木走日記

場末の時事評論

日本(リーベン)は美国(メイグオ)へ〜「美しい国へ、日本」は安倍政権の中国への高度の政治的メッセージ?

●「美しい国、日本」を目指す安倍首相所信表明演説〜そんなに今の日本はブスなのか?(爆)

 昨日(29日)安倍首相が、初の所信表明演説で新政権の目指すところを語りました。
 今日の新聞各紙社説は一斉に安倍首相所信表明演説を取り上げています。 

【朝日社説】所信表明 そろり安全運転ですか
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】[所信表明演説]「目指す国家像をどう具体化する」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060929ig90.htm
【毎日社説】安倍首相演説 じわり脱小泉そろりと右へ
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20060930k0000m070169000c.html
【産経社説】所信表明 買いたい国家再生の気概
http://www.sankei.co.jp/news/060930/edi001.htm
【日経社説】言葉通りに改革の炎を燃やし続けよ(9/30)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20060929MS3M2900F29092006.html

 うーんどうやら安倍政権の目指すところは美しい国造りのようです。

 しかしなあ、「美しい国」って何なんでしょう?

 各紙社説から抜粋・・・

【朝日社説】所信表明 そろり安全運転ですか

 美しい国、日本」をつくるために、全身全霊を傾けて挑戦していく――。

 世論の6割を超える支持を背に受けて船出した安倍首相が、初の所信表明演説で新政権の目指すところを語った

【読売社説】[所信表明演説]「目指す国家像をどう具体化する」

 首相は所信表明演説、「美しい国造り」を目指す考えを強調した。小泉前首相の「聖域なき構造改革」のように、「美しい国造り」を政権のキーワードにしたいのだろう。

 「21世紀において美しい国として繁栄を続けていくためには、安定した経済成長が続くことが不可欠だ」――。

 首相はこう強調して、イノベーション(技術革新)をテコに成長路線を推進することを表明した。

【毎日社説】安倍首相演説 じわり脱小泉そろりと右へ

 結局、「美しい国とは何か。演説では「凛(りん)とした国」などと言葉を重ねたが、依然スローガンの域を出なかった。中国、韓国との関係改善をどう進めていくのか。この日触れなかった靖国参拝問題や歴史認識問題も含め、週明けから始まる各党の代表質問を皮切りに今国会の大きなテーマとなる。

【産経社説】所信表明 買いたい国家再生の気概

 首相が公約した美しい国づくり」への道を示し、実行するという決意表明である。日本が時代の変化に迅速かつ的確に対応するための国家再生の意味と気概も込められている。この基本的な方向を強く支持したい。

【日経社説】言葉通りに改革の炎を燃やし続けよ(9/30)
 安倍内閣日本経済新聞世論調査で発足時の支持率が70%を超え、順調なスタートをきった。首相は演説でそのめざす美しい国、日本」の姿について(1)文化、伝統、自然、歴史を大切にする国(2)自由な社会を基本とし、規律を知る、凛(りん)とした国(3)未来に向かって成長するエネルギーを持ち続ける国(4)世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのある国――と強調した。

 うーん、「美しい国を目指すのはけっこうなことですが、毎日社説が指摘しているように「結局、「美しい国」とは何か」、いまひとつ「スローガンの域を出なかった」のは同感なのであります。

 あんまり日本を「美しい国」にしよう、「美しい国」へ変えようといったスローガンばかり聞かされると、ひねくれオヤジの不肖・木走などは、「なんだよ、そんなに今の日本はブスなのかい?」(爆)とすねたりもしたくなってしまうのです。

 ・・・

 まあ、安倍氏が目指す美しい国の定義としては、日経社説の説明が一番具体的なのであります。

(1)文化、伝統、自然、歴史を大切にする国
(2)自由な社会を基本とし、規律を知る、凛(りん)とした国
(3)未来に向かって成長するエネルギーを持ち続ける国
(4)世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのある国

 そうか、歴史を大切にする、凛(りん)とした、成長するエネルギーを持ち続ける、リーダーシップのある国を目指すのですね。

 すばらしい。

 おおいにけっこうなことですが、しかしどこが形容詞「美しい」と結びつくのだろう?(苦笑)

 安倍氏の目指す「美しい国、日本」のなぞは深まるのでした。



安倍氏の新著『美しい国へ』で読み解く「美しい国、日本」

 ぜんぜん読む気がなく今まで購入していなかったのですが、ここは安倍氏の目指す「美しい国、日本」のなぞを解き明かすため、安倍氏の新著美しい国へ』をさっそく本屋で購入したのでした。

美しい国へ (新書)
安倍 晋三 (著)

新書: 232ページ
出版社: 文藝春秋 (2006/07)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166605240

 すばらしい本です。

 一時間で読み終えました。

 内容がとてもわかりやすく漢字が少ない(苦笑)のであっというまに読むことができたのでした。

 本文の結語。

 わたしたちの国日本は、美しい自然に恵まれた、長い歴史と独自の文化をもつ国だ。そして、まだまだ大いなる可能性を秘めている。この可能性を引き出すことができるのは、わたしたちの勇気と英知と努力だと思う。日本人であることを卑下することより、誇りに思い、未来を切り開くために汗を流すべきではないだろうか。
 日本の欠点を語ることに生きがいを求めるのではなく、日本の明日のために何をなすべきかを語り合おうではないか。

美しい国へ」安倍晋三著(文春新書)228頁より抜粋

 なるほど、「わたしたちの国日本は、美しい自然に恵まれた、長い歴史と独自の文化をもつ国」であり、そもそもが「美しい国」なのでありますね。

 それで、「まだまだ大いなる可能性を秘めている」のだから、「日本人であることを卑下することより、誇りに思い」、「日本の欠点を語ることに生きがいを求めるのではなく、日本の明日のために何をなすべきか」、「わたしたちの勇気と英知と努力」を結集すれば、もっともっと「美しい国、日本」を目指せるわけですね。

 「美しい」という形容詞の使い方にはまだ違和感は残るものの、安倍氏の目指したい国はとってもよく理解できました。

 あと、「日本人であることを卑下する」人達とか「日本の欠点を語ることに生きがいを求める」人達に対し、安倍氏が忸怩(じくじ)たる想いを抱いていることもよくわかりました(苦笑)。

 ・・・

 本の内容ですが、次のエピソードがとっても興味深かったのでした。

うさんくさい気がした「安保反対」の理由

 わたしが高校生になった1970年は、ベトナム戦争を背景に、学生運動が高揚期を迎えていたときだ。その前年には、東大安田講堂に立てこもった全共闘と、これを排除しようとする機動隊とのあいだで、はげしい攻防がくりかえされていた。日米安保条約の自動延長をめぐる政治イシューも、革新勢力と保守勢力が真っ向から激突する大きなテーマであった。
 このとき、社会党共産党の野党、そして多くのマスコミは、日米安保条約の破棄を主張していた。「日米安保の延長は自衛隊の海外派兵を可能にする。すでに日本はアメリカのベトナム侵略の前線基地になっており、日本帝国主義アメリカと結託して、ふたたびアジア侵略をはじめようとしている」というわけだ。進歩的文化人と呼ばれる学者や評論家の多くも、同じような理由で反対していた。
 日米安保を堅持しようとする保守の自民党が悪玉で、安保破棄を主張する革新勢力が善玉という図式だ。マスコミも意図的に、そう演出していた。妥当する相手は、自民党の政治家だったわたしの父や祖父である。とりわけ祖父は、国論を二分した1960年の安保騒動のときの首相であり、安保を改定した張本人だったから、かれらにとっては、悪玉どころか極悪人である。
 高校の授業のときだった。担当の先生は、70年を機に安保条約を破棄すべきであるという立場にたって話をした。クラスの雰囲気も似たようなものだった。名指しこそしないが、批判の矛先はどうもこちらに向いているようだった。
 わたしは、安保について詳しくは知らなかったが、この場で反論できるのは、わたししかいない。いや、むしろ反論すべきではないか、と思って、こう質問した。
「新条約には経済条項もあります。そこには日米間の経済協力がうたわれていますが、どう思いますか」
 すると、先生の顔色がサッと変わった。『岸信介の孫だから、安保の条文をきっと読んでいるに違いない。へたなことはいえないな』−−そう思ったのか、不愉快な顔をして、話題をほかに変えてしまった。
 本当をいうと、そのときわたしは、条文がどんなことになっているのか、ほとんど知らなかった。でも、祖父からは、安保条約には、日本とアメリカの間で経済協力を促進させるという条項があって、これは日本の発展にとって大きな意味がある、と聞かされていたので、そっちのほうはどうなんだ、と突っかかってみたまでであった。
 中身も吟味せずに、何かというと、革新とか反権力を叫ぶ人たちを、どこかうさんくさいなあ、と感じていたから、この先生のうろたえぶりは、わたしにとって決定的だった。 安保条約をすべて読みこんでみて、日本の将来にとって、死活的な条約だ、と確信をもつことになるのは、大学にはいってからである。

美しい国へ」安倍晋三著(文春新書)19頁〜21頁より抜粋

 すごいですねえ、高校生安倍晋三君の高校教師に反論する武勇伝なのであります。

 わたしは、安保について詳しくは知らなかったが、この場で反論できるのは、わたししかいない。いや、むしろ反論すべきではないか、と思って、こう質問した。
「新条約には経済条項もあります。そこには日米間の経済協力がうたわれていますが、どう思いますか」
 すると、先生の顔色がサッと変わった。『岸信介の孫だから、安保の条文をきっと読んでいるに違いない。へたなことはいえないな』−−そう思ったのか、不愉快な顔をして、話題をほかに変えてしまった。

 開かれた保守主義安倍晋三にとって、「中身も吟味せずに、何かというと、革新とか反権力を叫ぶ人たちを、どこかうさんくさいなあ、と感じていたから、この先生のうろたえぶり」は「わたしにとって決定的だった」エピソードなのだそうでありますが、その後「安保条約をすべて読みこんでみて、日本の将来にとって、死活的な条約だ、と確信をもつことになる」青年安倍晋三なのであります。

 ・・・

 しかしなあ、安倍青年にとって母方の祖父岸信介の影響が大きかったことを物語る話ではありますが、父方の祖父安倍寛(かん)の話は、本全体を通じても一回も登場してこないのは極めて残念なのではあります。

 安倍晋三の父方の祖父、安倍寛(かん)は、戦時中に東条内閣に反対する反戦政治家として、名を馳せた政治家なのであります。

 1941年10月東条英機内閣が発足、2カ月後、純粋な軍人政権である東条内閣は、米国、英国、オランダとの戦争を開始いたしました。

 翌年4月、戦時総動員体制の中で行われた衆議院選挙では戦争や東条内閣に反対する政治家を非推薦とし、暗殺・脅迫といった弾圧が横行したのは衆知のとおりであります。

 その反戦派の代表的な政治家に、山口県出身の安倍晋三の祖父、安倍寛がいたのでした。

 ・・・

 安倍寛の話はさておき、そうか安倍氏にとり祖父岸信介が1960年の安保騒動のときに死守した日米安保条約は、その後「日本の将来にとって、死活的な条約だ、と確信をもつことになる」わけですが、青年の時のこの確信が、今日の安倍首相の外交政策である日米基軸路線に通じているのですね。



●日本(リーベン)は美国(メイグオ)へ〜「美しい国、日本」は安倍政権の中国を意識した高度の政治的メッセージ

 日米安保条約を死守した祖父と「美しい国、日本」を目指す孫ですか・・・

 ・・・

 ん?

 そういえば、毎日社説に気になる記述がありました。

【毎日社説】安倍首相演説 じわり脱小泉そろりと右へ

 日本版NSC(米国家安全保障会議)の創設など、官邸機能の強化を強調したのも、こうした視点が背景にあるのではないか。だが、日本版NSCにどんな権限や機能を持たせるのか、外務、防衛両省庁との役割分担はどうするかなど、詰めるべき課題は少なくない。

 そもそも大統領制アメリカのマネをして日本版NSC(米国家安全保障会議)の創設など官邸機能の強化を強調している安倍首相なのですが、制度の違う日本でどこまでの権限を日本版NSCに持たせられるのか課題は多いようですが・・・

 ・・・

 うーん、もしかして「美しい国へ、日本」というスローガンは、中国を意識した高度の政治的メッセージなのかも知れません。

 日本(リーベン)を美国(メイグオ)へ、つまり中国側への強烈な安倍政権からのシグナル、日本のアメリカ属国化宣言だったりしませんか。
(↑そんなわけないでしょ(苦笑))



(木走まさみず)