木走日記

場末の時事評論

赤福餅の「不正行為」に関しての一愚考

 私の行きつけの飲み屋は刺身がおいしいので近所で有名な店であります。

 聞けば板長が毎朝築地に自ら仕入れに行っているとのこと。

 小さい店なのに新鮮な魚を毎日出すとなると実は原材料の管理はとても大変であり、売れ残った刺身は、鮮度が落ちてしまうので、翌日には煮物などにして前菜として再利用したりして工夫しているとのことでした。

 私の実家も商売をしていたので、この食べ物を扱う店が余剰の生鮮食品や原材料をどう生かして無駄をなくすかという工夫でとても苦労していることはよく理解できます。

 たとえばラーメン屋さんなら前日の残ったライスを翌日の炒飯用に再利用するなど、用途によっては翌日以降も利用できる食材は決して無駄にしないように工夫しているのです。

 そこには、単に経済的な理由だけではなく、食べ物をお客様に提供することを生業としている職人達にとって、食材はどれも貴重で大切なものであり、決して無駄にしないと言う強い意志が感じられるほどです。

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 本日(22日)の朝日新聞電子版記事から。

赤福、売れ残りの餅、7割を再利用 1%と虚偽の説明
2007年10月22日12時51分

 餅菓子の老舗(しにせ)「赤福」が売れ残りの商品をあんと餅に分けて再利用していた問題で、赤福が回収した餅の7割近くを再利用していたことが農林水産省の立ち入り検査でわかった。同社は当初、売れ残りの再利用自体を否定。その後に再利用を認めた際も「餅の再利用は全体の1%で、99%は焼却していた」と虚偽の説明をしていた。売れ残りや未出荷の商品を、冷凍せずに翌日の日付を刻印して再出荷することもあったという。

 売れ残りや未出荷の商品をあんと餅に分ける作業は「むきあん」「むき餅」と社内で呼ばれていた。農水省によると、「むき餅」の赤福餅への再利用は遅くとも00年ごろには行われ、60〜90%(平均68%)の餅が再利用されていたという。

 また、赤福はこれまで、売れ残りや未出荷の商品を再利用する際は、いったん冷凍したうえで解凍すると説明していたが、冷凍せずにそのまま翌日の日付を製造日として刻印して再出荷していたことを認めた。売れ残りの回収品や冷凍した品ではなく、通常の工程で出荷する商品についても、あらかじめ翌日の製造日を刻印して、消費期限を1日延ばしていたこともわかった。

 さらに同社は、冬場には保湿効果のある糖類加工品を使用していたが、原材料に表示していないことも新たにわかった。

 農水省が「すべての不正行為を出し切ってほしい」と要請したのに対し、同社が19日と21日の再調査でいずれも認めた。同省はこれらの不正行為を踏まえ、11月中旬に提出を求めている改善報告で再発防止策を講じるよう指示した。
http://www.asahi.com/national/update/1022/TKY200710220123.html

 これね、確かに現在のものさしである食品衛生法で計れば「不正行為」なんでしょうけど、私は「赤福」が売れ残りの商品をあんと餅に分けて再利用していた問題は、情状酌量の余地が多分にあると思うのです。

 赤福は、創業300年の老舗で、皇大神宮伊勢神宮内宮)前、五十鈴川のほとりで販売されたとされる江戸時代の1707年(宝永4年)が創業となるそうです。

 ならば、記事にある「「むき餅」の赤福餅への再利用は遅くとも00年ごろには行われ、60〜90%(平均68%)の餅が再利用されていた」というのは、300年の歴史から考えるとちょっと疑わしいというか、今より食糧事情が悪かっただろう創業時・江戸時代からの慣習だった可能性はなかったのでしょうか。

 私が幼少の頃などは、正月のお供えで各家庭で飾っていた鏡餅などは、古くなってカビが生えても正月過ぎたら、水につけたり焼いたりしておいしくいただいたものです。

 「むき餅」の赤福餅への再利用は、ずっと昔からされていたのではないでしょうか、少なくとも江戸時代、明治時代に売れ残りの餅を安易に捨てていたなどは、常識的にいって考えづらいのであります。

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 赤福は確信犯であると考えますし、一連の報道によれば事実の悪質な隠蔽もあったようで社会的責任を追及されるのは致し方ないでしょう。

 その意味で「無期限の営業停止処分」という食品を扱う会社としては存続には致命的とも思われる行政処分を与えられたわけです。

 赤福経営者の落ち度と言えば、新しい法律により餅の再利用が「不正行為」になったときに適切な対応をとらず、過去の慣習をひきずって適法な対応を怠った点にあると思います。

 時代の変化に対応できなかったのです。

 製造年月日や賞味期限を明記する責任のある今の時代では、売れ残りの餅の同一製品への再利用など、言語道断の「不正行為」詐欺行為にあたるのでしょう。

 ただ私が少し気の毒に思うのは、売れ残りの餅を再利用する行為はおそらくかつては、当たり前の慣習であり、お米やお餅は決して捨てないというのは、日本の広く認められた「食文化」であったのであろう点で、逆に売れ残りを焼却処分するような乱暴な「文化」こそが、最近のファーストフードや外食チェーンに代表される欧米流衛生管理法がもたらした大量消費的な「潔癖」な「文化」なんじゃないのか、という少し寂しく思う点なのであります。

 赤福の「不正行為」を、一連の悪質な不二家ミートホープの偽装問題と同列で報じるメディアなのでありますが、日本の食文化の歴史的背景を考えると、個人的にはどうしてもこの老舗の饅頭屋に少し同情してしまうところがありますです。



(木走まさみず)