木走日記

場末の時事評論

日本のマスメディアの無責任な報道姿勢に社会正義などあるのか?

●駄記事三題〜女性消防士長と職安職員と無職男の軽犯罪を嬉々として容疑者実名報道するマスメディア

 読売新聞から・・・

駅の待合室で窃盗、女性消防士長を現行犯逮捕

 神奈川県警港南署は27日、同県相模原市南台、横浜市消防局港南消防署の消防士長吉沢澄子容疑者(41)を窃盗の現行犯で逮捕した。

 調べによると、吉沢容疑者は同日午後10時5分ごろ、横浜市港南区丸山台の同市営地下鉄上永谷駅ホームの待合室で、ベンチに置いてあった同市金沢区の男性会社員(56)のかばんから名刺入れ(時価約1万円相当)を盗んだ。近くに立っていた会社員がかばんのチャックが開いていることに気付き、走って逃げる吉沢容疑者を追いかけ、通りがかった男性が改札口付近で取り押さえた。

 吉沢容疑者は名刺入れを持っていたが、調べに対し、「盗むつもりはなかった」と容疑を否認している。吉沢容疑者は、この日は非番で、同市内で友人と会うために地下鉄に乗っていたという。

(2005年12月28日10時52分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051228i303.htm

 何でしょうこの駄記事は・・・

 ただの「かばんから名刺入れ(時価約1万円相当)を盗んだ」だけの犯罪ですが、容疑者が横浜市消防局港南消防署の女性消防士長であることに報道価値ありと判断したのでしょうか。

 記事そのものもくだらないですが、鞄のチャックを開け走って逃げるところを現行犯逮捕されていながら、「盗むつもりはなかった」と容疑を否認しているのもなんだかなあなのではあります。

 次は毎日新聞から・・・

下着ドロ未遂:「見ていただけ」の職安職員逮捕 横浜

 27日午後6時半ごろ、横浜市緑区長津田、薬剤師の女性(56)方のアパート1階軒下に干してあった下着を東京都町田市小川、厚生労働省大森公共職業安定所職員、吉原秀和容疑者(41)が触っているのを近くの会社員の男性(26)が発見、走って逃げようとした吉原容疑者を取り押さえた。駆けつけた神奈川県警緑署員が窃盗未遂容疑で現行犯逮捕した。吉原容疑者は「下着を見ていただけ」と容疑を否認している。【鈴木一生】

毎日新聞 2005年12月28日 12時18分
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20051228k0000e040053000c.html

 なんだかなあ、これもただの「干してあった下着を」「触っている」だけの犯罪ですが、容疑者が厚生労働省大森公共職業安定所職員であることに報道価値ありと判断したのでしょうか。

 これも記事も下らないですが、現行犯逮捕されているクセして「下着を見ていただけ」と容疑を否認しているとは、見苦しいなあ。

 最後に朝日新聞から・・・

無銭ボウリング11時間、黙々48ゲーム 60歳男逮捕

 約11時間にわたりボウリングをし続け、料金約2万4000円を払わなかったとして、埼玉県警は27日、狭山市東三ツ木、無職中津忠容疑者(60)を詐欺の疑いで逮捕した。「ボウリングがどうしてもやりたかった。もっと投げ続けたかった」と話しているという。

 狭山署の調べでは、中津容疑者は同市新狭山1丁目の「新狭山グランドボウル」で、26日午前11時40分ごろから午後10時50分ごろまで、料金を払わずに48回のゲームをした疑い。店員に精算を促されると「知人が金を持ってくるから」と答えたが、翌日午前2時の閉店時間になっても料金を支払わなかったため、店員が同署に通報した。

 ボウリング場従業員の話によると、同容疑者は休むことなく、1人で黙々とプレーを続けていたといい、48ゲームのアベレージは133点、最高点が187だった。精算しないと、同一レーンでは48ゲームしかできない仕組みになっていたという。

2005年12月28日00時18分 朝日新聞
http://www.asahi.com/national/update/1227/TKY200512270423.html 

 これはすげーなあ、ボウリングで連続48ゲームって、1ゲーム平均20投として960投ですか(驚

 おい、60歳無職男よ、お前は鉄腕アトムか(爆

 しかし「ボウリングがどうしてもやりたかった。もっと投げ続けたかった」とは御立派です。

 私がボウリング場の支配人ならそのスポーツマンシップに敬意を表して無罪放免してあげるんだけどなあ・・・

 まあ、珍騒動だからたかが「料金約2万4000円」未払いの無銭飲食クラスの軽犯罪ですが報道価値ありと考えているのでしょうか。

 ・・・

 馬鹿らしい。



●日本のマスメディアの無責任な報道姿勢に社会正義などあるのか?

 この駄記事三題をなぜ取り上げたのかと言いますと、日本のマスメディアの偽善に満ちた思い上がった自己主張を粉砕するためであります。

 この3つの記事の特徴は、全て本来なら報道するに値しない現行犯逮捕された軽犯罪の記事であり、しかしながら上記のとおり各容疑者は全て実名報道されているのであります。

 ここに大きな問題としてあるのが、ある軽犯罪を報道するかどうかはすべてマスコミ側に委ねられている編集権に依拠しており、例えば容疑者が公務員であるとか事件がおもしろいとか、きわめて曖昧でかつ読者が食いつくかどうか商業的判断も確実に混在しているであろう各社独自の自己都合だけで判断しているのです。

 マスメディアで実名報道された容疑者はその瞬間から大きな社会的批判にさらされてしまうことをマスメディアはどこまで自覚しているのでしょうか。

 私はここで軽犯罪容疑者をいっさい実名報道するなと主張しているのではありません。

 しかしメディアのこの安直で無責任で垂れ流している容疑者実名報道で、いままで何人の冤罪者の人生を潰してきたことか、メディアにはとても重い報道責任というものがあるわけです。

 松本サリン事件の時の容疑者冤罪報道を持ち出すまでもなく、現行犯逮捕の軽犯罪だからといって、今日も安易に容疑者実名報道を垂れ流しているマスメディアに、はたして「国民の知る権利」などを主張する資格があるのでしょうか?

 上記3容疑者が犯した罪などは、言っては何ですが、それこそ毎日日本中で起こっている軽犯罪のひとつにすぎないのでありまして、名刺入れのスリにしたって下着泥にしたって無銭飲食にしたって、毎日毎日掃いて捨てるほど容疑者が逮捕されているのであります。

 同じ軽犯罪を犯しながら、たまたまメディアが公務員や珍事件であるという下らない理由だけで安易に取り上げ、実名報道される容疑者達には、報道されていないその他大勢の同様軽犯罪容疑者に比し社会的批判にさらされる理由はあるのでしょうか?

 この日本のマスメディアの無責任な報道姿勢に社会正義はあるのでしょうか?



●社説でわがままな主張をまき散らす「朝日」と「産経」

 今日の社説で、朝日と産経は揃って政府が決定した犯罪被害者等基本計画の方針を、厳しく批判展開しています。

【朝日社説】
犯罪被害者 安易な匿名化は避けよ

http://www.asahi.com/paper/editorial.html

【産経社説】
匿名社会 「羹に懲りて膾を吹く」愚

http://www.sankei.co.jp/news/051228/morning/editoria.htm

 朝日に「犯罪被害者 安易な匿名化は避けよ 」などと主張してほしくないのです。

 事件や事故は私的な出来事にとどまらず、社会の大きな関心事である。その情報は多くの場合、警察の発表とそれを受けたメディアの報道という二つの段階を通って、人々に伝えられる。

 今回の基本計画づくりで問題になったのは警察の発表の段階だ。「警察が実名か匿名かを判断する」という原案に対し、メディアは「実名で発表すべきだ。そうでないと、被害者に会うのもむずかしくなり、公平な報道や捜査の検証をしにくくなる」と反対した。

 実名発表を受けて取材し、被害者の意向も踏まえた上で、報道の際に実名にするか匿名とするかをメディアに判断させてほしい。それがメディアの主張だ。

 朝日社説より抜粋

 警察が判断することには確かに異論もありましょうが、「報道の際に実名にするか匿名とするかをメディアに判断させて」きて、数々の報道被害が発生してきたためにこの問題が起こっていることをマスメディアはまず強く自覚すべきです。

 朝日新聞は実名・匿名の基準など事件報道の指針を公表している。メディアが被害者や読者、視聴者に説明責任を果たすことも欠かせない。

 朝日社説より抜粋

 だから、誰が「朝日新聞は実名・匿名の基準など事件報道の指針を公表している」ことなどで安心できるのですか。

 事件や事故の被害者氏名を実名で発表するか匿名にするかの判断は、原則的に警察に委ねることが、今年最後の閣議で正式に決定された。日本新聞協会をはじめ各報道機関が強く反対していた原案通りに決まったことは、極めて残念であり遺憾である。

 この措置は、犯罪被害者等基本計画による犯罪被害者の救済、支援策二百五十八項目の中の一項に含まれている。「警察による被害者の実名、匿名発表については、案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮する」という文言で、実名か匿名かは事実上、警察当局が判断するというものだ。

 報道機関などは、匿名発表だと事件報道で真実の追求に支障をきたし、ひいては国民の知る権利を阻害するなどの理由から反対し、新聞協会は計画案から削除するよう求めていた。

 産経社説より抜粋

 「匿名発表だと事件報道で真実の追求に支障をきたし、ひいては国民の知る権利を阻害する」というこの主張も耳にたこができています。

 いつマスメディアは国民の代表者として認知されたのですか?

 「国民の知る権利」ではなく「マスメディアの知る権利」が浸食されるから大騒ぎしているのであって、既得権益擁護のわがままで身勝手な主張なのではないですか。

 ・・・



●巨悪には談合提灯持ち報道や完全沈黙する体たらくを、どう説明するのか?

 日本のマスメディアは、今日この瞬間にも、無責任に、無自覚に、無反省に、興味本位な実名報道を垂れ流し続け、社会にスケープゴードをささげ続けています。

 私は今回の政府決定に必ずしも全面的に賛成するモノではありませんが、マスメディアの主張が粉砕されたことは、心から安堵いたしました。

 マスメディアは、政府を批判する前に、自分たちが単なる「媒体」にすぎないことを強く自覚し、自分たちのいままでしでかしてきた無責任な被害者に対する過剰報道や一部容疑者に対する冤罪報道に対して反省すべきなのです。

 かたや無責任に実名報道を垂れ流しながら、肝心の権力者や一部宗教法人など巨悪に対する追求では、チキンジャーナリズムになりはて、談合提灯持ち報道や完全沈黙する体たらくを、どう説明するのですか?

 メディアの主張が必ずしも国民の支持を完全には得ていない理由は、メディア自身のいままでの愚行にあるのです。

 日本のマスメディアの無責任な報道姿勢に社会正義などないといいたいです。



(木走まさみず)