「東京神社には戦争犯罪人の遺骨がある」ワシントンポスト記事の憂鬱
今日はある靖国参拝問題関連記事をメディアリテラシー的に考察してみたいと思います。
●分祀しても御霊(みたま)は靖国神社に残るので神道的に意味がない
31日の産経新聞から
神社、遺族は分祀否定
中国や韓国への配慮から、靖国神社にA級戦犯の分祀を求める意見が与党内で相次いでいるのに対し、当事者である靖国神社や遺族は分祀論を明確に否定している。
「分祀しても御霊(みたま)は靖国神社に残るので神道的に意味がない。神社の拒否にもかかわらず、政治的効果から分祀を強要するのは政教分離原則に違反し、避けなければならない」
昨年三月の衆院憲法調査会基本的人権小委員会で、参考人の野坂泰司学習院大法学部長は、憲法違反の恐れを指摘した。
靖国神社も同月に示した神社見解で、A級戦犯の合祀は「昭和二十八年の国会決議(戦犯赦免に関する決議)により、すべての戦犯の方々が赦免されたことに基づく」と主張。「神道の信仰上このような分祀はありえない」「仮にすべてのご遺族が分祀に賛成されるようなことがあるとしても、それによって分祀することはない」と立場を明確にしている。
この問題をめぐっては昭和六十年、A級戦犯の分祀で靖国問題を終結させようとした中曽根康弘首相(当時)サイドが、A級戦犯の遺族を回って分祀を了承する署名を集めたことがあるが、東条英機元首相の遺族は署名に応じなかった。
東条元首相の孫にあたるNPO法人理事長、東条由布子さんは理由について「これは個人の問題ではなく国家の問題だ。分祀を了承することは、(日本が百パーセント悪かったとする)東京裁判史観を認めることになる」と説明。さらに「中国の内政干渉に屈して英霊に背くのは国益に反する。A級戦犯の話のかたがついたら、中国は次はB・C級戦犯についていってくる」と話している。
平成17(2005)年5月31日[火] 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050531/morning/31pol002.htm
少し、発言内容を整理しておきます。
靖国神社側の発言:
「分祀しても御霊(みたま)は靖国神社に残るので神道的に意味がない。神社の拒否にもかかわらず、政治的効果から分祀を強要するのは政教分離原則に違反し、避けなければならない」
「昭和二十八年の国会決議(戦犯赦免に関する決議)により、すべての戦犯の方々が赦免されたことに基づく」
「神道の信仰上このような分祀はありえない」「仮にすべてのご遺族が分祀に賛成されるようなことがあるとしても、それによって分祀することはない」
東条由布子さんの発言:
「これは個人の問題ではなく国家の問題だ。分祀を了承することは、(日本が百パーセント悪かったとする)東京裁判史観を認めることになる」
「中国の内政干渉に屈して英霊に背くのは国益に反する。A級戦犯の話のかたがついたら、中国は次はB・C級戦犯についていってくる」
うーん、「仮にすべてのご遺族が分祀に賛成されるようなことがあるとしても、それによって分祀することはない」ということですので、神社側の意志は固いようですね。
●「東京神社には戦争犯罪人の遺骨がある」ワシントンポスト記事
この発言が通信社を通じて海外でどのように報じられているのか検証してみましょう。
今日付け(現地6月4日付け)のワシントンポスト紙に、さっそく東京発AP電として記事が載っています。
この記事ですが、全文、全くイケてません。(苦笑
というか、こうやって誤解が広まっていくのかと悲しくなるような、誤解・誤訳・意訳のオンパレードなのです。
靖国参拝問題がいかに海外の人々が理解していないかを示す格好の材料ではありますが、日本人としてはやれやれなのです。
まず、記事タイトルからぶっ飛んでいます。
Tokyo Shrine Has War Criminals' Remains
東京神社には戦争犯罪人の遺骨がある
「Tokyo Shrine」って、一番おとなしく訳して「東京神社」なのです。おそらくアメリカ人にとって、響きとしては、「東京神宮」「東京神殿」「東京廟」のような響きですねえ。決していい響きではないです。
これは、イタイですね。そもそも「神社」は「Jinja」と直訳すべきであり、神殿を意味する「Shrine」という単語を使用していること自体、実は大問題なのです。
たとえば「寿司」は「Sushi」であって、「Sliced raw fish's rice」では伝わらないのですが・・・(ちょっと、たとえが悪いかな)
あと「War Criminals' Remains」、これもイタイです。
普通に直訳すれば「戦争犯罪人の遺骨」となるわけでして、うーん、「御霊(みたま)」にあたる単語はないのでしょうか?
ああこれじゃあ、戦犯の骨が安置されていると誤解されてしまいます。
木走としては、この辺の訳の誤訳・意訳の影響は決して小さくないと思います。
以下、アメリカが誇るオピニオンリーダー紙ワシントンポスト紙の本日付けの記事です。お楽しみ(?)ながら検証くださいませ。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/04/AR2005060401373.html?sub=new
Tokyo Shrine Has War Criminals' Remains
The Associated Press
Saturday, June 4, 2005; 8:08 PM東京神社には戦争犯罪人の遺骨がある
AP通信
2005年6月4日土曜日; 午後8時8分TOKYO -- The operators of a Tokyo war shrine have refused to remove the remains of war criminals, despite suggestions that doing so could calm other countries' anger over the prime minister's visits to the shrine, a news report said on Saturday.
東京−−東京戦争神社の運営者は、土曜日に報道された、そうすることが神殿への首相の訪問に関する他国の怒りをなだめるかもしれないという提案にもかかわらず、戦争犯罪人の遺骨を取り除くのを拒否した。
Yasukuni Shrine honors executed war criminals who are among Japan's 2.5 million war dead. Prime Minister Junichiro Koizumi's annual visits to it have outraged China and other Asian countries that suffered atrocities at the hands of invading Japanese troops during, and in the run-up to, World War II.
靖国神社では、日本の250万人の戦死者に含まれて、処刑された戦争犯罪人が祀られている。そこへの小泉純一郎首相の年一回の訪問は、第二次世界大戦中急速に酷くなった、侵略する日本軍の手による残虐に耐えてきた中国と他のアジアの国を、激怒させてきた。
Senior leaders of Koizumi's own party have recently been trying to discourage him from making the visits, as tensions have recently escalated between Japan and its neighbors over the shrine visits, territorial disputes and other issues.
小泉の所属する党の先任のリーダー達は最近、日本と隣国の間において緊張が神社訪問や領土紛争および他の問題により最近拡大してきたため、彼が訪問をするのを思いとどまらせようとしている。
Some Japanese lawmakers and officials have suggested removing from the shrine the remains of the war criminals who faced the most serious charges.
日本の議員や関係者の中には神社から最も重い負荷として直面していた戦争犯罪人の 遺骨を取り除くのを提案してきた。
However, Japan's ancient Shinto religion was used during World War II to bolster nationalism, and shrine operators said the issue is a religious matter, according to a report from Kyodo News agency.
とはいえ、日本の古代神道信仰は第二次世界大戦中愛国心を強めるのに利用された、そして、共同通信の報道によれば神社運営者は問題が宗教問題であると発言した。
"This is a matter of Japanese religious faith," Kyodo quoted the shrine's operators as saying. "Their (the war criminals') separate enshrinement will never happen."
「これは日本の宗教信仰の問題です」と共同(通信)は神社運営者の発言として伝えた。「彼ら(戦争犯罪人)を別々に祀ることは決して起こらないでしょう。」
Yasukuni enshrines 14 wartime leaders convicted of the most serious war crimes at the international war tribunal in Tokyo, including wartime Prime Minister Hideki Tojo.
靖国は、東京国際戦争裁判所で最も重大な戦争犯罪で有罪と宣告された東条英機首相を含む14人の戦時指導者を奉安している。
The shrine's operators do not acknowledge the tribunal's findings.
神社の運営者は裁判の結果を承認してはいない。
Former Prime Minister Yasuhiro Nakasone's Aug. 15, 1985 official shrine visit Japan's infuriated neighbor countries, prompting most of Nakasone's 10 successors in the past 14 years to drop the practice. Koizumi broke from tradition, making his first visit to the shrine as prime minister in 2001. He has since visited three more times, the last in January 2004.
元内閣総理大臣の中曾根康弘の1985年8月15日の公式の神社訪問は日本の周辺国を激怒させた、そしてその後14年間で中曾根の10人の後継者の大部分が習慣を止めるようにうながした。小泉は、2001年に首相として神殿への彼の最初の訪問をして、その伝統を打ちきった。 以来彼は2004年1月を最後に、もう3回訪問している。
On Friday, Nakasone said it would be best to remove war criminals' remains from the shrine, and that Koizumi should stop his visits while the measure is being arranged.
金曜日、中曾根は、神殿から戦争犯罪人の遺骨を取り除くのが最善であり、その手段 が調整されている間は、小泉は彼の訪問を止めるべきであると言った。
(訳:木走まさみず)
・・・
いかがでしたでしょうか?
これでは、靖国の英霊達も救われないと思った、今日のワシントンポストの憂鬱な記事でした。
(木走まさみず)