木走日記

場末の時事評論

暴風カトリーナでダッチロール〜ブッシュ政権とサマワ自衛隊の行く末

●英豪軍、来春イラク撤退か?

 英国とオーストラリアがサマワ撤退方針を固めたという報道が飛び交っています。
 13日の朝日新聞から・・・

英豪、サマワ撤退を打診 日本の派遣延長に影響か

陸上自衛隊が派遣されているイラク南部・サマワで、治安維持にあたっている英国軍とオーストラリア軍が、サマワからの撤退を日本政府に非公式に打診していることが13日、明らかになった。12月に期限を迎える自衛隊派遣について小泉政権内では延長論が強いが、英、豪軍の撤退時期によっては、派遣継続が困難となる可能性もある。

複数の政府関係者によると、日本も含めた3者の意見交換の場などで打診されたという。日本側は撤退しないよう求めたとみられる。撤退時期に関しては「決まっていない」としている。イラクの治安状況の悪化などもあり、各国とも派遣部隊の撤退時期を模索しているのが現状だ。この中で、サマワからの撤退案も浮上していると見られる。

イラク復興支援特措法に基づく自衛隊の派遣期間は12月14日まで。政府は延長の是非を検討しており、小泉首相は12日の記者会見でイラクへの支援について「日本としてどういう役割を果たすことができるか、という点も踏まえながら、総合的に判断して決めたい。今の段階で12月にどうするかと言うのはまだ早い」と語っている。

一方、サマワでの活動については、防衛庁内にも「英豪軍がサマワから撤退すれば陸上自衛隊の活動は困難になる」「派遣は日米同盟を重視した政治的な意味合いが強く、現地での仕事は少なくなってきた」(幹部)との指摘もある。

asahi.com」 2005年9月13日
http://www.people.ne.jp/2005/09/13/jp20050913_53501.html

 これにたいし、昨日、日本政府は英豪軍のイラク撤退報道を否定したようです。

英豪軍のイラク撤退報道を否定 官房長官と外相

 細田官房長官は27日午前の記者会見で英国のイラク駐留軍が来年5月からイラク南部に展開する部隊の本格的撤退を始めるなどと報道されていることについて「承知していない」と述べた。町村外相も同日の会見で「日英外相会談で英外相は、いま撤退は全く考えていないと話した」と語り、事実関係を否定した。

 また、細田長官はサマワに展開する豪州軍の撤退報道について「豪州政府が検討したとか、決定したという事実はない」と否定した。

2005年09月27日15時43分 朝日新聞
http://www2.asahi.com/special/iraq/TKY200509270280.html

 しかし、数時間後、豪州国防軍司令官から再度、サマワ撤退の情報が発信されています。

「5月までにサマワ撤退と予想」 豪州国防軍司令官

 オーストラリアのヒューストン国防軍司令官は26日夜、キャンベラで講演し、自衛隊が駐留するイラク南部サマワの治安維持を担当しているオーストラリア軍部隊について「(サマワのある)ムサンナ州ではすべてうまくいっている。来年5月までに撤退できると予想している」との見通しを話した。AAP通信が伝えた。

 ただ「決めるのは私でなく、政府だ」とも述べ、撤退は決定事項ではないことも示唆した。

 豪州は日本や英国などの要請を受け、今年4月末から1年の予定で約450人をサマワに派遣、治安維持とイラク軍の訓練などにあたっている。

 同司令官は「バグダッドなどイラクのほかの地域に展開する部隊については、来年5月以降も引き続き駐留を続ける」とも述べた。

2005年09月27日21時06分 朝日新聞
http://www2.asahi.com/special/iraq/TKY200509270415.html

 もしサマワの治安を自衛隊だけで維持することになれば、これはゆゆしき問題になるわけですが、イギリスもオーストラリアもここに来て、国内世論が長引くイラク駐留に反対の意向を強めていますので、この英豪のイラク撤退問題はしばらく予断を許さない状況が続くと思われます。

 で、肝心のアメリカなのですがどうもこちらも雲行きが不透明になってきているような・・・



●ひとりの在日アメリカ人が語る〜ハリケーンカトリーナ』はターニングポイント?

 私の仕事仲間のスティーブは、今は某ITメーカーの研究員として働いている在日10年になるアメリカ人中年デブ(苦笑)であります。

 同世代なのと酒好き・話し好きという共通の趣味(?)もあって彼とはけっこう馬が合い、よく一緒に酒飲んだりしておりますが、先日も都内の酒場で、ビールを飲みながらハリケーンカトリーナ』の話題になりました。

「しかし、TVの映像で見るとたいへんな被害みたいだけど、被災している人がほとんどアフリカ系なのが問題になっているよね。ニューオリンズはもともと黒人が多い街だったのかも知れないけど」
ティー「うーん、もう少し複雑な事情がありそうだね。水没した地帯が黒人居住区であるダウンタウンが中心であったことと、車などの移動手段が無い貧困層が逃げ遅れて被災したみたいだけど」
「つまり貧困層イコールアフリカ系だったわけだ」
「報道を見る限りね。ボクはニューオリンズは行ったこと無いんだが」
 スティーブ自身は、典型的な北部出身のWASP(白人アングロサクソンプロテスタント教徒)でありまして、ちなみに共和党支持者であります。
「今回のことでブッシュ大統領の対応の遅れが批判されているようだけど・・・」
「うん。事後対応がひどかったのだけれど、イラク戦争の膠着状態でただでさええん戦気分になっていたところに、一部報道で州兵がイラク派遣されていることで満足に救援活動が出来なかった事実が明らかになって、アメリカ世論がブッシュ批判に一気に傾いてしまったのだと思うよ」
「ブッシュはあせって人気挽回に努めているようだけど」
「昨日もニューヨークの友人と電話したんだが、もしかすると政権末期のダッチロールが始まっちゃったかも知れないと危惧していたね。友人はブッシュ政権の終焉の始まりなのかも知れないって言っていた」
「もう少しくわしく説明してよ。 終焉の始まりって、どういうこと?」
アメリカは4年前の9.11に未曾有のテロによる惨劇に見舞われた。結果的にあのテロによりアメリカはブッシュの元に結束して反テロムード一色になったのは皮肉なことだが、テロとの積極的な戦いを標榜するブッシュを支持し、アフガン、そしてイラク戦争へと突き進んでいった」
イラク戦争では大量破壊兵器も発見されず、大儀なき戦争として仏独などの同盟国と深刻な亀裂が生じたよね。」
「当時の一般的アメリカ人知識層の反応としては正直同盟国の意向などあまり重視していなかったね。なんていっても9.11のビル崩壊の残像が我々の脳裏には焼き付いていて、我々こそが被害者であると強く感じていた。我々の多くはブッシュとその取り巻きが少々オツムが短絡的なのは承知な上で、彼らがテロリスト及びその支持者どもにリベンジ(復讐)することを歓迎していたんだ。」
「なるほど」
「問題はそのあとだよ。イラクを復興させるのにこんなに時間と人命を浪費してしまったことだ、ブッシュはイラクでまるで抜け出すことが永遠に出来そうもない泥沼にはまってしまったようだ」
「出口がみつからなくなっちゃった」
「うん。そんな閉塞感が漂い出したタイミングで彼女(カトリーナ)が大暴れしちゃったんだ。多くのアメリカ人はこう思った。9.11のテロリストどもの蛮行による惨劇に屈しないで、ブッシュを支持してアフガン・イラクと戦ってきたが、気が付けば目的もはっきりしない泥沼の消耗戦に陥ってしまい、十数万もの軍隊がイラクで身動き取れなくなっているときに、他ならぬアメリカ本土が自然災害ハリケーンによる惨劇に見舞われた。なんと、他ならぬアメリカ本土がすっかり手薄になっていたんだ。州兵の問題だけではないよ。今回決壊した堤防の問題だって州知事からは再三連邦政府にその危険性を警告する報告が来ていたんだ。連邦政府は軍備以外の国内問題をおろそかにしていたことにみんなが気付いたんだ。」
「目が覚めたって感じなんだね」
「4年前テロリストどもの人工的な惨劇で3千の命を失い、アメリカ国民はブッシュ政権を熱烈に支持し、リベンジ(復讐)の熱病に犯された。そして今回、ハリケーンカトリーナ』という自然の猛威による惨劇で1千以上の命を失い、我に返ったのだ。気が付けばイラク駐留による2千の戦死者というおまけ付きでね」
「つまり、今回のハリケーンカトリーナ』がアメリカ世論がブッシュ支持からブッシュ不支持へ変わるターニングポイントになる可能性があると」
「多くの犠牲者が出ないと気付かないところが情けないがね。ニューヨークの友人は、ブッシュ政権の終焉の始まりなのかも知れないって言っていたのは、まさに大きな流れの変換点として感じているからじゃないかな」
「うん、よくわかったよ。しかしアメリカはわがままだよなあ、世界中で喧嘩しといて結局自分の家が災害に遭えば引きこもっちゃうわけだよね」
「(少しムッとして)小判鮫みたいにアメリカを支持してきた日本人には言われたくないね(苦笑」
「・・・(汗」

 まあ、アメリカ人も100人いれば100通りの意見がありましょうし、一個人のコメントで全てを語るつもりは毛頭ありませんが、このスティーブの話はとても興味深かったので是非読者のみなさまにご紹介しようと思っていました。
 
 特に興味深かったのは、彼が会話の中で盛んに"tragedy”(悲劇・惨劇)という重い単語を使用していたことで、アメリカ人にとり9.11同時テロというテロリストによる"tragedy”で始まったこの4年間に渡るテロリストに対する復讐("revenge")という「熱病」(彼は"fever"と表現していました)が、皮肉にもハリケーンカトリーナ』という自然の"tragedy”により正気に戻らされつつあるというわけです。

 日本人的表現を使わしてもらえば、アメリカ世論の「潮目」が変わりつつあるということなのでしょうか。



●ブッシュ氏の支持率低迷、59%がイラク戦争誤りと

 CNNニュースの世論調査によれば、彼の話を裏付ける様な世論調査の結果が出ているようです。

ブッシュ氏の支持率低迷、59%がイラク戦争誤りと

ワシントン(CNN) ブッシュ米大統領の支持率が40%と、就任以来、最低水準に依然低迷していることが19日分かった。CNN、USAトゥデー紙、ギャラップ社の共同世論調査の結果で、大型ハリケーンの被災地への大型復興計画の発表でも、有権者の信頼が回復出来ていないことを示している。


不支持率は58%。ハリケーンカトリーナ」の被害への対応の是非では、57%が不適切と回答。評価するは41%だった。


武装勢力の攻撃が多発するイラク問題では、67%が政策の不手際を指摘。支持率は32%に低下した。59%が、イラク軍事行動は間違っていたと回答、これまでの類似調査では最大の比率となった。


共同世論調査は、成人818人を対象に、9月16日から同19日まで実施。

2005.09.20 Web posted at: 19:03 JST- CNN
http://cnn.co.jp/usa/CNN200509200019.html

 ハリケーンカトリーナ」被害を契機に、ブッシュ米大統領の支持率が就任以来の最低水準に低迷し、イラク戦争否定派が約6割(59%)に達しているようです。

 しばらくはアメリブッシュ政権外交政策は内向きにならざるを得ないのかも知れません。

 小泉首相および日本政府においては、自衛隊イラク派遣延長問題では、国際世論の動向、中でもアメリカ世論動向の冷静な分析をしつつ、くれぐれも慎重な外交戦略を練っていただきたいものです。

 この問題のみなさまの考察の一助になれば幸いです。



(木走まさみず)