台湾政権を揺さぶる中国パンダ外交のしたたかさ
しかし、ここ数日間の中国外交のしたたかさには、舌を巻いてしまいます。
何の話かと申しますと台湾に対する中国のたくみなパンダ外交のことであります。
パンダまで利用するとは、さすが中国4000年のしたたか外交術なのであります。
あまり注目されていないようなので今日はこの話題を取り上げてみましょう。
●中国が贈るパンダ2頭決定に、怒りまくる台湾政府〜なんだかよくわからん構図
まず、7日のCNNニュースから・・・
中国が台湾に贈るパンダ2頭決定
北京──中国政府は6日、台湾に寄贈するパンダ2頭を決定したと発表した。台湾で親大陸感情を高め、独立志向の強い陳水扁総統をゆさぶるのが狙いとみられる。
中国国家林業局の報道官によると、台湾に贈られる予定のパンダは、1歳4か月で体重46キロの雄と、1歳5か月で同48キロの雌。名前は28日に中国国民の投票で決定され、この模様はテレビで放送される。
パンダ寄贈は昨年5月、台湾の最大野党・国民党の指導者2人が、1949年の中台分断以来初めて訪中したことを受け、中国側が発表した。
台湾当局はパンダを受け入れについてまだ結論を出しておらず、中国側の一方的な情報発表に不快感を示している。
2006.01.07 CNNニュース
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200601070005.html
同じく7日の毎日新聞から・・・
中国:台湾へパンダ2頭 陳政権、受け入れ表明せず
【北京・飯田和郎】中国政府は6日、台湾に贈るジャイアントパンダのオス、メス各1頭を発表した。中国はペアを6月にも台湾側に渡したい考えだが、台湾の陳水扁政権は統一工作の一環として警戒し、受け入れを表明していない。会見した国務院台湾事務弁公室の戴肖峰交流局長は「台湾側が民意に応え、関係部門が積極的に協力することを望む」と語った。
2頭はいずれも生後約1年4カ月で、四川省のパンダ研究センターで人工飼育された。若さや健康状態などを基準に11頭が選ばれたのち、2頭の相性などをもとに最終決定された。
毎日新聞 2006年1月7日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/taiwan/news/20060107ddm007030112000c.html
中国政府が台湾に寄贈するパンダ2頭を決定したらしいですが、「名前は28日に中国国民の投票で決定され、この模様はテレビで放送される」そうですが、いや国を挙げてのイベントのようであります。
しかし、せっかく贈呈してくれると言うのに、「台湾当局はパンダを受け入れについてまだ結論を出しておらず、中国側の一方的な情報発表に不快感を示している」とはどういうことでしょうか。
中国側は「台湾側が民意に応え、関係部門が積極的に協力することを望む」と催促しているとは、たかだかパンダの贈呈ごときで、ちょっと変な図式なのであります。
・・・
で、同じく7日の毎日新聞から・・・
中国:台湾へのパンダ選定 「統一工作意図」−−台湾政府が批判
【香港・成沢健一】台湾行政院(内閣)で対中国政策を担当する大陸委員会の呉〓燮(ごしょうしょう)主任委員(閣僚)は6日、中国政府が台湾に贈るパンダを選定したことについて「統一工作を意図したもので、宣伝を通じて受け入れざるを得ない状況を作り出している。台湾の手続きが終わっていないのに大々的に報道させたことは、台湾を全く尊重していない行為だ」と批判した。台湾の中央通信が伝えた。
一方、野党・国民党の馬英九主席が市長を務める台北市の市立動物園などは既にパンダ受け入れを表明、同園では特別展示館をパンダ館に改造する計画も進んでいる。
毎日新聞 2006年1月7日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/taiwan/news/20060107ddm007030113000c.html
うーん、台湾政府は「統一工作を意図したもので、宣伝を通じて受け入れざるを得ない状況を作り出している。台湾の手続きが終わっていないのに大々的に報道させたことは、台湾を全く尊重していない行為だ」と怒りまくってるようです。
なんで、たかがパンダをもらうのにそんなに目くじらをたてるのでしょう。
よくわからない構図であります。
ましてや、「野党・国民党の馬英九主席が市長を務める台北市の市立動物園などは既にパンダ受け入れを表明、同園では特別展示館をパンダ館に改造する計画も進んでいる」そうじゃないですか。
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台湾政府は少々大人げないと誰しもが思ってしまいます。
しかし、台湾政府が怒るのも無理はない中国の巧みな外交戦術が裏に隠されていたのでございます。
●台湾政府怒りの拒否表明「パンダのために主権放棄せず」
昨日(10日)の毎日新聞から・・・
台湾:謝行政院長「パンダのために主権放棄せず」
【台北・庄司哲也】中国が台湾への贈呈を発表した2頭のジャイアントパンダについて、台湾の謝長廷行政院長(首相)は9日、「台湾に来る可能性は低い」との見方を示した。絶滅の恐れがある動植物の輸出入を規制する「ワシントン条約」では、パンダの移動には輸出国と受け入れ国双方の証明が必要。謝行政院長は、パンダ受け入れには中国が台湾を主権国家と認める必要があると指摘し、「中国はこの点を受け入れず、台湾も2頭のパンダのために主権を放棄することはできない」と述べた。
中国は6日、台湾に贈るパンダ2頭の選定結果を発表。中国側は「国内移動」だとしているが、台湾政府は、受け入れれば「一つの中国」の原則を認めることにつながりかねないため「ワシントン条約を順守する」との見解をとっている。
毎日新聞 2006年1月10日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/taiwan/news/20060110ddm007030072000c.html
うーん、なるほどそういうことかあ。
中国としては中国と台湾は「一つの中国」の建前があるので、台湾へのパンダ寄贈はまさに「国内移動」だから「ワシントン条約」など関係ないという論法で、一方的に計画を進めていたのですね。
台湾政府の「パンダのために主権を放棄することはできない」とは、オーバーな話ではないわけです。
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いや、中国外交恐るべしであります。
●周到に準備された中国パンダ外交〜中国接近政策の台湾野党国民党とたくみに連携
ここまでの中国の巧みな外交戦術をまとめてみましょう。
まずことの発端ですが、今回のパンダ寄贈は昨年5月、台湾の最大野党・国民党の指導者2人が、1949年の中台分断以来初めて訪中したことを受け、中国側が発表したことから始まります。
ここでポイントなのが昨年訪中したのが「台湾の最大野党・国民党の指導者」であり、現台湾政権与党の民進党は完全に無視されていたのです。
で、台湾政府の公式のパンダ受け入れ表明を待たずに、野党・国民党の馬英九主席が市長を務める台北市の市立動物園などが、既にパンダ受け入れを表明、同園では特別展示館をパンダ館に改造する計画も進めてきたのでした。
そのように台湾現政権を無視する形で、一方的に中国政府と台湾野党・国民党の間で進めてきたのが今回のパンダ贈呈計画であったわけです。
で、中国政府は6日台湾政府を最後まで無視したまま、台湾に寄贈するパンダ2頭を決定、しかもはでなイベントとして「名前は28日に中国国民の投票で決定され、この模様はテレビで放送される」予定まで公表したわけです。
そして上記記事の台湾政府のパンダ拒否発言とつながっていくのであります。
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台湾野党の国民党は、昨年の歴史的訪中でも示されたとおり、明らかに中国接近の政策をとっています。
一方、与党の民進党は台湾独立綱領をもちながら、政権発足早々から李登輝氏の「二国論」を廃棄し、中国傾斜路線に一旦転換した過去があります。
陳水扁氏はかつてテレビ談話で「統合論」を発表し、「中国とは、文化経済の統合をはかり、最終的には政治統合に至る」と明言し、中国傾斜の姿勢をみせていました。
しかしながら、与党民進党は国民党ほどには中国接近政策に舵を切ってはこなかったのです。
そのような民進党を揺さぶるために、今回の中国パンダ外交は、中国接近政策の野党国民党とたくみに連携をとりながら周到に準備されたモノでありました。
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うーん、この平和と友好のシンボル的存在であるパンダをも、たくみに利用する中国外交のしたたかさはどうでしょう。
パンダとはずるいなあ(苦笑
しかし、この中国の小ずるさはなかなかなものではあります。
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ああ、日本外交も、この中国外交に負けないで少しはしたたかさを示して欲しいと思ったのは、私だけでしょうか。
(木走まさみず)
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