木走日記

場末の時事評論

朝鮮日報社説よりも問題提起できない日本の大新聞社説

 北朝鮮の核問題をめぐる「第4回六カ国協議」に関して、全会一致で「共同声明」が採択されたようですね。

6カ国協議:「共同声明」採択、北朝鮮核兵器放棄

 中国の国営通信社である新華社は19日、北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)の核問題をめぐる「第4回六カ国協議」に関して、全会一致で「共同声明」が採択されたことを伝えた。次回の協議は11月初旬に開かれることで同意した。

 「共同声明」によると、北朝鮮はすべての核兵器と現存する核計画を放棄することや、NPT(核拡散防止条約)に復帰し、IAEA国際原子力機関)の査察を受け入れることで承諾。米国は、朝鮮半島核兵器を配備しておらず、核兵器やその他の兵器で、北朝鮮を攻撃、侵入する意思がないことを確認した。

 また、日朝関係については、「日朝平壌宣言」にもとづき、段階的に関係を正常化していくことで合意した。(編集担当:田村まどか・斎藤浩一)
 
中国情報局 2005/09/19(月) 16:52:33更新
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0919&f=politics_0919_002.shtml

 主催国中国新華社の報道も面目が保ててホッとしているようであります。



●20日付け社説で各紙揃い踏み

 本件に関しては、当ブログでは真面目にフォローアップしていたとはとても言えない勉強不足の状態でありまして、少し内容のおさらいをしておかなければならないのですが、幸い、本日(20日)付けの日本の大新聞の社説はこのニュースで揃い踏みであります。 一応五大紙社説に目を通しておきましょう。

朝日新聞社説】6者合意 やっと出発点に立てた
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
読売新聞社説】[6か国協議合意]「『北』核廃棄実現へ道はまだ険しい」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050919ig90.htm
毎日新聞社説】北の核放棄 誠意をもって査察に応じよ
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20050920k0000m070114000c.html
産経新聞社説】6カ国協議合意 北の透明性確保に全力を
http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm
日経新聞社説】共同声明は北の核廃棄への出発点だ(9/20)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20050919MS3M1900419092005.html

 で、各社説の結語を抜粋します。

朝日新聞社説結語】
 この合意を土台に、一歩ずつ進んでいかなければならない。まず、現に動いている核施設を早く止めることだ。日朝交渉の手がかりもできたのだから、拉致問題を含めて核、ミサイルを包括的に協議する場を早急に再開してもらいたい。

読売新聞社説結語】
 核とミサイル、拉致という懸案を包括的に解決するのが日朝国交正常化の前提であることが、改めて示された。今後の日朝協議で、北朝鮮が前向きの対応を見せなければ、正常化はあり得ない。

毎日新聞社説結語】
 11月に開かれる次回協議では、その具体案が話し合われる。北朝鮮が経済、食糧、エネルギー支援を得るためには、本当に戦略的決断を下したことを行動で示さなければならない。それは、核放棄の手順で誠意ある協力を果たせるかどうかにかかっている。

産経新聞社説結語】
 ただ共同声明に日本人拉致問題が「懸案事項」として明記されたことは日本にとっては成果といっていい。この問題の解決が北朝鮮との関係正常化の「前提」だということは、今後とも決して譲ってはならない一線であることを改めて確認しておきたい。

日経新聞社説結語】
 経済援助や正常化交渉と核廃棄をどうリンクさせるかも課題だ。援助は進んでも核廃棄が進まない事態をどう防ぐか。日本にとっては拉致問題を本格的な議題とする好機だ。3年前の日朝平壌宣言は「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」での「適切な措置」を求めている。

 なるほど、2年の歳月を費やして曲がりなりにも初めて「共同声明」の形で合意文書が出来たことは各紙とも肯定的評価をしているわけです。
 で、今回の合意でもって諸手を上げて喜んでいる場合では全くなく、むしろ核廃棄実現へ道はまだまだ険しいのであり、この合意はいばらの道の出発点に過ぎないわけで、今度こそ北朝鮮は誠意ある対応をすべきである、というわけですね。
 
 一点だけ、枝葉のツッコミですが、「ただ共同声明に日本人拉致問題が「懸案事項」として明記されたことは日本にとっては成果といっていい。」と語っている【産経社説】の揚げ足を取らせていただきますと、普通「日本人拉致問題」を「懸案事項」と表記するのは、「明記」という日本語は妥当ではありません、気持ちはわかりますが(苦笑

 まあ、色合いは別として、どうでしょうメディアリテラシーで比較論しちゃうと各紙の社説は驚くほど内容が日本政府の見解と似通っていますですね。

 日本のメディアですし、「拉致問題」という国民が共有する関心事がありますから、論調が日本政府見解と似通ってしまうのも、無理からぬことですが、時々日本の新聞社説は誰に向かって書かれてるのだろうと苦笑せざるを得なくなるのですが、今回も教科書みたいな論説が並んでいて、なんだか日本国民に対して書いているのか、金正日氏に対して書いているのか、よくわからないのであります。



●本質的分析をしていない日本マスメディアの社説群

 そもそもなんで今回アメリカ・北朝鮮が同意に至ったのか、それぞれの抱えているお国の事情からの分析が各社説からはほとんど見えてこないのですよね。

 たとえばアメリカ・ブッシュ政権にしてみれば、長引くイラク派兵に加えて ハリケーンカトリーナ」で米政府の対応の遅れが批判されている問題を抱えており、ブッシュ大統領は13日の記者会見で「カトリーナによって、政府のあらゆるレベルで、対応能力に深刻な問題があったことが露呈した」とした上で「連邦政府が正しく対応できなかった点については、私が責任を負う」と述べ、支持率低下に歯止めを掛けるのに必死であるわけです。

 正直、今回の同意はアメリカ側の抱えているお家の事情が、無難な同意を後押しした面は否定できないのでありましょう。

 また、【毎日社説】は、「共同声明は北東アジアの永続的平和への道筋を示すロードマップとも言える内容となった」と評価していますが、これも表面的で深い分析に至っていないモノです。

 期日の表記の一切ない「平和への道筋を示すロードマップ」などは何も「ロードマップ」にはなり得ないわけでして、今回同意されたいかなる事項にも、タイムスケジュールが触れられていないばかりか、日米が主張する核「査察」が先か、北朝鮮が主張する「援助」が先かの最重要な事項の時系列順位すら明記されていないわけです。

 時間の拘束のない同意など、穿って考えると新たな北朝鮮のカードとして悪用される可能性だって今後あり得なくはないわけであります。

 例えば、北朝鮮のお家の事情とすれば、言うまでもなくのどから手が出るほどほしい壊滅的に不足しているエネルギー問題があるわけですが、今回の同意の見返りとしても軽水炉建設を周辺国が援助することが筆頭にあげられていますが、実は北の狙いはそれだけではありません。

 軽水炉とは別に韓国から200万キロ・ワットの電力提供も合わせてねらっているわけです。

 各社説では読売だけが、簡単に共同声明に「200万キロ・ワットの電力提供という韓国提案も盛り込まれた。」と触れているだけなのであります。

 うーん、この問題は、日本の新聞社説では全く問題意識が無く触れていないのですが少し共同声明全文を押さえておく必要がありそうです。



●第4回6カ国協議共同声明(全文)

 中国情報局ニュースから・・・

第4回6カ国協議共同声明(全文)

  第4回6カ国協議共同声明(全文)

  2005年9月19日 北京

  2005年7月26日から8月7日まで及び9月13日から19日まで、中華人民共和国朝鮮民主主義人民共和国、日本国、大韓民国ロシア連邦アメリカ合衆国は中国・北京で第4回6カ国協議を行った。

  中国外交部・武大偉・外務次官、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)外務省・金桂冠(キム・ケグァン)外務次官、日本外務省・佐々江賢一郎アジア大洋州局局長、韓国外交通商省・宋旻淳(ソン・ミンスン)次官補、ロシア外務省・アレクセーエフ次官、米国国務省(東アジア・太平洋担当)・クリストファー・ヒル国務次官補がそれぞれ代表を務めた。

  中国外交部・武大偉・外務次官が協議を主催した。

  6カ国は朝鮮半島及び北東アジアの平和と安定という観点から出発し、相互尊重、対等な関係による協議の精神に基づき、これまで3回の6カ国協議の共通認識の基礎として、朝鮮半島の非核化という目標を実現するために、真剣で、実務的な協議を行い、以下の合意に達した。

【1】
  6カ国は、平和的な方法による、核査察を行い、朝鮮半島の非核化を実現することが6カ国協議の目標であることを重ねて申し合わせた。

  北朝鮮は、一切の核兵器及び現在の核計画を放棄し、早期に「核拡散防止条約」(NPT)に復帰し、及び国際原子力機構(IAEA)の監督の下に戻ることを承諾した。

  米国は、朝鮮半島核兵器がなく、核兵器や通常兵器を用いて、北朝鮮を攻撃したり、侵攻したりする意思がないことを確認する。

  韓国は、1992年の「朝鮮半島非核化宣言」に基づいて、核兵器を搬入・配備しないことを承諾し、韓国内に核兵器がないことを確認する。

  1992年の「朝鮮半島非核化宣言」を遵守・実行すべきである。

【2】
  6カ国は、「国連憲章」の主旨と原則および各国が公認する国際関係に基づいて、お互いの関係を処理することを承諾する。米国と北朝鮮は、相互の主権を尊重し、平和共存し、各自の政策に基づき、徐々に関係正常化を実現することを承諾した。日本と北朝鮮は、「日朝平壌宣言」に基づき、過去の歴史を清算し、懸案を適切に処理するという基礎に基づいて、徐々に関係正常化を実現することを承諾した。

【3】
  6カ国は、2カ国間および多国間において、エネルギー、貿易、投資分野の経済協力を促進することを承諾した。中国、日本、韓国、ロシア、米国は、北朝鮮にエネルギーを援助することを望んでいることを示した。韓国は、2005年7月12日に提示した北朝鮮への200万キロワットの電力援助案を再度申し出た。

【4】
  6カ国は、東北アジア地域の持続的な平和と安定に向けて、共同で努力することを承諾した。当該国は、個別に交渉を行い、朝鮮半島の永久的な平和メカニズムを構築するよう努力する。6カ国は、東北アジアの安全協力を強化するための道を模索することに同意した。

【5】
  6カ国は、「承諾には承諾で、行動には行動で応じる」という原則に基づき、一致協調した歩調で、段階的に上述の共通認識を実現していくことに同意した。

【6】
  6カ国は、第5回6カ国協議を2005年11月に北京で開催することについて合意した。具体的な日程は別途協議する。(編集担当:菅原大輔・如月隼人)

注:上記6カ国協議共同声明(英文)では、冒頭の部分以外、朝鮮民主主義人民共和国をDPRKと表記。大韓民国は(ROK)と表記。それぞれ、「Democratic Peoples Republic of Korea」「Republic of Korea」の略語。新華社発表の中国語版では、大韓民国の略記として「韓」「韓方」、朝鮮民主主義人民共和国の略記として「朝」「朝方」を使っている。

中国情報局  2005/09/19(月) 18:04:35更新
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0919&f=politics_0919_003.shtml

 問題は共同声明第3項です。

【3】
  6カ国は、2カ国間および多国間において、エネルギー、貿易、投資分野の経済協力を促進することを承諾した。中国、日本、韓国、ロシア、米国は、北朝鮮にエネルギーを援助することを望んでいることを示した。韓国は、2005年7月12日に提示した北朝鮮への200万キロワットの電力援助案を再度申し出た。

 いっさいの条件の明示を伴わず、ただ援助の意志を列挙する中で、やはり無条件で韓国の「北朝鮮への200万キロワットの電力援助案」を併記してしまっているのです。



朝鮮日報社説よりも問題提起できない日本の大新聞社説

 この点では、日本の新聞より明確に今回の共同声明に警鐘を鳴らしているのが、韓国の朝鮮日報の今日(20日)付けの社説です。

軽水炉という火種を残した6か国協議共同声明
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/09/20/20050920000022.html

 で、社説の結語です。

 しかし、具体的な履行計画を立てる次の段階では、政府が北朝鮮を説得しなければならない。韓国政府が北朝鮮に200万キロワットの電力を提供することは、北朝鮮軽水炉を放棄することを前提にしているということをはっきり伝えなければならない。

 そうすることで、200万キロワットの電力を提供させながら軽水炉も手にしたいという北朝鮮の胸算用を諦めさせなければならない。

 つまり今回の共同声明がまったく作業の優先順位や期日を明確化していないために「ロードマップ」として役に立たない最たる問題として、各事項が時系列に整理がなされていないだけでなく、各援助に対する条件等が明示されていないことがあるのです。

 そのために、下手に解釈されると200万キロワットの電力を提供させながら軽水炉も手にできるという北朝鮮側の欲張りな主張も成立してしまうおそまつさなのです。

 まあ、数多くある問題の一つに過ぎないのですが、このような問題提起を韓国紙の社説から教わるというのも情けない話ではありますが。


 ・・・

 しかし、何故、日本の大新聞の社説は、もう少し個別具体的な問題提起ができないのでありましょう?

 きっと日本の大新聞は、自社の社説は日本国民よりも金正日将軍閣下に物申すという崇高な使命があると勘違いしているのかも知れません。



(木走まさみず)