳の少女含む23人が死亡と発表
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp1-20080321-338210.html

 中国当局が外国人記者を徹底排除しているので、真相は藪の中ですが、この新華社電により、はからずも今回の騒乱がチベット自治区以外の四川省などの他の地域にも拡大していることを中国当局が初めて認めたことになります。

 ・・・



●事態を憂慮する国際世論〜北京五輪開会式ボイコット論まで飛び出し危機感つのらす中国外務省

 このようなチベット騒乱の事態の悪化を受け、アメリカのライス国務長官は、中国の楊外相に直接電話にて、これまでより「強い調子」で中国に抗議行動への対処に関する自制を促します。

国務長官チベット騒乱で中国外相に懸念表明

 【ワシントン=丸谷浩史】ライス米国務長官20日、中国チベット自治区での大規模騒乱に関して記者団に「現状を懸念している。昨夜、中国の楊外相と電話で話し、自制を促した」と語った。同時に「ダライ・ラマ14世は独立を求めない立場を明確にしている」と述べ、中国政府にダライ・ラマ14世との対話による平和的解決を求めた。

 ペリーノ米大統領報道官は記者会見で、米中外相の電話協議はブッシュ大統領の指示だと明らかにした。そのうえで「米国はチベットの出来事を注視していく。米国は市民の安全を懸念している」と表明した。

 国務省のマコーマック報道官によると、ライス長官は電話協議で、これまでより「強い調子」で中国に抗議行動への対処に関する自制を促した。ただ同時にマコーマック報道官は「すべての勢力に暴力をやめ、対話を求めている」とも付け加えた。(10:45)

http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20080321AT2M2100E21032008.html

 また英国のブラウン首相は、やはり直接電話にて、中国の温家宝首相に「5月に訪英するダライ・ラマとの会談の意向を伝えた模様です。

ブラウン英首相、ダライ・ラマと会談の意向
2008年03月20日19時47分

 英国のブラウン首相は19日の下院で、5月に訪英する予定のチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と、首相として初めて会談する意向を明らかにした。また首相は19日、中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相と電話会談し、対話を強く求めるとともに、ダライ・ラマとの会談の意向を伝えた模様だ。

 ブラウン氏がダライ・ラマ14世と会談する意向を示したことについて、中国外務省の秦剛・副報道局長は20日、「重大な懸念」を表明し、会談の中止を求めた。

http://www.asahi.com/international/update/0320/TKY200803200179.html

 また米議会においては、米超党派議員団が五輪ボイコット求める書簡を下院議長に提出しました。

五輪ボイコット求める書簡 米超党派議員が下院議長に

2008年03月21日22時51分

 対中強硬派のローラバッカー米下院議員(共和党)は21日、台北市内で記者会見し、超党派議員6人の連名で北京五輪のボイコットを求める書簡をペロシ議長に送ったことを明らかにした。

 台湾総統選にあわせて訪台した同議員は「チベットの人々を弾圧した中国当局は世界最悪の人権抑圧者」と非難。「権利を求め勇敢に戦うチベットウイグル、そして中国の人々のために米議会は沈黙を守るべきではなく、選手団を派遣すべきではない」と訴えた。
http://www.asahi.com/international/update/0321/TKY200803210378.html

 この議員達の書簡に呼応するように、ペロシ米下院議長は21日ダライ・ラマ14世と会談、「チベットでの事態は世界の良心への挑戦だ」と中国政府を強くけん制します。

米下院議長がダライ・ラマと会談、チベット情勢「良心への挑戦」

 【ニューデリー=小谷洋司】インド訪問中のペロシ米下院議長は21日、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と印北部ダラムサラで会談した。亡命チベット人らを前に演説したペロシ議長は、チベット情勢を巡る中国政府の対応を「弾圧」と呼んで厳しく批判。「チベットでの事態は世界の良心への挑戦だ」と中国政府を強くけん制した。

 騒乱の発生以来、海外要人がダライ・ラマと会談したのは初めて。中国政府はダライ・ラマが暴動を扇動していると主張しており、ペロシ議長が会談したことで米国への反発を強めそうだ。

 ペロシ議長は「自由を愛する人々が中国政府の弾圧に声を上げないなら、人権を語る資格を失う」と指摘。「世界はチベット情勢の真相を知る必要がある」と語り、国際社会が騒乱の原因究明に乗り出すよう求めた。(21日 21:02)

http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20080322AT2M2103221032008.html

 また国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は、北京五輪の開会式をボイコットするよう呼び掛け、それにフランスのクシュネル外相が「検討する用意がある」と明らかにします。

 五輪=国境なき記者団北京大会の開会式不参加を呼び掛け

[パリ 18日 ロイター] 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は18日、各国の関係当局者らに対し、8月に行われる北京五輪の開会式をボイコットするよう呼び掛けた。チベット自治区の騒乱に対する中国政府の態度を非難する動きで、フランスは検討する可能性を示唆している。

 パリを拠点とする記者団は声明で「中国は五輪開催地に選ばれた2001年に交わされた約束を尊重していない。それどころか、中国政府はチベットでのデモを容赦なく鎮圧し、完全な情報統制を強制した」と非難。

 北京大会自体のボイコット呼び掛けは避けているが、記者団は「世界の政治指導者はこれ以上、この状況を前に沈黙していることはできない」と主張。開会式のボイコットによって、中国政府のやり方に対する不満を表明すべきだとしている。

 これに対し、フランスのクシュネル外相は記者会見で、北京五輪のボイコットには賛同しないが、国境なき記者団が提唱した開会式不参加については検討する用意があることを明らかにした。

http://jp.reuters.com/article/sportsNews/idJPJAPAN-30902920080319

 クシュネル外相は後に発言をトークダウンしますが、一連の国際世論ならびに各国要職者の憂慮発言に、中国外務省はそうとう危機感をつのらせているようです。

中国逆ギレ、外務省の副報道局長「他の国だって同じ事する」

(前略)

 チベット自治区を皮切りに四川省甘粛省など各地に抗議デモと治安当局による鎮圧が拡大する「チベット騒乱」。イライラが募ったか、中国外務省の幹部が定例会見でキレまくった。

 会見したのは秦剛副報道局長。イタリア人記者がローマ法王ベネディクト16世が「対話の道を選ぶべき」と憂慮の念を示したことについてコメントを求めると、いきなり激高した。

 「イタリアのジェノバで警察がデモ隊に何をしたのか、振り返ってみたらどうか」。質問には直接答えず、2001年にジェノバで開かれた主要国首脳会議(サミット)で起きた衝突でデモ参加者が警察に射殺されたことを例に挙げる形で逆質問。「暴力を容認したら法も人権もない」と、あくまで暴動鎮圧の正当性を主張した。

 ポルトガル人記者が「捜査状況は」と問うと「アナタの国で暴動が発生したらどうする。警察は何もしないのか? 同じ措置を講じるはずだ」とたたみ掛ける。日本人記者が「平和的デモなら認めるのか」と質問すると、「憲法を読めば分かるだろう。言論の自由はあるが(言論の範囲は)関係法に合致している必要がある」と強調した。

 さらに米国テレビ記者が「なぜ現場に記者を行かせないのか」と批判すると、「一部の報道は客観的ではない。不公正だ」と猛然と反論。「そのような報道なら現地に行こうが行くまいが関係ない」。ほとんど“ケンカ腰”状態だった。

 一方でラサ市でのデモ隊側の死傷者数は「状況を把握していない」。ラサ以外の死傷者も「分からない」と客観的データを示さず。ダライ・ラマ14世については「チベット独立を放棄していない」として対話を拒否する構えを明確にした。

(後略)

http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200803/sha2008032109.html

 「一部の報道は客観的ではない。不公正だ」と猛然と反論、「そのような報道なら現地に行こうが行くまいが関係ない」と中国外務省秦剛副報道局長は言い切ったそうであります。

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 本当にかような国に平和の祭典オリンピックを開催する能力・資格があるのでしょうか。



●日本の外務省は、どの国の国益を守ろうとしているのか

 さて、ローマ法王ベネディクト16世までが「対話の道を選ぶべき」と憂慮の念を示している中で、我が日本国の政府・外務省はいかなる見解を表明しているのでしょうか。

 今日(22日)の朝日新聞紙面記事から。

チベット問題、対応苦慮する福田政権
2008年03月21日21時17分

 中国チベット自治区の騒乱をめぐり、福田政権が難しい対応を迫られている。福田首相は「日米同盟とアジア外交の共鳴」を掲げるが、欧米諸国を中心に「人権問題」に敏感な国際世論との間で板挟みになる可能性もある。5月の胡錦濤(フー・チン・タオ)国家主席の来日を控え、中国製冷凍ギョーザによる中毒事件に続く難題。ただ、中国側が「内政問題」と主張している以上、日本側からは手を出せないのが実情だ。

 「(北京五輪について)フランス外相が言ったと聞いているが、そういう影響を与えない形で中国と関係の方が努力することが必要だ」。首相は21日、記者団に、フランス外相が北京五輪開会式のボイコットの可能性を示唆したことに触れつつ、日本としては一線を画す考えを示した。

 日本政府は、50を超す多くの民族を抱える中国政府は独立につながる民族運動には神経質にならざるをえないとみる。「(中国側が)絶対譲歩できない問題で攻めても日中関係が悪くなるだけ。安倍、福田両政権でようやく回復した関係を壊すべきではない」(政府関係者)との考えが強く、事態が沈静化するなら、ことを荒立てたくないというのが本音だ。

 首相は21日、胡主席の来日に関連して「必要なことがあれば意見を申し上げることもあるかも知れないが、状況次第だ」と記者団に語った。政府内には「日本は中国と相互依存関係にある。ギョーザ事件で、中国とはけんかできないことがはっきりしたのではないか」(外務省幹部)との見方もあり、首脳会談での扱いは難しそうだ。

 一方、政府は騒乱発生直後の15日、邦人保護のため在北京大使館員を現地に派遣しようと中国政府に打診したが「内政問題」を理由に拒否された。携帯電話での情報収集や帰国した旅行者から話を聞くなどして、実態把握に追われているが、首相周辺は「間接的な情報に頼らざるを得ず、状況がよく分からない」と困惑している。

http://www.asahi.com/politics/update/0321/TKY200803210366.html

 「(北京五輪について)フランス外相が言ったと聞いているが、そういう影響を与えない形で中国と関係の方が努力することが必要だ」

 我らが福田首相北京五輪開会式ボイコットについては、日本としては一線を画す考えを示したそうです。

 「(中国側が)絶対譲歩できない問題で攻めても日中関係が悪くなるだけ。安倍、福田両政権でようやく回復した関係を壊すべきではない」(政府関係者)という中国への配慮があるわけです。

 中国とはことを荒立てたくないというのが本音のようですが、事なかれ主義の何とも情けない発言であり、毒餃子問題のときも批判しましたが、なぜ福田政権は中国批判をできないのか、少なくとももう少し「強い調子」で事態を憂慮し中国政府に抑制を促すことはできないのでしょうか。

 特に外務省幹部のこの発言は看過できません。

「日本は中国と相互依存関係にある。ギョーザ事件で、中国とはけんかできないことがはっきりしたのではないか」(外務省幹部)

 経済的に中国様に日本は依存しているから、日本は「中国とはけんかできない」と外務省は言っているわけです。

 それが「ギョーザ事件ではっきりした」と言うのです。

 これがこの国の外務省幹部の発言とは、あきれてモノが言えません。

 毒餃子問題で中国当局の出鱈目な「中国国内で混入した可能性は極めて低い」会見を「極めて前向き」と評価するトンチンカンな福田首相に、言うに事欠いて、その毒餃子事件をもってして「ギョーザ事件で、中国とはけんかできないことがはっきりしたのではないか」と暴論を吐く外務省幹部。

 私は嫌中派でも媚中派でもありませんが、中国にたいしては、日本の外交は毅然とした是々非々で望むべきだと考えております。

 外交とは原則論だけではうまくいかないことは認めますが、ときに悪いことは悪いとはっきり指摘する姿勢も示すことが必要です、外交には幅が必要だからです、経済依存から「中国とはけんかできない」という決め付けを外交当局が有することは、この国の対中政策をせばめてしまうリスク因子の筆頭であります。

 「中国とはけんかできない」というたわけた理由で、中国のご機嫌ばかりとるような外務省ならば、この国の民にとりこんなお役所は存在価値はないというものです。

 日本の外務省は、どの国の国益を守ろうとしているのでしょうか。



(木走まさみず)