木走日記

場末の時事評論

写真はうそをつくことがある〜何とも姑息な産経のお詫び逆利用

 産経によれば「写真はうそをつくことがある」のだそうです。

 ことの顛末を押さえておきましょう。



産経新聞が虚偽写真 月の絵柄に鳥を合成 大阪の夕刊

 31日朝日新聞の記事から・・・

産経新聞が虚偽写真 月の絵柄に鳥を合成 大阪の夕刊

 産経新聞大阪本社は、10月25日付夕刊の写真グラフに掲載した月をバックに舞うコウノトリの写真が合成写真だったと、31日付夕刊1面で公表した。「虚偽報道にあたる行為」としている。記者が合成写真と言わず、チェックできないまま掲載されたという。同日夕に記者会見した柳原正志取締役(編集・写真報道担当)は「新聞への信頼を裏切る行為で大変申し訳ない。デジタル時代の怖さに改めて思いを致している」と陳謝した。

 同社によると、撮影したのは入社7年目の男性カメラマン(31)。10月17〜21日、兵庫県豊岡市で取材した際、月とコウノトリが絡む写真を狙ったが、天候などに恵まれなかった。イメージを膨らませようと、20日にパソコンを使って合成写真を作製。同僚から褒められたため、合成と言い出せないまま出稿したという。写真説明は「月をバックに大空を舞うコウノトリ。早朝の一瞬の出来事だった」としていた。

 紙面を見た別の同僚から疑問の声が上がり、29日夜に本人が合成だったことを認めたという。

 カメラマンは取材から外れており、無期限の謹慎処分とした。正式処分は後日決める。再発防止策については「出稿のあり方を再検討し、場合によっては元データをチェックする」としている。

 同社によると、夕刊は近畿で約65万部が発行されている。

2005年10月31日21時26分
http://www.asahi.com/national/update/1031/OSK200510310075.html

 関西以外では全く知らされていなかった、産経新聞大阪本社の10月25日付夕刊虚偽写真記事掲載問題ですが、31日に朝日新聞だけが報じていました。

 同じく31日に産経新聞大阪本社が関西版の夕刊でお詫び記事を掲載したことを受けての記事でした。

合成写真掲載のおわびと経緯

                         写真報道局長 西野徳男


 十月二十五日夕刊7面の写真グラフ「CATCH2005 コウノトリ大空飛翔」の中で、「月とランデブー」の見出しに「月をバックに大空を舞うコウノトリ。早朝の一瞬の出来事だった」という写真説明を添えて掲載された写真が、実際は、月とコウノトリのそれぞれ別々の写真を重ねあわせた合成写真だったことが調査の結果、判明しました。これは虚偽報道であり、深くおわびするとともに写真と写真説明を削除します。

     ◇

 撮影した記者は、今月十七日から二十一日まで兵庫県豊岡市で取材を行い、月とコウノトリのからむ写真を狙っていましたが、天候やタイミングに恵まれず、狙い通りの写真が撮影できませんでした。

 一方、この間の二十日、支局で待機中に、同日未明に撮影した月と、十七日に撮影していたコウノトリの写真を理想の構図としてパソコンのソフトで重ね合わせたイメージ写真を作成。帰社後にこの写真を見た同僚が「見事な出来栄えだ」とほめたため、合成写真と言い出せないまま出稿してしまったと説明しています。

 出稿の際は、担当デスクと部長が写真と原稿のチェックにあたりましたが、記者を信用していたため、写真を合成と見抜くことができず、そのまま紙面化されました。

 掲載後、鳥にも月にもピントがあっていることなどを不自然に感じた局員の一人が、「合成ではないのか」と疑念を抱いたことがきっかけとなり、調査した結果、二十九日夜になって記者が合成だったことを認めました。

 記者は「イメージ写真をほめられ、『合成』と言い出すきっかけを失った」と話しており、合成と申告しなかったことを深く反省しています。また、「紙面掲載後も良心の呵責(かしゃく)にさいなまれていた」などとも話しています。

 合成写真は、名月や花火などの撮影に時として使われるテクニックですが、その場合は合成であることを明記するのが原則であり、そのことは私たちの「産経記者指針」の「正確と公正」の項にも明記されています。

 合成の事実を隠したまま記者が出稿し、それをチェックしきれず掲載に至ったこと、加えて「早朝の一瞬の出来事だった」と説明を添えたことは虚偽報道であり、読者に対する重大な背信行為であると同時に、新聞に対する信頼を揺るがしかねない深刻な問題と受け止めています。誠に申し訳ありませんでした。

 本人については、現在、厳重注意のうえ、取材からはずして内勤を命じ、写真報道局内で無期限の謹慎としました。関係者も含めた正式な処分については、賞罰委員会を開いたうえで決めることになっています。

 私たちはこれまでも報道機関で不祥事などが起きるたびに、局員全員に対して注意を喚起していましたが、今後、写真出稿の際のチェック態勢や指導のあり方を見直すとともに、一人ひとりがさらに記者倫理の徹底を図ることで、再発の防止に取り組む所存です。

     ◇

 上記の「月をバックに大空を舞うコウノトリ」の写真は、紙面から抜粋し、産経関西にも十月二十五日から十月三十一日まで掲載されました。深くおわび申し上げます。

(2005/10/31) 産経関西
http://www.sankei-kansai.com/yomoyama-kansai/yomoyama-kansai19.html

 合成写真捏造などあってはならない不祥事ではありますが、一地方版の夕刊の写真でもあり、コウノトリの写真に月を合成するというその不正の内容も社会的影響も少ないと判断したのでしょう。

 産経新聞は、関西版限定でお詫び記事を掲載しました。

 確かに写真が掲載された後とはいえ、自社の手で不正を発見し自己申告しお詫び記事を掲載している点は消極的ではありますが、私もこの段階では評価いたしておりました。

 ところが・・・



サンケイスポーツの胡散臭い11月1日記事

 他のどこのメディアも取り上げていない翌11月1日、同じ産経新聞系列のサンケイスポーツだけが、このお詫び問題を取り上げてきたのです。

産経新聞が合成写真を掲載…31日付紙面で「おわび」

産経新聞は10月31日、大阪本社発行の夕刊で過去に掲載した写真グラフの中に合成写真があり、「虚偽報道だった」と公表した。

合成だったのは、10月25日付夕刊7面で「月をバックに大空を舞うコウノトリ。早朝の一瞬の出来事だった」という写真説明とともに掲載された写真。社内調査の結果、実際は月とコウノトリをそれぞれ別々に撮影した写真を重ね合わせたことが判明した。

産経新聞によると、記者が合成写真であることを申告せずに出稿し、社内では合成写真を見抜くことができず、そのまま紙面化された。掲載後に写真を不自然に感じた写真報道局員が「合成ではないのか」と疑念を持ったことから社内調査を実施していた。


産経新聞大阪本社・西野徳男写真報道局長
「今回の事態は、読者に対する重大な背信行為であり、産経新聞に対する信頼を揺るがせかねない深刻な問題と受け止めています。深くお詫びするとともに、記者倫理の徹底を図り、再発防止に取り組んでいく所存です」

2005.11.01 更新 サンケイスポーツ
http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200511/sha2005110109.html

 ・・・


 なぜ系列のサンケイスポーツ全国版に載せたのか?

 これはある意味でとても胡散臭いと思いました。

 ・・・

 うがった見方をすれば、社内調査で自ら合成を発見し、社会的にも大した影響はないから、逆に自浄作用のしっかりしたメディアであることをアッピールしようとしたのではないのか。

 系列スポーツ紙で報じさせるこの産経の手口に、私は苦笑せざるを得ませんでした。

 しかし・・・



●「写真はうそをつくことがある」〜うそぶく産経の姑息なコラム

 今日(2日)の産経新聞のコラムから・・・

 写真はうそをつくことがある。小欄にしばしば登場する『ザ・レイプ・オブ・南京』はかっこうの例だろう。あまたある誤りのなかのひとつ、「慰安婦にするための強制連行」と紹介されている写真は、実は日本軍に守られて農作業に出かける中国側女性の友好的な光景であった。

 ▼湾岸戦争時に目がくぎ付けとなった、油まみれの水鳥の姿も記憶に新しい。情報戦の象徴とされたが、結局ペルシャ湾原油で汚したのは米軍、イラクいずれであったのか。いまだ真相はわからない。

 ▼「良い絵柄を」というカメラマンとしては当然の心がけにも危険が潜んでいると、フォトジャーナリストの新藤健一さんは指摘する。たとえば、人間くさい風景を撮りたくても、人が通りかかる気配がないとき、隣に友人でもいれば通行人役を頼みがちだ。

 ▼「カメラマンは常にこの『やらせ』や演出の『ワナ』と葛藤しているのだ」という(『写真のワナ』情報センター出版局)。そのうえデジタルカメラの出現で、実在しない画像までパソコンのソフトで簡単に作り出せる時代を迎えている。

 ▼月とコウノトリの合成写真を、その事実を伏せたまま出稿した本紙記者は、別にスクープ写真を狙ったわけでもなく、まして政治的意図などあるはずもない。だからこそ、あっさりワナにはまった軽さが悲しい。

 ▼本紙に限らず新聞は今、デジタル映像が飛び交うネットの世界と手を携え、あるいは競争しながら、生き残りを図っている。速報性や双方向性では分の悪い既存メディアが誇れるのは、自分の目で見て、耳で聞いたことだけを伝え、それをもとに主張する愚直さだけなのだから。ただ救いは、外部の指摘を受ける前に、合成を見破ったプロの存在である。
平成17(2005)年11月2日[水] 産経新聞 産経抄
http://www.sankei.co.jp/news/column.htm

 良くこういう姑息なことが全国版一面コラムで言えたモノです。

 一地方版のことでもあり、大げさに取り上げず黙って見守ろうと思っていましたが、このコラムを読んで考えが変わりました。

 産経新聞編集部を強く批判しておきます。

 全国版コラムを使ってこの言い分はあまりに筋が通らないでしょう!

 ・・・

 このコラムの結語

「ただ救いは、外部の指摘を受ける前に、合成を見破ったプロの存在である」

 この一文にはなんとも激しい嫌悪感を抱いてしまいます。

 なんとも手口が姑息です。

 産経新聞にはっきり問いたいです。

 社会的影響も十分少ないだろうことを計算した上で、系列紙も動員しながら、このお詫び記事を逆利用するのは何故ですか? 


 産経新聞とはとんでもないマッチポンプメディアであります。



(木走まさみず)



<テキスト修正履歴> 11.02 8:35

 産経新聞11/1日の29面でお詫び記事が掲載されていました。
 一部事実誤認がありましたので該当個所を訂正いたしました。
 isoisiさん情報提供有り難うございました。



<関連テキスト>
●朝日捏造記事ではしゃぐ資格なんかない「産経抄」の馬鹿さ加減
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050901/1125566212
●朝日はいくつ委員会をつくるつもりか〜社会の公器として落伍メディアだ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050831/1125472660