木走日記

場末の時事評論

日本政府はアメリカのせいにするな〜この国の「自主的」防衛政策の意図をきちんと日本国民に説明すべきだ!

●米軍再編「政府説明責任を果たさず」84%〜朝日新聞 世論調査から

 昨日(23日)の朝日新聞記事から・・・

米軍再編「政府説明責任を果たさず」84% 世論調査

 朝日新聞社の全国世論調査(20、21日実施)で、日米両政府が今月初めに合意した在日米軍再編について聞いたところ、「政府は国民への説明責任を果たしていない」とみる人が84%に達した。日本の費用負担についても「納得できない」が77%に上り、米軍再編問題への国民の厳しい視線が浮かんだ。小泉内閣支持率は前回調査(4月)の50%から45%に下がった。不支持率は39%(前回36%)だった。

 米軍再編について政府が「説明責任を果たしている」との答えはわずか6%。内閣支持層、自民支持層でもともに10%で、8割が「そうは思わない」と否定的だ。

 費用面では、移転に伴う施設整備費を日本が負うことで合意したが、グアムでの約7千億円も日本の負担となった。これらの負担をすることに「納得できる」は17%にとどまり、「納得できない」を大きく下回った。内閣支持層でも「納得できる」が25%、「できない」が69%。米国からは3兆円との見通しが出る一方、日本政府からは数字が示されず、負担が妥当かどうか疑念が広がっているようだ。

 今回の再編では沖縄の負担の軽減が柱の一つに据えられた。沖縄の負担軽減策として評価するかどうか聞くと、「大いに」「ある程度」を合わせた「評価する」が48%、「あまり」「まったく」を合わせた「評価しない」は45%と見方が割れた。

 日本の安全保障に及ぼす影響については「プラスになる」が39%で「マイナスになる」の26%を上回った。ただ、判断を示さない「その他・答えない」が35%とかなりの割合を占めた。今月13、14日に本社が実施した沖縄県世論調査では「プラス」31%、「マイナス」43%と否定派が多数となっていた。

 内閣支持率は、男性は前回から横ばいで49%(不支持40%)。一方、女性は前回(支持49%)より下がって42%(不支持39%)となった。また、20〜40代で減少幅が大きい。政党支持率は自民が前回の38%から34%に低下、民主は前回の17%から19%に増えた。

2006年05月23日00時33分
http://www.asahi.com/politics/update/0523/002.html

 国民的物議をかもしている米軍再編問題でありますが、朝日調査によれば「政府は国民への説明責任を果たしていない」とみる人が84%に達したそうです。日本の費用負担についても「納得できない」が77%に上り、米軍再編問題への国民の厳しい視線が浮かんだということであります。

 グアム移転費用だけで、費用の59%にあたる7000億円が日本側の負担であり、その他の基地の再編費用まで含めると、3兆円を下らない巨費が日本側負担としてかかる試算がアメリカ政府筋から公表されて、日本政府があわてて否定するという「茶番劇」まで繰り広げられたのは記憶に新しいところです。

 ・・・

 しかしながら、この朝日新聞記事の記述で一カ所気に入らない記述があります。

米国からは3兆円との見通しが出る一方、日本政府からは数字が示されず、負担が妥当かどうか疑念が広がっているようだ。

 日本政府筋から日本国民に向けて公式の会見で具体的数字を示していないという意味ではこの記述は誤りではないでしょうが、そもそも「米国からは3兆円との見通しが出」たのは事実ですがその3兆円の積算根拠を与えたのは、3月に日本政府自身がアメリカ政府に情報提供した日本政府が試算した移転費用予測なのです。

 先月25日、米国ローレス米国防副次官が国防総省で記者会見し、在日米軍再編全体にかかる日本側の負担について、少なくとも約260億ドル(約2兆9800億円)にのぼるとの「控えめな試算」を明らかにし、 会見から一夜あけた27日午前、安倍晋三官房長官は記者会見で米側の一方的金額提示にローレス発言は「途方もない数字」と不快感を示したわけです。

 この日本政府の狼狽ぶりはとんだ「田舎芝居」と言わざるをえません。

 一方的な発表に「不快感」を示すのは理解できますが、「3兆円」という金額にまで「途方もない数字」だとする言及はいただけないのです。

 なぜならば、すでにこの「3兆円」の支出は、2ヶ月前に日本政府自ら試算した数字とぴったり符合するモノであり、2ヶ月前の試算段階からすでに、「一般会計の防衛予算」から10年で分割して計上することまでが具体的に検討されていたからです。



●なぜか「しんぶん赤旗」以外まったくメディアで触れられない日経スクープ記事

 当ブログの「移転費用3兆円の出所は実はアメリカ政府ではなく日本政府試算だ」という主張の根拠は3月12日の日本経済新聞の地味なスクープ記事に依拠しています。

 3月12日の日本経済新聞記事では、すでに「在日米軍再編にかかる日本側経費について総額3兆円を超すとの政府試算」すでに報じられているのであります。

米軍再編、日本負担3兆円見込む・横田空域、米「一部返還」

 在日米軍再編にかかる日本側経費について総額3兆円を超すとの政府試算が11日、明らかになった。米沖縄海兵隊のグアム移転経費のほか、普天間基地キャンプ・シュワブ沿岸への移設に伴う代替地の建設などが中心となる。一般会計の防衛予算から10カ年程度にわたって計上する方向で検討している。

 日米は米ハワイで7日から11日まで在日米軍再編に関する外務・防衛審議官級協議を開催。このなかで日本側は試算を説明した。

3月12日 日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20060312AT3S1100P11032006.html

 すでに3月上旬には、日本政府は「在日米軍再編にかかる日本側経費について総額3兆円を超すとの政府試算」を得ていたのです。

 しかも、「一般会計の防衛予算から10カ年程度にわたって計上する方向」と、極めて具体的に予算措置までも検討していたのです。

 これは重大な情報です。

 この記事が正しければ、3兆円を試算したのはアメリカ政府ではなく日本政府自身であり、3月上旬には公式に日米外務・防衛審議官級協議の席上で日本側からアメリカ側に試算を説明していたわけです。

 だとすれば、安倍晋三官房長官は記者会見で米側の一方的金額提示にローレス発言は「途方もない数字」と不快感を示したわけですが、この安倍氏の発言や他の日本政府高官の一連の不快発言こそ、国民にとってとんだ「不快」な「田舎芝居」であるわけです。

 自分たちの積算した金額に自分たちが「途方もない数字」と不快感を示すとは・・・

 ・・・

 このあたりの日本政府の情けない対応については、当ブログでも再三エントリーしてきました。

■マスメディアは何故「田舎芝居」を報道しないのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060503/1146640369
■負担3兆円は試算済みでも「不快感」表明する日本政府の「田舎芝居」http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060427
■米軍グアム移転日本分担59%に異議あり
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060424

 また、私は一市民記者として、インターネット新聞JanJanにおいても記事を掲載して告発してきました。

在日米軍再編:負担額「3兆円」は日本政府の試算か? 2006/05/04
http://www.janjan.jp/government/0605/0605033825/1.php

 しかるに、この重大な日経スクープ記事に対して、日本のマスメディアは完全に沈黙を守っています。

 私の知る限りこの記事をフォローしたのは4月3日付けの「しんぶん赤旗」社説だけです。

2006年4月3日(月)「しんぶん赤旗

主張
グアム移転費負担
対米従属姿勢がつり上げ呼ぶ

(前略)

 米政府が協議を重ねるたびにグアム移転費をつりあげてきたのは、小泉政権が、「抑止力の維持、負担軽減」を強調し、アメリカいいなりに再編をすすめているからです。

 米軍再編経費の日本負担は、総額三兆円をこすとの指摘もあります(「日経」三月十二日付)。グアム移転費、沖縄の新基地建設、米軍部隊の移駐などに伴う米軍基地施設の追加提供、自衛隊基地の米軍のための施設整備など、米軍再編費はつりあがるばかりです。
(後略)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-04-03/2006040302_01_0.html

 情けないことに、日本のマスメディアは朝日も毎日も当の日経自体もこのスクープ記事のフォローをしようとはしないばかりか、事実上無視しているのです。



アメリカ政府高官も認めた「田舎芝居」

 興味深いのは日本政府から教えてもらった「3兆円」発言をして、他ならぬ日本政府から思わぬ「反撃」をくらった当のローレス米国防副次官のその後の言動です。

米国防副次官「3兆円、積み上げた数字ではない」・日本負担

 【ワシントン3日共同】ローレス米国防副次官は2日、訪米中の久間章生自民党総務会長ら与党議員団と会い、在日米軍再編にかかる経費の日本側の負担を約260億ドル(約3兆円)とした自らの発言について、「積み上げた数字ではない」と述べ、精査したものではないと釈明した。

 ローレス氏は先月25日の記者会見で、日本側負担を国内での200億ドルと、在沖縄米海兵隊のグアム移転経費約61億ドルを合わせて少なくとも約260億ドルになるとの見方を示した。 (01:55)

5月3日 日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060503STXKD047203052006.html

 日本政府側の激しい反応に、ローレス氏は、発言から一週間後の5月2日に、「積み上げた数字ではない」と述べ、精査したものではないと一旦、釈明いたします。

 しかしアメリカ政府やローレス氏の立場からすれば、日本政府から説明を受けたモノを単に公表しただけなのに、説明を受けた日本政府自身に批判されてしまったわけですから、納得はいかないでしょう。

 5月7日にはネタばらしをしてしまいます(苦笑)。

米国防副次官「試算、日本側から提供」・在日米軍再編問題

 ローレス米国防副次官は7日のテレビ朝日番組で、在日米軍再編に伴い日本が負担する経費は3兆円と発言したことについて「もとになった情報は日本側パートナーから提供された」と述べ、試算は日本政府が算定したものであることを明らかにした。

 「数字はさまざまな情報に基づいて私が見積もった」と話したが、根拠について「日本側の担当者は『残りの経費は海兵隊のグアム移転経費の2倍だ』と話していた」と説明。「遅くとも半年後には日本側がより詳細な全体の見積もりを示せるはずだ」と述べた。 (00:52)

5月8日 日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20060508AT3S0700G07052006.html

 ・・・

 ヤレヤレです。



●中期防、正面装備など削減へ…米軍再編の財源確保で〜読売新聞記事から

 20日の読売新聞記事から・・・

中期防、正面装備など削減へ…米軍再編の財源確保で

 政府は19日、巨額の在日米軍再編関連経費の財源を確保するため、現行の中期防衛力整備計画(2005〜09年度、総額24兆2400億円)を見直し、正面装備の予算などを削減する方針を固めた。

 見直しの対象は、07年度予算から3年間とするか、08年度から2年間とするかで調整している。米軍再編の最終報告の内容を実施するために近く閣議決定する際、中期防見直しに言及する方向だ。

 米軍再編経費としては、在沖縄海兵隊のグアム移転費102億7000万ドル(06年度予算の換算レートで1兆1400億円)のうち、日本側負担が60億9000万ドル(6760億円)で、そのうち直接の財政支出が28億ドル(3108億円)、出資金が15億ドル(1665億円)となっている。

 一方、国内の基地再編費は「地元振興策を含め1兆5000億〜2兆円程度」(防衛庁幹部)として、総額で2兆円を超すとの見方がある。この場合、再編を10年程度で完了するには、年間平均2000億円以上を要する計算になる。

 これらの経費について、防衛庁は、沖縄施設・区域特別行動委員会(SACO)関係経費と同様、防衛庁予算の「別枠」を設け、政府全体で財政措置を講ずるよう求めているのに対し、財務省防衛庁予算の枠内で処理するよう主張し、対立している。

 ただ、防衛庁も、中期防を見直し、正面装備などを一定程度削減することには理解を示している。

(2006年5月20日3時17分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060520i101.htm

 まずグアム移転費用の7000億円ですが「そのうち直接の財政支出が28億ドル(3108億円)、出資金が15億ドル(1665億円)となっている。」わけです。

 それとは別に「国内の基地再編費は「地元振興策を含め1兆5000億〜2兆円程度」(防衛庁幹部)として、総額で2兆円を超すとの見方がある。この場合、再編を10年程度で完了するには、年間平均2000億円以上を要する計算」をしているわけです。

 ・・・

 あきれてしまいます。

 3月12日に日経記事がスクープしていた「一般会計の防衛予算から10カ年程度にわたって計上する方向」と極めて具体的に予算措置までも検討していた政府試算していたとおりのシナリオが、きれいに数字通り実現しているではないですか。

 しかも、米軍移転を円滑に支援するために、予算上の措置として、「防衛庁も中期防を見直し、正面装備などを一定程度削減すること」に理解を示しているわけです。

 ・・・

 シナリオ通り「3兆円」を支出するために日本自体の防衛費の削減まで理解を示しているわけです。

 これが世界的規模で見直されている米軍トランスフォーメーションに対する、同盟国日本の主体的協力の証であり実態であります。

 日本政府は、こそくな「田舎芝居」など演じず、自国の防衛予算を削ってまで米軍再編に「3兆円」の予算を投じて協力するという、この国の「自主的」防衛政策の意図をきちんと日本国民に説明すべきです。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■マスメディアは何故「田舎芝居」を報道しないのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060503/1146640369
■負担3兆円は試算済みでも「不快感」表明する日本政府の「田舎芝居」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060427
■米軍グアム移転日本分担59%に異議あり
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060424