木走日記

場末の時事評論

問われる安倍首相の問題解決者(problem solver)能力〜最初の訪問国は韓国でいかが?

安倍内閣支持率63%、戦後3位の高水準

 今日(28日)の朝日新聞紙面記事から・・・

安倍内閣支持率63%、戦後3位の高水準 本社世論調査
2006年09月27日23時17分

 安倍内閣の発足を受け、朝日新聞社は26日夜から27日にかけて緊急の全国世論調査(電話)を実施した。内閣支持率は63%、不支持率は18%。発足後、初めての支持率としては小泉内閣の78%に及ばないが、最近では橋本内閣の61%を上回る戦後歴代3位の高水準だ。ただ、内閣の顔ぶれについては「新鮮だ」35%、「そうは思わない」38%と見方が割れる。「強力な内閣だ」との見方は23%にとどまった。一方、来年夏の参院選に自民と民主のどちらに勝ってほしいかでは、自民が47%、民主は36%だった。

 内閣支持率は女性がやや高い。支持政党別では自民支持層で89%と圧倒的だ。ただし無党派層は47%で、小泉内閣発足時の74%には及ばない。

 内閣を支持する人にその理由を聞くと、「政策の面から」が28%、「なんとなく」27%、「首相が安倍さんだから」24%と割れた。

 強力な内閣だと思うかと尋ねると、「頼りない」34%が「強力」23%を上回った。小泉内閣発足直後、「強力」との印象が多かったのと対照的だ。ただ、回答で最も多かったのは「その他」の43%。新内閣の「実力」は今後、見定めようという気配も漂う。

 安倍首相が最優先課題にあげる臨時国会での教育基本法改正については、「今の国会にこだわらず、議論を続けるべきだ」が66%と多く、「今の国会で成立を目指すべきだ」は21%にとどまった。「改正する必要はない」は6%。首相の意気込みとは裏腹に世論は慎重なようだ。

 これに対し、小泉内閣から引き継いだ最大の懸案である中国や韓国との外交の改善については、「積極的に取り組んでほしい」が83%に達した。民主支持層では9割近く、内閣支持層や自民支持層でも8割を超えた。

 中韓との外交改善のカギを握る歴史認識を巡り、安倍首相が自らの認識を示していないことを「評価する」は24%で、「評価しない」の52%を大きく下回った。「評価しない」は自民支持層でも44%、民主支持層では73%、無党派層でも半数を超えた。

 安倍首相は「経済成長率を年3%に近づけていくのは不可能ではない」と述べるが、新内閣のもとで景気は「よくなる」との見方は29%で、「そうは思わない」の48%が多かった。

 政党支持率は自民が39%、民主が14%。安倍氏自民党総裁に選ばれた直後の緊急調査(9月20、21日実施)の自民38%、民主14%とほとんど変わっていない。無党派層は41%だった。

 〈調査方法〉 26、27の両日、全国の有権者を対象に「朝日RDD」方式で電話調査をした。対象者の選び方は無作為3段抽出法。有効回答は996人。回答率は57%。
http://www.asahi.com/politics/update/0927/014.html

 まずは遅くなりましたが、安倍新政権誕生おめでとうございます。

 ご健闘を心より祈念しております。がんばってくださいませ。

 ところで、朝日以外の各紙の世論調査でも概ね60〜70%超の高支持率が出た安倍新政権なのであります。

 当ブログとしては、実は安倍政権に対する期待値はそれほど高くないのですが、かといってできたばかりの政権に揚げ足取って批判するほどには嫌ってもいません(苦笑)ので、これまで静観してきたのであります。

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●組織が抱える「問題」は3種類〜「原状回復型問題」「潜在型問題」「理想追求型問題」

 まったく話は横道にそれるのですが、不肖・木走の本業は小さなIT関連業を営んでおります。

 本業とは別に工学系の学校や経営者セミナーの講師をさせていただいたりしている関係で、官公庁や学校法人、民間企業のIT化計画のコンサルティングをさせていただくことがよくあります。

 以前にも当ブログである学校法人のIT化計画のコンサル経験談をご紹介させていただいたこともあります。

■[社会]問われているのは先生のガバナビリティではないのか〜ある私学におけるコンサル経験を踏まえての朝日社説に対する一考察
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060415

 で、実はこの9月からある製造メーカーの物流システム再構築のコンサルを引き受けまして、これがもう大変な荒仕事(?苦笑)となってしまい、ユーザー担当者さんたちとともに、毎日がデスマーチ、お願いだから少し睡眠を取らせて下さいまし(爆)、って感じになっております。
(↑最近エントリー間隔が乱れているのとコメント欄へのレスが滞っているのはこのためなのです、スミマセン(大汗))

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 それはさておき、IT化計画のコンサルというのは、単なる情報コンサルというよりも、事実上、経営コンサルから危機管理アドバイザーまで複合した助言者であるべきと、私は考えています。

 企業がIT化を計画する動機はいろいろですが、共通して抱えていることは現状に何かしらの「問題」(problem)を抱えていてその問題を解決(solution)ための道具としてITを用いようとしている点では、間違いないところです。

 ですので、必然的にIT化のコンサル業務は、企業が抱えている問題に対する、明朗な問題解決者(problem solver)であることが求められているわけでたまたまその問題を解決する道具としてITを用いるに過ぎないのですから、経営コンサルから危機管理アドバイザーまで複合した助言者としての能力が問われるのだと思います。

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 さて組織が抱える「問題」は3種類に大別できます。

原状回復型問題:現状があるべき状態からひどく低水準にあるケース。
潜在型問題:現状はあるべき状態だが放置しておくと劣化する恐れがあるケース。
理想追求型問題:現状はあるべき状態で問題がないがさらに理想を求めるケース。

 この3種類の分類法は私のオリジナルではもちろん無く、かつて一緒に仕事したアメリカ人コンサル屋たち(マッキンゼー社)が取っていた手法ですが、とても有効な手法なので私もしばしばコンサルで問題分析するときに利用しているモノです。

 言葉だけの定義ではわかりにくいと思いますので、企業の営業分野での具体的事例をもってご説明いたしましょう。

 まず「原状回復型問題」ですが、例えばある営業部の売上げがここ一年下降気味で対前年同月比が毎月前年実績を下回り続けている、しかも、ここ3ヶ月は損益分岐点の目安となる3億円を下回ってしまっている、といった場合です。

 現状をあるべき状態に回復しなければいけないケースです。

 次に「潜在型問題」ですが、現状の売上げは月額3億円を売り上げてきていて問題はないが、来月にライバル社の強力な新商品投入計画の情報が入り、放置しておけば遠くない将来月額売上高に深刻な影響を及ぼす恐れがある、といった場合です。

 現状はあるべき状態だが現状を放置しておくと問題が発生してしまうケースです。

 最後に「理想追求型問題」ですが、現状の売上げは月額3億円を売り上げてきていて問題はないが、社業拡大を期し一年後に月額4億円を目指せと社長命令が下った、と言った場合です。

 現状でも支障はないモノの理想を求めて現状を改善していくケースです。

 もちろん実際の企業現場における「問題」は上記の3分類のどれかにきれいに当てはまることは稀であり、ある部門では早急に原状回復する必要があるしある部門では将来の課題がさしせまり潜在している問題の解決しなければならないし、またある部門では総合的な利益増を計るために理想追求型の手法で問題解決を計っていく、といったあんばいで複雑なケースが多いのであります。

 しかしながらこの問題を3種類に分別して解決を計っていく手法の優れている点は、問題の解決方法、解決の優先順位の決定などが問題の種類によって確立した手順で進められることです。

 たとえばその問題が「潜在型問題」であるとするならば、「潜在」している「問題」が発生してしまうリスクを出来る限り下げる「予防」対策と、実際にその「問題」が発生したときに速やかに対応する「具体的対処」対策に分けて分析します。

 またいくつかの種類の「問題」が混在しているときには、原状回復型の問題を優先して解決を計ることが全体の問題解決に有効な場合が多いことが経験則としてわかっています。

 一般に問題の深刻度が「原状回復型」が一番深く、一刻の猶予も許されない看過できない状態に現状があることが多いこと、従って解決策の効果が即効性を持って評価しやすいことが、原状回復型の問題を優先して解決を計ることが全体の問題解決に有効である理由とされています。

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 ITコンサルにおいて、よい明朗な問題解決者(problem solver)である条件は、上記のような手法でまず問題を発見し、かつ速やかに分類して問題の性質ごとに具体的解決策を明示できることが必須なのであります。




●安倍さんはよい明朗な問題解決者(problem solver)になれるか?

 さて我らが安倍新首相、新しい日本国の総理大臣なのでありますが、当然の事ながら、この国の政治の最高責任者たる安倍首相には、日本の抱える多くの難題に対して、よい明朗な問題解決者(problem solver)になってもらわなければなりません。

 ここでは総理大臣のなすべき仕事を、ITコンサルティング手法に基づき少し考えてみましょう。(←何のこっちゃ?(苦笑))

 それぞれの問題を論理的に考察(logical thinking)し、問題の性質ごとに分類し対処策とその優先順位を具体的に3種類の問題に場合分けしながら解決を計っていくべきです。

 財政再建問題や外交問題、教育法改正問題など、それこそ解決すべき問題は山積みなわけですが、「原状回復型問題」「潜在型問題」「理想追求型問題」と大別するならば、再チャレンジ可能な社会にする、というような「理想追求型問題」はこの際後回しにして、即対応しなければいけない問題だけにまずは議論を絞りましょう。

 安倍さんが解決すべき問題の中には、800兆ともいわれる借金を抱えた財政再建問題、前政権からの負の遺産でもあるのですが完全冷却してしまった東アジアを中心とした外交問題など、「原状回復型問題」もごろごろあります。

 その中でも優先順位は高く、問題解決期間、問題解決手法が明確に論じることができる外交問題に絞って論じてみましょう。



●安倍首相の最初の訪問国は韓国でいかが?

 「東アジア外交を正常に戻す」ことを目的とするならば、新政権にとり最初の訪問国にどこの国を選ぶのかは極めて重要になります。

 この外交問題を「東アジア外交を正常に戻す」原状回復型問題と認識するならば、最初の訪問国を中国か韓国にすることは戦略的に極めて有効なアクションとなりましょう。

 中でも韓国を選択すると効果が大きいと私は考えます。

 今日の韓国・中央日報に掲載された李元紱(イ・ウォンドク)国民大政治学教授の主張記事から・・・

<時論>安倍政権、韓日関係の改善に好機

26日、安倍晋三政権がスタートした。予想通り、自民党の要職と主要閣僚には安倍首相の政治的側近や理念的同志が布陣ことになり、名実共に「安倍体制」が成立した。自民党内の保守右派を代表する人々が党と内閣の主要ポストに起用され、今後安倍氏が展開する首相官邸中心の政治活動とその方向に関心が集中している。

安倍氏は歴代首相のうち最も右派的傾向が濃い政治家で、その傾向がそのまま政策につながる場合、韓国と日本の間には荒々しい風が吹くかも知れない。だが安倍氏と主要閣僚の理念にもかかわらず今後、安倍政権の韓半島政策が強硬一辺倒に進むことはないだろう。安倍政権は意外と柔軟な姿勢と弾力的な接近を試みる可能性が大きい。

何よりも安倍政権は小泉政権によって極端的に悪化した近隣外交を復元しなければならない状況に直面している。安倍氏としても政界と財界、国民が求めている近隣外交の復元を全く無視するのは難しいだろう。安倍政権が安定的に進むためには、9カ月後の参議院選挙で善戦しなければならない。そのためにも安倍氏は近隣外交を改善するための措置を取り、野党の批判を乗りこえると同時に外交業績をアピールすべき必要性を痛感している。

さらに戦後の日本の外交史では、首相の政治理念とは関係なく柔軟な対外政策が繰り広げられてきたとの点も注目すべき部分だ。1950年代に鳩山首相は保守理念にもかかわらず米国が警戒する旧ソ国交回復を成し遂げており、岸首相は漂流する韓日会談の再開に向けて電撃的な譲歩策を取ったことがある。80年代に中曽根首相は韓国・中国の反対のため靖国参拝をあきらめた。個人の理念を実現することよりは、国際政治の状況と国益を冷静に計算する現実主義に充実した路線を踏襲したのが、日本保守外交の伝統だ。

政治家としての安倍氏は周辺の助言に耳を傾ける品性の政治家で、大衆とも分かりやすくコミュニケーションできる能力の持ち主とされる。その点から頑固で強気な小泉氏とは対照的だ。韓国の関心事である靖国神社参拝問題に関し、安倍氏は立場の表明を控える戦略的あいまいさを維持する一方、当分参拝を自制するものとみられる。これで関係改善の糸口はいったん提供されるだろう。

安倍氏は首脳会談の開催を通じた近隣外交の復元に積極的に臨む可能性が大きい。約5年ぶりに行なわれた日本の政権交代は、韓国の取り組み方次第では関係改善の好機になるだろう。考えてみれば、昨年の春から急速に冷え込んだ関係悪化の原因を提供したのは日本側だった。独島(ドクト、日本名・竹島)、教科書、靖国参拝問題をめぐる対立は、小泉政権の無神経な「先制行為」からはじまった。

もちろん紛争の激化には、韓国側の過剰な対応も一役買っている。日本の保守派の間では、韓日関係を改善するためにはポスト盧武鉉ノ・ムヒョン)政権を待つべきだという声もあがっている。だが、よく考えてみれば日本の政権交代こそ韓日関係を変えられる絶好の機会だ。両国首脳が条件なしに会い、率直かつ虚心坦懐に話しあうことから関係改善は始まるだろう。

安倍首相が就任以降初の訪問地として韓国を選ぶならば、関係改善の劇的な雰囲気が作られるだろう。遠からず日中首脳会談が再開され、それをきっかけに日中関係は急速に回復していくはずだ。日中関係が正常化するなか韓日関係だけが停滞しつづければ、韓国の外交的選択肢もさらに減っていくだろう。安倍政権のスタートを契機に、韓国は開かれた心と柔軟な姿勢で新しい韓日関係を模索していかなければならない。

李元紱(イ・ウォンドク)国民大政治学教授

2006.09.27 14:13:01
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=80271&servcode=100§code=120

 期待も込めて「安倍首相が就任以降初の訪問地として韓国を選ぶならば、関係改善の劇的な雰囲気が作られるだろう。」と予想する李元紱(イ・ウォンドク)教授の意見なのであります。

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 もし安倍首相が日本の外交問題の中で「東アジア外交を正常に戻す」ことを最優先目的、「原状回復型問題」として解決をはかるのであるならば、韓国訪問は戦略的には多くの効果があることでしょう。

 しかしながら、ここで安倍首相の問題解決者(problem solver)能力が問われることになるのは、日本の外交問題を緊急に対応すべき「原状回復型問題」との分析を放置して、「理想追求型問題」との分析を優先した場合、最初の訪問国は戦略的にはインドか米国という考え方もあり得ることになるでしょう。

 しかしながらITコンサルの経験則で言わせてもらうと、先ほども説明したとおり、「原状回復型問題」と「理想追求型問題」が混在する場合は、「原状回復型問題」から解決することが常道なのであります。

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 安倍首相の最初の訪問国は韓国ではいかがでしょうか。

 私は別に嫌韓派でも媚韓派でもなんでもありませんが、この安倍氏の最初の訪問国、読者のみなさまはどうお考えでしょうか。



(木走まさみず)