木走日記

場末の時事評論

年金不明問題:「やれやれ、非論理的国民感情ってやつは、手に負えないなあ」〜国家公務員の諸君、君たちは「公僕」なのですぞ!

 現役国税庁キャリアのA氏と電話で話をする機会を得ました。

 たいへん興味深い内容なのですが、もちろんここでご紹介する論はあくまでもA氏の個人的意見であることをおことわりしておきます。

■正直、社保庁の体たらくはホントはた迷惑だよ

木走「社保庁の5000万件年金不明問題が国民の大きな怒りを買っているわけだが、同じ国家公務員としてまずはどうよ、この問題」
A氏「先日、住宅ローンの更新で銀行にいって手続きをしたんだが『職業欄』に『国家公務員』と書き込んだとき、担当銀行員が一瞬私を睨んだ気がしたんだ(苦笑 税金を何兆円もわんさか投入してようやく立ち直った大銀行の人たちに睨まれる筋合いはないと少しばかり情けなく思った(苦笑)が、しかし公務員に対する風当たりが強くなったのにはまいっているね、正直、社保庁の体たらくはホントはた迷惑だよ」
木「社保庁17500人の職員の扱いだが、民営化する自民党案と、国税庁に移す民主党案があるが、当事者としては民主党案をどう評価する? 税金の徴収のプロに任せたほうがいいという発想のようだが」
A「国税庁として社保庁職員を引き取るなんて、想像もしたくないね、勘弁してほしい。曲がりなりにも国民の信頼を維持している内国税の賦課徴収を担当する行政機関である国税庁に、不純物を混ぜないでほしい(苦笑 第一、事実上国民の信頼が崩壊した年金徴収制を過去にさかのぼり立て直すなんてことは、我々を持ってしても不可能とは言わないがとても至難なことだよ」

■不明年金を国税庁の過去の納税記録と照合するというアイディアについて

木「縦割り行政の弊害も指摘されているよね、不明年金は国税庁の過去の納税記録と照合すれば多くのケースで立証できるという評論家の指摘があるがこれは正論だと思うが」
A「まず、国税庁には、国税庁本庁のほか、全国に11の国税局、沖縄国税事務所、524の税務署が設置されている。国税庁本庁は、税務行政の執行に関する企画・立案等を行い、国税局と税務署の事務を指導監督し、下部組織の国税局は、管轄区域内の税務署の賦課徴収事務について指導監督を行うとともに、大規模納税者等について、自らも賦課徴収を行う行政機関であり、さらに末端組織の税務署は、国税の賦課徴収を行う第一線の執行機関であり、納税者と最も密接なつながりを持つ行政機関になっている。言うまでもなく国民の信頼を礎にした全国を完璧に網羅しているピラミッド構造組織なのだ。郵政が解体され公社化した現在、実は56000人の国家公務員を要する国税庁は全ての省庁の中で最大の人数を誇っている」
木「国税庁のピーアールはいい(苦笑)から、不明年金を国税庁の過去の納税記録と照合するというアイディアについてこたえてよ」
A「どこまで実効性があるのか軽々しくは答えられないが、主に個人事業主などの国民年金の人の申告履歴を照合することは、ケースによっては有効だとは思う。でもね、厚生年金のほうも含めてとなるとこれは大変なことじゃないかな、社員全員の納税記録から個人情報をどうブレークできるのか、私はシステムの専門家じゃないから詳しくはないが、納税記録と言っても全ての個人納税情報の管理が一元化されているわけじゃないしね、地方税国税の問題もあるし」

■そうか社会保険大学校国税庁の制度の模倣だったのか

木「それにつけても社保庁のこれまでのずさんさにはあきれるばかりだ。保険料をきちんと納めていたのに、年金を受給する権利が損なわれることがあってはならない。だが、あるはずの加入記録がない、と社保庁に申し立てても、保険料の領収書など“直接証拠”がないと、ほとんど門前払いにされてきた。現在でも、納得できない場合は社会保険審査会に持ち込めるが、社保庁の判断を覆した事例は極めて少ない」
A「ああ社会保険審査会だね。これって国税庁の納税者の不服申立ての審査に当たる国税不服審判所に準じて設けられたわけだが、ちょっと社保にかわって弁護すれば、基本的には不服申立ての審査というのは、「性悪説」というか申し立て内容を疑う形で審査を進めていくのが基本なんだよね、実際たちの悪い悪質なクレームを多く扱うわけなんで今までに社保庁の判断を覆した事例は極めて少ないのは、私は理解はできる」
木「それにしたって「性悪説」に立つには、社保庁側が履歴を正しく管理しているのが最低限の前提じゃないのか。話を変えるが年金の不正使用も大問題になっているよね。大規模年金リゾート「グリーンピア」建設に3千億以上の巨費を投じて焦げ付かせたり、千葉県白井市に約3万平方メートルの広大な敷地を誇る社会保険大学校なんてものを作って、ここじゃゴルフ練習場で使用するゴルフクラブ、ゴルフボールのほか、カラオケセットまでも年金保険料で賄っていたって言うじゃないか」
A「おいおい、社保庁の失態で俺に絡むなよ(苦笑 まあ、「グリーンピア」事業自体は社保庁というより厚労省主導の馬鹿な施策だったと思うが、もうひとつの問題の社会保険大学校だが、これもね、実は我が国税庁の模倣だったんだよね、われわれも税務職員の教育機関である税務大学校を持っているんだ、本校は霞ヶ関にあり、主要な教育施設は埼玉の和光校舎にある。和光校舎には「租税史料室」が一般公開もされているんだよ、これまで収集してきた江戸時代以降の租税に関する各種史料を展示している。もちろん、言うまでもないが税務大学校にはゴルフ練習場もカラオケセットもないがね(苦笑」
木「なんだかな、そうか社会保険大学校国税庁の制度の模倣だったのか・・・ それはともかく、そもそも研修施設にゴルフ練習場を設置するという発想が、世間の常識を超えていると思うが、無駄遣いは大学校に限った話ではないだろう。全国300カ所以上ある社保庁の職員宿舎のうち、50カ所の宿舎建設費にも保険料があてられたというし、そうした職員宿舎は格安家賃で提供され、東京23区内の4LDKで家賃3万6340円という例もあるそうじゃないか」
A「うむ、確かにその点は酷すぎるね、税金で運用されるべき費用に年金や保険料を流用してきたことは、これは弁解の余地はないだろう」

■職種別に管理されてきた制度を備えもなく一気に統合化してしまった判断ミス

木「なぜこんなずさんな組織・17000名の国家公務員集団が今日まで生き延びてこれたのか、当時の労働組合のとんちんかんな主張も含めて国民の一人としてあきれるばかりなんだが、同じ国家公務員としてどう考える?」
A「私もキャリアとして地方の税務署署長を経験したことがある。たかだか2、3年務めたらまた本庁に戻るわけなんだが、社保庁でも2,3年で転任してしまう一部キャリアとずっと地方で働き続ける職員の間にみぞがあったということも問題のひとつとして議論されているようだね。しかし、その制度がこの問題の主因だとは私は思わない、手前味噌になるが国税ではうまく機能しているわけだし」
木「なんか君の主張はキャリア組擁護と国税庁の宣伝にしか聞こえんのだが(苦笑」
A「いや本質的な話をしているんだよ。社保庁の体たらくは、組合側の当時の愚かなシステム化反対闘争にもひとつの原因があるのは確かだが、それだけじゃない、日本の年金システムそのものが構造的に抱えてきた問題、つまり職種別に管理されてきた制度を備えもなく一気に統合化してしまった判断ミスも大きかったのだと思う。つまり、政治的判断でトップダウンで決めてしまったことにただでさえ問題を抱えていた各地の現場が大混乱に陥ったのじゃないかな」
木「つまり基礎年金番号による一元化の強行が諸悪の根元だと」
A「いや基礎年金番号による一元化自体は正しい判断だ、行政としてそこを目指すのは当然だろう、しかしことを性急にしすぎたということじゃないか」

■やれやれ、非論理的国民感情ってやつは、手に負えないなあ(苦笑

木「新聞報道によれば、社会保険庁は25日、全職員とOBに対し賞与の一部を自主返納するよう求めると発表した。 返納額の基準は、全額返納する村瀬長官が約270万円、辻哲夫厚生労働事務次官が約310万円、6段階の階級に応じて賞与の2分の1から20分の1の額の返納を求める。総額は10億円を超えるという。この賞与自主返納の動きをどう思う」
A「正直にいって国民の怒りのガス抜きを狙った選挙対策の側面が強いのではないか。このような半強制的な、ボーナス一律返納措置は法律に基づいた処分ではなく、行政のトップの意向を優先させた超法規的対応といえる。やるべきことをはき違えているという印象が強い。本来、公務員の場合、法的に懲戒処分の対象とならない限り減給はできない。このような懲罰的「自主的」返納は賛成できない、原因究明の作業を完遂させ、責任の所在を明確することがまず先ではないか」
木「同じ公務員としてのその法律論は尊重するが、しかし国民は納得できないだろうね。だって、もし社保庁が民間企業だったらどうなると思う? ボーナス返納どころの事態では済まないでしょ、どこぞの食品会社じゃないが、間違いなく、経営者は処罰、会社自体の倒産の危機に直面し、大量の解雇者が出たことだろう。国民感情としては、賞与の2分の1から20分の1の額の自主返納なんて、甘っちょろいとしか思えない」
A「うーん、国民感情としては理解できる。が、責任の所在がファジーなままの状態なのにこのような日本独特の連帯責任論は、問題点をあいまいにしている点で私は感心できないといっているんだよ、法律論からも極めて疑わしいしね。長年所属してずさんな仕事に関わった人間、中には言語道断だが受け取った職員が着服したケースもある、そのような犯罪行為を犯した人間、組織自体は問題があったろうがその中で真面目に職務遂行につとめてきた人、昨年や今年入ったばかりの何も責を問うべきではない新人職員、職員の中にはいろいろな人がいるんだと思う。まず犯罪行為も含めた悪質な職員を特定し、その責任の所在を明確にすること、その上で、個人の責任、組織の責任を明らかにしていく、そのようなステップを無視して、原因究明の作業を完遂させぬ前に、社保庁に所属しているという理由だけで連帯責任だと一括ボーナス返納をトップダウンで決めることはどうなのか」
木「何だかな、民間零細企業オヤジとしては納得いかんがな、私などは、社保庁職員など、全員半永久的にボーナス全額返上、退職金全額返上でもかまわないと思っとるがね」
A「半永久的にボーナス全額返上かよ(苦笑 やれやれ、非論理的国民感情ってやつは、手に負えないなあ(苦笑」

 なんだか、国税庁の宣伝とかキャリア組の自画自賛とかが少し鼻につく気がします(苦笑)が、まあ、A氏の話自体はとてもおもしろく興味深かったでした。

 ・・・

 しかしなあ、「非論理的国民感情」で悪うございましたね(苦笑

 町場の零細企業オヤジから一言皮肉を言わせていただければ、これだからお役人の発想はダメなんですよね、国家公務員の諸君、君たちは「公僕」なのですぞ、全ては国民のために僕(しもべ)として尽くすことが公務員に科せられた使命なのであることを忘れないでほしいのであります。

 このつたないエントリーがこの問題に対する読者のみなさまの考察の一助になれば幸いでございます。



(木走まさみず)