朝日新聞に東京高裁から賠償命令を受けたNHKを批判する資格など無し!
●東京高裁:番組を改編したNHKが、女性団体の「期待権」を侵害した責任を認定
29日の産経新聞記事から・・・
「政治忖度して番組改編」NHKなどに賠償命令 東京高裁
旧日本軍の「従軍慰安婦」問題を特集したドキュメンタリー番組が改編されて期待権を侵害されたなどとして、取材に協力した女性団体などがNHKや制作会社に計約4000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。南敏文裁判長は、孫請けの制作会社のみに100万円の支払いを命じた1審東京地裁を取り消し、NHKと系列制作会社、孫請けの制作会社に計200万円の支払いを命じた。南裁判長は、番組内容が予算編成に影響を与えたくないと考えたNHK側が国会議員に接触した、と認定。「議員の『番組づくりは公正・中立であるように』との言葉の意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないように番組を改編した」と述べ、改編にNHKが深く関与したことを認定した。
そのうえで、NHKの改編を「憲法で保障された編集権限を乱用、逸脱したものと言わざるを得ず、報道の自由の範囲と主張することは到底できない」とした。
政治家の圧力については「番組の内容について具体的な話をしたとは認められない」とし、圧力があったとする原告の主張を退けた。
南裁判長は、「ドキュメンタリー番組では、意見がどのように反映されるかは取材対象者の重大関心事」とし、「取材対象者が期待を抱くのもやむを得ない事情」がある場合と条件をつけて、「編集の自由も一定の制約を受ける」と判示。今回については、事前の説明と違うように番組を改編したNHKが、女性団体の「期待権」を侵害した責任を認定した。
判決によると、女性団体は平成12年12月、慰安婦問題を取り上げた民間法廷を開催。NHKが翌13年1月、特集番組「戦争をどう裁くか」で、この法廷について放送した。番組はNHKが系列制作会社「エヌエイチケイエンタープライズ二十一」に制作を委託し、同社の委託を受けた孫請け制作会社「ドキュメンタリー・ジャパン」が団体側に取材交渉した。
1審判決はNHKに対しては「編集は報道の自由の範囲内」と判断していた。
NHKの話「判決は不当であり極めて遺憾。直ちに上告する。判決は番組編集の自由を極めて制約するもので、到底受け入れられない。NHKが『編集の権限を乱用した』『国会議員らの意図を忖度(そんたく)した』と一方的に断じているが、公正な立場で編集を行ったもので、裁判所の判断は不当であり、到底承服できない」
(2007/01/29 17:48)
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070129/jkn070129011.htm
例の旧日本軍の「従軍慰安婦」問題を特集したドキュメンタリー番組の改編問題ですが、東京高裁がNHKと系列制作会社、孫請けの制作会社に計200万円の支払いを命じたそうであります。
「今回については、事前の説明と違うように番組を改編したNHKが、女性団体の「期待権」を侵害した責任を認定した」そうでありますが、「期待権」って何だ???
ま、「期待権」に関しては後ほど各紙社説を通じて考察するとして、NHK側は「きょうの判決は、不当であり、極めて遺憾です。直ちに上告の手続きを取りました。」とのことであります。
NHK公式サイトより。
(報道資料)
平成19年1月29日
NHK広報局
きょうの判決についてきょうの判決は、不当であり、極めて遺憾です。直ちに上告の手続きを取りました。
判決は、番組趣旨の説明やその後の取材活動を通じて、相手側に番組内容に対する期待権が生じるとしましたが、番組編集の自由を極度に制約するもので、到底受け入れられません。
また、判決は、政治的圧力は認められなかったとしていますが、NHKが編集の権限を濫用・逸脱した、また国会議員等の意図を忖度して編集したと一方的に断じています。NHKは放送の直前まで、放送法の趣旨に則り、政治的に公平であることや、意見が対立している問題についてできるだけ多くの論点を明らかにするために、公正な立場で編集を行ったもので、裁判所の判断は不当であり、到底承服することはできません。
http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/news/070129.html
「番組編集の自由を極度に制約するもので、到底受け入れられません」とし、「NHKは放送の直前まで、放送法の趣旨に則り、政治的に公平であることや、意見が対立している問題についてできるだけ多くの論点を明らかにするために、公正な立場で編集を行ったもので、裁判所の判断は不当」であるとしています。
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うーむ、取材する側の「番組編集の自由」と、取材される側の「番組内容に対する期待権」のぶつかり合いなのでありますね。
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●浮きまくる朝日社説〜朝日新聞は他人様の裁判結果に対しあれこれ評論するより先にしなければならないことがあるのではないのか
29日のこの東京高裁判決を受けてここ一両日で主要紙は早速一斉に社説で取り上げています。
【30日付朝日社説】NHK 裁かれた政治への弱さ
http://www.asahi.com/paper/editorial20070130.html
【30日付読売社説】 [NHK番組訴訟]「報道現場への影響が懸念される
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070129ig91.htm
【31日付毎日社説】NHK 取材制約招く判決を導いた
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070131k0000m070152000c.html
【31日付産経社説】NHK訴訟判決 「期待権」判断はおかしい
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070131/shc070131001.htm
【31日付日経社説】NHK判決の「期待権」に懸念(1/31)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20070130MS3M3000530012007.html
例によって各新聞の結語から。
【30日付朝日社説】NHK 裁かれた政治への弱さ
取材される側が報道に抱く期待権と編集の自由との関係について判決が指摘したことにも注目したい。判決は編集の自由の大切さを指摘したうえで、政治家の意図をおしはかった今回のケースは「編集権を自ら放棄したものに等しい」と述べ、期待権の侵害を認めた。
編集の自由や報道の自由は民主主義社会の基本だ。取材される側の期待権の拡大解釈を避けるためにも、メディア側の権力からの自立が求められる。
【30日付読売社説】 [NHK番組訴訟]「報道現場への影響が懸念される
「編集権」の中の当然の行為だが、それすら、「期待権」を侵害するものとして否定されるのだろうか。2審では「期待権」の範囲がNHK本体にまで拡大された。そのため、報道機関全体に新たな義務が課せられる恐れが強まった。
この訴訟では、もう一つの焦点があった。番組制作に政治家の“圧力”があったのかどうかだ。朝日新聞が繰り返し介入を報じ、NHKが否定したことで、大きな論争に発展していた。
これについて、今回の判決は「政治家らが具体的な話や示唆をしたとは認められない」との見方を明確に示した。
【31日付毎日社説】NHK 取材制約招く判決を導いた
裁判官は取材現場の実情を理解していないのではないか。判決は結果的に取材・報道の自由を制約し、報道に携わる者を萎縮(いしゅく)させかねない。それは、国民の「知る権利」に十分応えられない事態を招く恐れがある。
市民団体を直接取材した孫請けの制作会社は「民間法廷をありのまま伝える」などと説明し、通常は外部に見せない番組進行の案まで渡して期待を抱かせた。未熟な取材と、それを知りながら十分に対応しなかったNHKの姿勢がこの判決を引き出した。その責任の重大さを認識すべきだ。
【31日付産経社説】NHK訴訟判決 「期待権」判断はおかしい
しかし、期待権を拡大解釈すれば、放送事業者の「編集の自由」の制約につながる。取材する側が萎縮(いしゅく)して番組を制作することにもなりかねない。
政治家の圧力については「番組の内容について具体的な話をしたとは認められない」と、結果的に朝日新聞報道を否定する形になった。
とはいえ判決によると、NHK幹部が「政治家の言葉の意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないような番組にした」としている。もっとも、この番組自体が公共放送としてふさわしいものだったかどうか疑問である。
【31日付日経社説】NHK判決の「期待権」に懸念(1/31)
裁判所がここまで批判するような「逸脱した事例」で期待権の侵害を言うのは仕方がないかもしれないが、懸念されるのは、取材対象が期待権を拡大解釈して報道の内容に注文を付けたり取材を拒んだりする事態だ。事後的に「期待権の侵害」で訴訟を起こされる心配が広がれば、取材を萎縮させるかもしれない。
「将来一定の事実が発生すれば一定の法律上の利益を受けられるであろうという期待をもつことができる地位」(有斐閣『法律学小辞典』)である期待権には様々な種類があり、どの程度強く保護されるかも異なる。表現・報道の自由と競合する期待権は認めるにしても、極めて厳格な条件を付けるべきだ。
朝日社説を除いては各紙とも結果的に今後取材制約を招く可能性がある今回の判決の「期待権」判断に対して強く批判しているのは、報道する側のメディアとして、まあ理解はできます。
日経社説が注文しているとおり、「「将来一定の事実が発生すれば一定の法律上の利益を受けられるであろうという期待をもつことができる地位」(有斐閣『法律学小辞典』)である期待権には様々な種類があり、どの程度強く保護されるかも異なる。表現・報道の自由と競合する期待権は認めるにしても、極めて厳格な条件を付けるべきだ。」のは、当然でありましょう。
●いまだにNHKの公開質問状を放置し続けている朝日新聞に、メディアとして他人様の裁判結果に対しあれこれ評論する資格はない!!
しかし、今回の朝日新聞社説の浮きまくりは悲惨であります。
過去のいきさつからNHKの「裁かれた政治への弱さ」を批判しつつこの裁判結果を肯定的に評価するのは理解できますが、その論法は自分勝手で独りよがりなものであります。
この問題は朝日新聞が05年1月に取り上げ、政治家の発言が圧力となって番組が変わった、と報じた。今回の判決は政治家の介入までは認めるに至らなかったが、NHKの政治的な配慮を厳しく批判したものだ。
朝日新聞の報道に対しては、政治家とNHKから事実関係について反論があった。これを受けて検証を重ねた朝日新聞は一昨年秋、記事の根幹部分は変わらないとしたうえで、不確実な情報が含まれてしまったことを認め、社長が「深く反省する」と表明していた。
朝日社説のこの部分だけ読んだ読者は朝日なりに「不確実な情報が含まれてしまったことを認め、社長が「深く反省する」と表明」したことで、しっかりとメディアとしてけじめを付けていると誤解してしまうかも知れません。
冗談ではありません。
朝日社説の結語「取材される側の期待権の拡大解釈を避けるためにも、メディア側の権力からの自立が求められる。」のは、たいへんけっこうなことでありますが、本件に関わる朝日とNHKとのメディア同士の泥仕合では、結果的に朝日は「不確実な情報が含まれてしまったことを認め、社長が「深く反省する」と表明」するに至るはめに陥ったわけですが、今に至っても当時のNHKからの18問に渡る公開質問状には何一つ具体的回答を示していない、まことにメディアとしては不誠実・不謹慎なのは他ならぬ朝日新聞なのであります。
こんなNHK批判の社説を掲げる前に、NHKが朝日新聞に回答を求めた「1月21日朝日新聞社への公開質問状」および、「4月20日朝日新聞社への催告書」に対し、はやく誠意ある具体的な回答をすべきでしょう。
「1月21日朝日新聞社への公開質問状」
http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/news/007.html
「4月20日朝日新聞社への催告書」
http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/news/050420.html
「1月21日朝日新聞社への公開質問状」よりNHKが朝日新聞にぶつけた18の具体的質問をここに再度示しましょう。
公開質問状
1.記事の真偽について
(1) 中川氏とNHK幹部が放送前日に面会したのは事実ですか。
(2) 上記(1)の記事を掲載するにあたって、中川氏及びNHK松尾元放送総局長の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
(3) 中川氏が放送中止を求めたのは事実ですか。
(4) 上記(3)の記事を掲載するにあたって、中川氏の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
(5) 安倍氏がNHK幹部を呼び出したのは事実ですか。
(6) 安倍氏がNHK幹部に、番組は偏った内容だなどと指摘したのは事実ですか。
(7) 上記(5)、(6)の記事を掲載するにあたって、安倍氏及び松尾元放送総局長の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
(8) NHKの番組が政治的圧力を受けて「改変」されたのは事実ですか。
(9) 上記(8)の記事を掲載するにあたって、内部告発した当時の番組担当者の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
(10) 上記(8)の記事を掲載するにあたって、内部告発した当時の番組担当者の「証言」は伝聞情報にすぎないことを承知していたのですか。
(11) 御社は記事で「いずれにしても結果的に、憲法が禁じる検閲に近い事態が起きていたことになり、憲法で保障された表現、報道の自由を無視したものといえる」と断定的に指摘しています。
現段階でもそのように考えていますか。
2.御社記者の取材について
(12) 松尾元放送総局長は、1月9日昼過ぎに御社記者から取材を受けた際に、「安倍・中川両氏からもすでに取材している。全部わかっている」「政治的圧力を感じたでしょう」と執拗に問いただされた、と話しています。一方、御社の記事によると安倍・中川両氏への取材は翌日の10日となっています。御社記者が松尾元放送総局長に嘘をついて取材したとすれば、取材倫理上極めて重大な問題と考えます。
御社はこの点について、どのような調査を行いどのような見解を持っていますか。
(13) 御社記者の取材が始まって20分ほど経過した段階で、松尾元放送総局長が、御社記者がメモを取り始めたことに気付いて「メモは取らないでください」と求め、それ以降、御社記者は一切メモをとらなかったということです。
それでは、2時間に及んだという取材での証言内容をどのような方法で正確に記録できたのですか。
(14) 松尾元放送総局長は、19日に自ら記者会見して「朝日新聞の記事は私の証言を歪曲し、全く逆の内容になっている」と批判しましたが、その前日に御社記者に電話をかけています。その中で、松尾元放送総局長は、「取材に答えた内容と記事の内容が違っている。記事にあるNHK幹部とは私のことか」と聞き、御社記者が認めると、「私は記事のような証言はしていない。取材の内容を確認したいので、録音テープがあれば、私にも聞く権利があるので聞かせて欲しい」と要求しました。これに対し御社記者は、録音テープがあるかどうかについて明言しませんでした。
取材相手から録音テープの存在の有無を聞かれた際に、御社記者は、なぜそれに答えなかったのですか。
(15) 松尾元放送総局長への取材を録音したテープはあるのですか。
(16) 去年8月に明らかになった、御社記者が起こした「無断録音テープ流出問題」についての御社見解によれば、「取材内容の録音は相手の了解を得るのが原則であり、取材相手との信頼関係を損なうことがあってはならない」としています。
御社記者は、松尾元放送総局長に取材した際に録音する許可を得ていませんでしたので、仮に録音テープがあるのであれば、御社見解に照らした場合、取材倫理に反する行為にあたると考えますがいかがでしょうか。
(17) また、録音テープの有無に関わらず、記者会見前日に松尾元放送総局長が電話で質問した際に、録音テープの存在の有無をはっきり答えなかった御社記者の行為は、「取材相手との信頼関係を損なうことがあってはならない」としている御社の取材倫理に、やはり反するものと考えますがいかがですか。
(18) さらに記者会見前日の電話で、松尾元放送総局長が、御社記者に対して「私の証言と記事の内容が違っている」と抗議をした際に、御社記者は「NHKにはもう話してしまいましたか」「どこかでひそかに会えませんか」「証言の内容について腹を割って調整しませんか」「摺り合わせができるでしょうから」などと繰り返しました。
御社によると御社の記事は、「2人の記者が松尾元放送総局長に長時間会って取材した結果などを正確に報じた、根拠あるもの」だということです。
それではなぜ記事を掲載した後になって、証言の内容を「調整」したり「摺り合わせ」たりする必要があったのでしょうか。
明確で納得のゆく回答を求めます。
この質問状に対する具体的回答はいまだ朝日新聞からは、なされていません。
読者の中には朝日新聞としてこの問題を総括したのではないかと誤解されている人もいるかもしれません。
繰り返しますが朝日新聞はNHKの公開質問状を今日にいたるまで無視し続けています。
詳細は一昨年の当ブログにて記していますので参考まで。
■マスメディアの無能と憂鬱〜朝日のNHK番組改変問題報告の「傲慢不遜」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050726/1122348060
・・・
このNHKの質問状は朝日新聞によって、2年近くも無視・放置され続けているのです。
本件においては、朝日新聞は他人様の裁判結果に対しあれこれ評論するより先に、責任あるメディアとしてけじめを付けなければならない大切なことがあるはずです。
朝日新聞はしっかりと説明責任をはたさなければならないはずなのです。
・・・
いまだにNHKの公開質問状を放置し続けている朝日新聞に、メディアとして他人様の裁判結果に対しあれこれ評論する資格などないのです!
(木走まさみず)
<関連テキスト>
■マスメディアの無能と憂鬱〜朝日のNHK番組改変問題報告の「傲慢不遜」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050726/1122348060
■マスメディアの無能と憂鬱〜朝日は証拠として録音テープを提示せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050728/1122522706
■月刊現代スクープ記事を逆スクープする〜これは朝日の出来レースだ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050802/1122961309
■朝日新聞の真の大罪〜エールを込めて
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050803/1123057606