木走日記

場末の時事評論

実証された空中浮遊するゆで卵〜下村教授と「プロジェクトエッグス」に賞賛あれ!

kibashiri2006-04-12




●回転ゆで卵はジャンプする 慶応大教授ら、実験で検証

 今日(12日)の朝日新聞から・・・

回転ゆで卵はジャンプする 慶応大教授ら、実験で検証

 横になったゆで卵を勢いよく回すと、起き上がる途中で卵がわずかにジャンプすることを、慶応大の下村裕教授(物理学)らが実験で確かめた。跳びはねる様子は、下村さんが昨年発表した理論予測とほぼ一致した。12日、英王立協会紀要(電子版)に論文が掲載される。

 下村さんの予測は、ゆで卵を水平方向に速く回すと、起き上がる過程で生じる細かな振動の力が、一時的に重力と等しくなり、宙に浮くことを示していた。そこで検証のため、計測技術の専門家と作った「卵回し装置」で、ゆで卵の回転を観察した。

 卵を模したアルミ玉で厳密に測ると、毎秒25回転では5、6回ジャンプし、浮上時間約0.02秒、高さ最大約0.1ミリと計算通りだった。同じ回転速度だと卵の形が細長い方が高く跳ぶ、などの点も予測と一致した。

2006年04月12日
http://www.asahi.com/science/news/TKY200604110436.html

 うむ、ついにやりましたな、下村裕教授。

 教授が理論的に予測していた「回転卵の浮遊現象」がついに科学的に検証されたのであります。

 苦節5年、いや、おめでとうございます。

 じーん(感動

 ・・・

 え?

 「ゆで卵を思いっきりまわしたらただ振動で少し跳ねただけじゃないのか」って?

 な、なにをいうのですか、これは世界で初の「回転卵の浮遊現象」の理論を検証した画期的実験なのですよ。

 理論を発表してから今日のこの報道まで5年近くの月日が費やされたのでございますよ。

 ・・・

 よーし、今日はこの画期的な「回転卵の浮遊現象」が科学的検証に成功したことを祝して、これまでの経緯を、当ブログの読者のみなさんにわかりやすくご紹介しましょう。



●立ち上がる回転ゆで卵のなぞ

 そもそもの発端は、昔から知られていたある現象についての一人の物理学者の素朴な疑問から、このお話は始まるのです。

 テーブルの上でゆで卵を水平方向に勢いよく回転させると、重心が上がり、回転しながらひとりでに起きあがります。

 これってどういう理屈なのだろうか。

 古くから知られているこの回転させると立ち上がるゆで卵のなぞを物理学者である慶応大学下村教授が着目したのであります。

 そこで下村さんは、英国ケンブリッジ大学に留学中、このテーマについて、数学者であるケンブリッジ大学のH. K. Moffatt教授と共同研究を行ったのであります。

 2002年、初めて数式で説明した下村さんらは、さらに、起きあがる過程で卵が細かく振動する様子を、流体力学などの理論で詳しく解析したのであります。

 当時の論文は英科学誌nature誌に、2002年3月28日に発表されました。

 論文のタイトルはズバリ"Classical dynamics: Spinning eggs — a paradox resolved"、「古典力学:回転卵−パラドックスは解決された」であります。

 論文のブリーフ(さわり)をご紹介いたしましょう。

Classical dynamics: Spinning eggs — a paradox resolved
H. K. Moffatt1 and Y. Shimomura2

Top of pageIf a hard-boiled egg is spun sufficiently rapidly on a table with its axis of symmetry horizontal, this axis will rise from the horizontal to the vertical. (A raw egg, by contrast, when similarly spun, will not rise.) Conversely, if an oblate spheroid is spun sufficiently rapidly with its axis of symmetry vertical, it will rise and spin about the vertical on its rounded edge with its axis of symmetry now rotating in a horizontal plane. In both cases, the centre of gravity rises; here we provide an explanation for this paradoxical behaviour, through derivation of a first-order differential equation for the inclination of the axis of symmetry.

Top of pageDepartment of Applied Mathematics and Theoretical Physics, Silver Street, Cambridge CB3 9EW, UK
e-mail: Email: hkm2@damtp.cam.ac.uk
Department of Physics, Keio University, Hiyoshi, Yokohama 223-8521, Japan
e-mail: Email: yutaka@phys-h.keio.ac.jp

http://www.nature.com/nature/journal/v416/n6879/abs/416385a.html

 えーっと、論文本文は30$払えば全文読めますから興味のある人はどうぞ(苦笑

 え? 論文の内容をいつものように和訳しないのかって?

 ・・・(大汗

 えーっとですね、いつもいつも私が邦訳するとは限りませんですよ。(汗
 (↑専門用語が難しくて邦訳を断念したんじゃないのか(爆笑))

 ・・・(汗

 ゴホン、しょうがないなあ。

 同じ年に帰国した下村先生が、慶応大学で「立ち上がる回転ゆで卵の解」というセミナーを開いていますので、その概要をご紹介しておきましょう。

日時: 2003年7月22日 16:30
場所: 16号館126・127
講師: 下村 裕 氏 (慶應義塾大学法学部)
題目: 「立ち上がる回転ゆで卵の解」

概要: ゆで卵をテーブルに置いて両端をもって速く回すと立ち上がる。 良く知られた現象であるが、重心が重力に抗して上昇する点が不 思議である。テーブルと回転物体との接点で働く摩擦力が不可欠 で、エネルギー散逸系である。講演者は英国ケンブリッジ大学に 留学中、このテーマについてH. K. Moffattと共同研究を行った。 その結果、回転が速い場合ある運動定数が一般的に存在すること を発見し、この運動を表す非線型連立微分方程式の解を得ること に成功した。(Nature,416, 385-386, 28 March 2002.) 講演では、研究の動機、経緯、そして逆立ちごまとの関係も含め、 記論文の内容を解説する。時間に余裕があれば、回転ゆで卵の立 ち上がる向きについての解析結果も報告する予定である。

http://phys.c.u-tokyo.ac.jp/Colloquium/a20030722.html

 つまり、立ち上がる回転卵の不思議なところは、「重心が重力に抗して上昇する点」だったわけですが、この現象は「テーブルと回転物体との接点で働く摩擦力が不可欠 で、エネルギー散逸系」なのでありますね。

 で、下村先生たちは「回転が速い場合ある運動定数が一般的に存在することを発見し、この運動を表す非線型連立微分方程式の解を得ることに成功した」わけです。

 読者のみなさん、おわかりいただきましたか。
 (↑お前が理解してないだろう、お前が(爆笑))

 ・・・(汗



●理論が予測する信じがたい奇妙な現象〜ゆで卵の空中浮遊

 その後、下村裕教授(物理学)と英ケンブリッジ大の研究者は、厳密な数学に基づいてこの現象をさらに細かく研究し起こっていることを予測してみたのであります。

 すると理論が予測するところでは、なんと横になったゆで卵をコマのように高速でまわすと、ある時点でひとりでにジャンプする、というなんとも信じがたい奇妙な現象が起こるというではありませんか。

 理論に依れば、毎秒約30回転以上の速さでまわすと、振動の力が一時的に重力と等しくなり、回転軸が45度前後になった時にわずかに卵が宙に浮くはずなのでありました。
 計算では、跳ぶ高さは最大約 0.1ミリ、浮遊時間は0.02秒と出ました。

 しかし、わずか0.02秒の間で最大0.1ミリという僅かな浮遊現象を捉えるようなそんな精密な実験はとても難しく、実現不可能であると考えられていたのであります。



●「Project Eggs」始動!!〜見よ、現代科学の粋を集めた「卵回し装置」を!!

 神戸大学海事科学部海洋機械工学講座構造強度シミュレーション工学研究室の西岡俊久教授らのグループが、この予測が報道された際に、「精密な検証実験は難しい」とされていたことを受け、「Project Eggs」を立ち上げ、シミュレーションと実験での検証に乗り出したのであります。

 どうです、「プロジェクト X」じゃないですよ、「プロジェクト エッグス」ですよ(爆笑)

 シミュレーションには動的有限要素法を用い、約4000個の要素に分割した卵の運動を約1μsのタイムステップで解き、卵が宙に浮く様子を解明したそうです。

 実験ではアルゴンパルスレーザー連動超高速度ビデオカメラシステムを用い、卵の空中浮上の撮影に成功したのであります。

 ゆで卵の浮上時間も、理論的予測とほぼ一致したわけです。

 神戸大学のホームページでこの偉業を高らかに掲載していますので、以下にご紹介いたしましょう。

ゆで卵が浮く現象を西岡俊久教授らが検証に成功しました 図中右上に回転開始からの時間を示す。単位はmsec(1/1000)秒「ゆで卵(卵形物体)を毎秒30回転以上させた場合、重力に反して宙に浮く」――慶應義塾大学の下村裕教授らが予測した不思議な現象を、神戸大学海事科学部西岡俊久教授らのグループがコンピュータシミュレーションと実験的検証の両方で成功しました。

この不思議な現象は、下村教授と英ケンブリッジ大学のキース・モファット教授 (応用数学) が厳密な数学的解析で予測し、今年5月発行の英王立協会紀要に発表しています。それによると、テーブルの上でゆで卵を高速で回転させると、重心が上がり起きあがります。その速さを毎秒30回転以上にすると振動の力が一時的に重力と等しくなり、回転軸が45度前後になったとき、わずかに卵が宙に浮くというのです。理論では浮く高さは最大約0.1ミリ、浮上時間は0.02秒以下という結果が出ています。朝日新聞5月20日毎日新聞6月1日でも紹介されました。

精密な検証実験は難しいという報道に、海事科学部構造強度シミュレーション工学研究室の西岡教授らは 「Project Eggs」と命名し、学生たちを鼓舞して挑みました。コンピュータシミュレーションでは、 同研究室で動的破壊研究に応用が進んでいる動的有限要素法を用いて、卵を約4000個の要素に分割し、これらを再集合した卵全体の数値モデルの運動方程式を約百万分の一秒毎に数値的に時々刻々解き、その挙動を明らかにしたのです。このシミュレーション結果を動画化し、浮上の様相を確認するとともに、卵とテーブル間の作用力、反作用力および接触面積を計算し、これらがゼロにとなることから卵がテーブルから離れている様相を解明しました。また、シミュレーションによると、先の尖った洋梨型の物体も同様に毎秒30回転以上させた場合、重力に反して宙に浮く現象も観察されています。

また、ほとんど不可能とされていた実験的検証についても、超高速度の動的破壊研究のため同研究室が開発し、現有している世界最先進のアルゴンパルスレーザー連動超高速度ビデオカメラシステム (最高撮影速度100万コマ/秒、撮影コマ数102コマ<各コマ約8万画素> 、各コマ最小露光時間約10ナノ秒) を用いて、卵の空中浮上の様相の撮影にも成功しました。

なお、同研究室に現有の世界最先進アルゴンパルスレーザー連動超高速度ビデオカメラシステムについては同研究室HP (http://simlab.kaiyou.kshosen.ac.jp/)をご参照ください。
http://www.kobe-u.ac.jp/info/topics/t2005_07_11_02.htm

 「世界最先進アルゴンパルスレーザー連動超高速度ビデオカメラシステム」を用いて実験を検証し、みごと「回転卵の浮遊現象」を写真撮影に成功したのであります。

 「世界最先進アルゴンパルスレーザー連動超高速度ビデオカメラシステム」ですよ、みなさん。
(↑意味わかってないだろう(苦笑))

 ここに構想5年、論文発表より4年近くの歳月を費やし、下村教授は多くの協力者のサポートのもとに「回転卵の浮遊現象」を検証成功したのであります。

 ・・・

 スバラシイことですね。

 読者のみなさん、

 下村教授はじめ、西岡教授のもとでこの不可能と思われていた検証にチャレンジした科学者達に心より拍手を送ろうではありませんか。

 パチパチパチパチ。

 ・・・

 え? ところでこの基礎実験は将来何の役に立つのかって?

 ・・・(汗

 そんなこたあ、私はわかりません(爆笑)

 しかしです、読者のみなさん、

 素人目ではちょっと見、無意味で役に立たなそうなこうした基礎実験の積み重ねが、まったく新しい画期的な技術を生むのでありますよ。(たぶん)

 「それがなんの役に立つの?」なんて言ってると、予算完全消化と成果物第一主義に陥ってしまい、エリート公務員のような発想になってしまいますよ。
(↑公務員はまったく関係ないだろうが? またクレームもらうぞ(苦笑))

 ・・・(汗

 とにかく「回転卵の浮遊現象」は見事検証されたのであります。

 いいですか、みなさん、「空中浮遊」が科学的に証明されたのは「ゆで卵」ですよ、どこぞの「尊師」じゃないですからね(爆笑)

 

(木走まさみず)