木走日記

場末の時事評論

倫理綱領実践規程に違反しているマスメディアの世論調査報道〜「朝日RDD」方式って何なんだよ?

●なんともバラバラの結果でどれが本当なのかわからない大新聞の全国緊急世論調査(電話)〜安倍ちゃん好き嫌い度がそのまま公正なはずの「世論調査」の結果に反映しちゃっているわけですが(苦笑)

 さて27日夜から28日にかけて日本の大新聞・通信社5社は一斉に全国緊急世論調査(電話)による改造内閣支持率調査を実施したのであります。

【朝日】

改造内閣支持33%、不支持なお53% 本社世論調査
2007年08月28日22時48分
http://www.asahi.com/politics/update/0828/TKY200708280452.html

【読売】

改造内閣支持率44・2%、参院選後比12・5ポイント増
安倍改造内閣
(2007年8月28日21時27分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070828i313.htm

【毎日】

毎日新聞世論調査:内閣支持33%、不支持52%
毎日新聞 2007年8月29日 3時00分 (最終更新時間 8月29日 3時20分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070829k0000m010171000c.html

【産経(共同)】

安倍改造内閣、支持率40.5% 共同通信調査
(2007/08/28 19:09)
http://www.sankei.co.jp/seiji/shusho/070828/shs070828004.htm

【日経】

安倍内閣支持率41%、首相続投「反対」49%・日経世論調査
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070829AT3S2802128082007.html

 余談ですが、緊急世論調査のときしばしば他紙から出遅れる産経新聞なのでありますが、今回も独自調査は間に合わず共同通信調査を転用いたしております。

 がんばれ、フジ・サンケイ、早く自前の保守本流世論調査」の結果を出したまえ!(爆)

 ・・・

 それはともかく、各紙世論調査結果を内閣支持率高い順(不支持率低い順)に表でまとめてみました。

メディア 支持率 (前回比) 不支持 (前回比)
【読売】 44.2% (+12.5) 36.1% (−23.8)
【日経】 41.0% (+13.0) 40.0% (−23.0)
【共同】 40.5% (+11.5) 45.5% (−13.5)
【毎日】 33.0% (+11.0) 52.0% (−13.0)
【朝日】 33.0% ( +7.0) 53.0% ( −7.0)

 なんともバラバラな世論調査結果であります。

 まあいつもながらなのではありますが、なんともメディアごとに結果がバラバラでどれが本当なのかわからないのであります。

 ・・・

 それにしてもどうでしょう、この見事な結果は(苦笑)

 これですね、このまま各メディアの安倍内閣へのスタンス、安倍ちゃん好き嫌い度がそのまま公正なはずの「世論調査」の結果に反映しちゃっているようにも見えるわけですね。

 私たち読者としては、しっかりリテラシーしなければならないのは、【読売】【日経】ではご覧の通り支持が不支持を上回り、逆に【共同】【毎日】【朝日】では不支持が支持を上回っており、特定のメディア一紙の結果だけを頼っては世論の動向を見間違う可能性があることです。

 特に最高の支持率の【読売】と最低の支持率の【朝日】では、支持率で11.2ポイント、不支持率で17.1ポイントと、統計上の誤差では済まない大きな差が生じています。

 各紙の世論調査の調査方法および時期ですが、

【朝日】27日夜から28日夜にかけておこなった全国緊急世論調査(電話)
【読売】27日夜から28日にかけて、緊急全国世論調査(電話方式)
【毎日】27、28両日、電話による全国世論調査
【共同】27日夜から28日にかけて全国緊急電話世論調査
【日経】27―28日に実施した緊急世論調査

 同じ時期に同様な調査をしているはずなのになぜメディアによって、こんなにも結果が異なってしまうのでしょうか?
 
 今回は大新聞の全国緊急世論調査(電話)ってやつを徹底検証してみましょう。



●なぜ調査方法を明記しないのか〜明らかに倫理綱領実践規程に違反しているマスメディアの世論調査報道

 当ブログはメディア関係者も覗かれているようなので、まず各メディアに申し上げたいクレームがあります。

 かねがね思っていることなのですが、自社で行った世論調査であれ、通信社などの他社の世論調査を転用するのであれ、世論調査結果を記事として掲載するときには、最低限の調査方法(調査の目的、調査の依頼者と実施者の名称、母集団の概要、サンプリング・デザイン、標本数、調査の実施時期、データの収集方法、回収率、質問票など)の説明は是非明記していただきたいです。

 今回の記事では、電話による調査という事実以外は、調査方法の詳細や分母数(人数)すらまったくわからないのですが、これでは『日本世論調査協会倫理綱領実践規程』に違反しており、報道モラルに反しています。

 記事スペースの問題もあることは理解していますが、マスメディア各紙自らが法人会員にも入っている『日本世論調査協会』の倫理綱領実践規程に違反していることは明らかです。

 ルールは是非守っていただきたいのです。

財団法人 日本世論調査協会
http://wwwsoc.nii.ac.jp/japor/

 このサイトの『日本世論調査協会倫理綱領実践規程』によれば、「4.調査の報告書には、次の事項を明記しなければならない。」とあります

日本世論調査協会倫理綱領実践規程

(中略)

4.調査の報告書には、次の事項を明記しなければならない。
イ)調査の目的
ロ)調査の依頼者と実施者の名称
ハ)母集団の概要
ニ)サンプリング・デザイン
ホ)標本数
ヘ)調査の実施時期
ト)データの収集方法
チ)回収率
リ)質問票

 この実践規定は「調査の報告書」の規定であり、限られたスペースの報道記事にすべてを当てはめることは物理的に難しいのはよく承知していますが、少なくとも調査方法とハ)母集団の概要 ニ)サンプリング・デザイン ホ)標本数ぐらいは明記すべきです。

 ・・・

 今回は緊急ということもあってでしょうか、各社どの記事にも調査方法の詳細は説明されていないのですが、申し合わせでもあったのでしょうか、気持ち悪いです。

 毎回調査方法の詳細を載せることが難しいならば、少なくとも各紙のネットサイトで自分たちの世論調査の方法を説明しているページを用意すべきです。

 読者が調査方法を知る手段を用意してほしいのです。

 ぜひお願いいたします。

 ・・・



●RDD方式はわかるけど、なんでしょう、「朝日RDD」方式って(苦笑

 しかたがないので同様の世論調査をしている過去記事の中で調査方法を明記しているものから当該箇所を引用しましょう。

 読売の6月8日の記事から。

内閣支持率は急落、32・9%…読売世論調査

(中略)

 【調査方法】6月5日から7日まで実施。全国の有権者を対象にコンピューターで無作為に作成した番号に電話をかけるRDD方式。有権者在住世帯判明数1593件、有効回答数1035人、回答率65%。

(2007年6月8日2時7分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6100/news/20070608i101.htm

 この記事でわかることは、読売では内閣支持率の調査においては「全国の有権者を対象にコンピューターで無作為に作成した番号に電話をかけるRDD方式」を採用していること、さらに「有効回答数1035人」とあり、おそらく回答1000人を目標値として調査を実行している点であります。

 このRDD方式ですが、内閣支持率調査に関しては他紙もほぼ同じ形式の調査でかつ有効回答数目標も1000人と調査規模も横並びであるようです。

 で、RDD方式とは、ランダム・デジット・ダイヤリング方式のことであり、RDS(ランダム・デジット・サンプリング)方式とも呼ばれています。

 以下のサイトの説明がとてもわかりやすいので失礼して引用ご紹介。

1.Random DigitSampling とは

 RDS(ランダム・デジット・サンプリング)とは、米国で先行導入された、電話調査におけるサンプリング手法のひとつです。これは、ある一定の法則に従って市外局番と市内局番の下に4桁の乱数をコンピューター上で構築して発信を行うもので、RDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)とも呼ばれます。
 米国においては、訪問調査法を採用しづらい環境があったことと、一般世帯への電話機普及が早い段階から進んだのに伴って、電話調査法が早くから調査の主流となっていました。その中で、RDSによる調査は、今までの訪問割当法に縛られていた調査法からランダムサンプリングを実現させる画期的手法として調査学会に強い衝撃を与えたのです。当時は、オートダイヤル(注1)を行うマシンがなかったため、手動で発信して調査をするほどこの調査法への意気込みは強く、ハリスやギャラップもこの当時から採用していたようです。
 現在は、RDS調査に限ったことではないのですが、米国内での電話に対するモラルやプライバシーが社会的に問題となり過敏になっているため、電話調査を行っている各調査機関も州規制の動向をとらえながら、慎重に進めているのが現状です。
 日本においても、米国と同じくランダム・サンプリングへの追求から電話番号を乱数で構築するRDSの研究が開始されており、1996年7月に国内で初めて毎日新聞社の全国世論調査にRDS調査が採用されました。その後、1999年4月の東京都知事選挙において朝日新聞東京新聞がそれぞれ同手法を採用しました。
(筆者は1992年から研究を開始し、全国電話番号構成の調査と番号構築の方法・オペレーション技術に関する導入実験を経て、 1993年末に通信ネットワーク商品の認知度調査に初めて採用した)

(注1)調査員が手動でダイヤルするのではなく、システムが自動的に発信して相手につなげるもの

Researcher情報交流街 より抜粋引用
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/7166/rds/rds_p1.htm

 早い話が乱数をコンピューター上で構築して出鱈目のしかし存在する誰かの電話番号を次々と発生させて電話調査を行うって方法なのであります。

 これだと安上がりで無作為な抽出が出来るのでありますよね。

 で、朝日の7月27日の記事から。

調査と推計の方法
2007年07月27日

 全国の選挙区で24、25の両日、コンピューターで無作為に電話番号をつくる「朝日RDD」方式で情勢調査をした。対象者の選び方は無作為3段抽出法。回答者の目標数は改選数1の選挙区1000人、改選数2の選挙区1000〜1200人、改選数3、5の選挙区1500人。

 電話番号サンプルのうち、有権者のいる家庭にかかったのは全国で計8万2760件、うち5万1944人から有効回答を得た。回答率は63%。

 選挙区では、調査で得られた支持率から統計学的な方法で得票率を推計し、さらに各候補者の支持の内訳を分析して候補者の強弱を判別し、当選確率を算出した。

 比例区では、党派別支持率と候補者支持率から、選挙区単位で党派別の得票率を推計し、これを積み上げて全国の推計得票率とした。誤差幅を見込んでドント式のシミュレーションをし、獲得議席を推計した。

 選挙区、比例区とも調査データに本社取材網による情報を加え、総合的に分析した。
http://www2.asahi.com/senkyo2007/special/TKY200707260479.html

 これは今回の参院選の獲得議席予測を朝日が行った際の「調査と推計の方法」の説明記事でありますが、朝日は「コンピューターで無作為に電話番号をつくる「朝日RDD」方式で情勢調査」したとあります。

 ところで、なんなんでしょう、「朝日RDD」方式って(苦笑

 ・・・

 やれやれまったく朝日ときたら統計解析にまで独自に「朝日」ブランド付けるのか(苦笑



●「朝日RDD方式」:800万朝日新聞読者に限定した抽出方法には批判もある〜ジャーナリスト古澤襄氏のメルマガより

 この「朝日RDD」方式ですが、上記記事によれば「対象者の選び方は無作為3段抽出法」とあり、通常のRDD方式なら無作為2段抽出法が多く採用されているのでありますが、他紙より抽出が1段多いところが朝日らしいというか朝日臭いのです(苦笑)

 さて、ネット上でいくら調べても「朝日RDD」方式の統計学的説明をおさえることができないのであります(どなたかURL等情報提供希望します)が、ジャーナリストの古澤襄氏がメルマガで貴重な発言をされていました。

 失礼して当該箇所を抜粋してご紹介。

(前略)

 1980年代ごろからRDD方式という電話世論調査が日本に入ってきた。いち早く飛びついたのは朝日新聞。RDDとはRandom Digit Dialing (乱数番号法)の略で、コンピューターが不作為に固定電話番号を抽出してくれる。

あとは電話で調査票に答えて貰えば良い。手間も省けるし、カネもかからないとあって、爆発的にRDD方式が世論調査の主流となった。

RDD方式の良い点は、電話帳に掲載されていない番号までコンピューターが選んでくれることであろう。従来方式では電話帳に番号を掲載しない人々が、調査対象からもれてしまうので、全国の「有権者の縮図」としては不適切という欠点があった。

ついでながら朝日新聞は「朝日RDD方式」をとっているが、800万読者に限定した抽出方法には批判もある。

(後略)
http://www.melma.com/backnumber_108241_2280065/

 なんだと、「ついでながら朝日新聞は「朝日RDD方式」をとっているが、800万読者に限定した抽出方法には批判もある。」ですと。

 もしかして他紙より抽出が1段多いのって朝日新聞「読者に限定」してんのか!?(驚

 ・・・

 ただ乱数だけの電話番号では地域が偏ったり、性別や職業などの属性が偏ったりしてしまうので、各紙はRDD方式を用いるときには、人口密度やいろいろな条件を反映すべくそれぞれ工夫して抽出しているのであります。

 別に朝日だけではなく他紙の抽出方法も不明なことは不明なのでありますが、しかし「朝日RDD方式」がもし古澤襄氏ご指摘の今も朝日読者限定調査だとしたら、これはこれで驚きなのであります。



●各メディアは世論調査の調査方法を情報開示せよ

 「RDD方式」だか「朝日RDD方式」だか知りませんが、各メディアはどうか世論調査の調査方法を情報開示してほしいです。

 毎回毎回ここまで世論調査の結果が異なるのはどうみてもおかしいですし、だいたい安倍大嫌いな朝日新聞が電話でおそらく安倍大嫌いな読者が多いだろう朝日新聞読者に「朝日新聞ですがあなたは今回の安倍改造内閣を支持しますか」なんて聞いたならば、結果に偏りが出てしまってもしょうがありますまい。

 そもそも「朝日新聞読者の声」が「国民の声」を代表している保証などまったくないのであります。

 ・・・

 さきに紹介した日本世論調査協会は「世論調査・市場調査は明るい社会の羅針盤」 と唱えています。

 そのためにも日本世論調査協会は、マスメディアなどの法人会員に厳しく『倫理綱領実践規程』を定めその遵守を義務付けています。

 世論調査などの結果を報告するときには、その調査方法を明記しなければならない、

 と、上述のとおりはっきり義務付けているのです。

 大新聞はなぜ調査方法を明記しないのか?

 明らかに倫理綱領実践規程に違反しているマスメディアの世論調査報道なのであります。

 ・・・

 それにしても、「朝日RDD方式」って何なんだよ(苦笑)



(木走まさみず)