木走日記

場末の時事評論

ゴジラが見た北朝鮮

「プルガサリ」


 半月ほど前の朝日新聞の書評欄で次のような書評がありました。

俺は俳優だ―着グルミ役者と呼ばれて30年
薩摩剣八郎[著]
出版社:ワイズ出版
価格:1,995円(税込)

『俺は俳優だ』 薩摩剣八郎さん(57歳)
北朝鮮ゴジラで大暴れ
 重さ100キロを超すこともある着ぐるみに身を包み、戦車や高層ビルの模型をけ散らし、踏みつぶす。あのゴジラ、観客の期待通りに動かすには、相当な体力が必要だ。身長170センチ、体重72キロ。薩摩剣八郎(さつまけんぱちろう)さんは10本近くの「ゴジラ映画」を経験している「着ぐるみ役者」でもある。

 鹿児島から上京後、製鉄所の勤務を経て映画の世界に踏み込んだ。撮影所大部屋の下積みも経験、40年近くに及ぶ役者生活の中で見てきた映画の撮影現場のあれこれをつづっている。

 アルバイトで食いつないだ極貧生活から、「ゴジラ」の枠をこえて活躍する最近の姿までが描かれている。なかでもユニークな経験は、北朝鮮製作のゴジラ映画とも言われた怪獣映画「プルガサリ」への出演だった。撮影翌年の86年に監督が亡命したために公開が遅れ、日本での初上映は98年にずれ込んだ、いわくつきの映画だ。

 撮影は思惑通りにいかなかった。北京のスタジオでは、着ぐるみの中で息も絶え絶えになりながら宮殿のセットを殴りまくったが、ちっとも壊れない。突き出たひさしを下からすくい上げてやっと壊した。

 平壌では、スタジオから宿泊所に帰るバスに、日本人の美術スタッフが乗り損なうという「事件」もあった。たまたまスタジオ近くを通りかかった北朝鮮スタッフが、地下鉄に乗せて宿舎に連れてきてくれたのだが、日本人スタッフが地下鉄に乗ることは禁止されていた。その北朝鮮人スタッフは翌日から姿を見せなくなったという。

 汗と涙で思い出深いゴジラだが、「着ぐるみは、もう無理。平成ゴジラは、私が経験した着ぐるみより重くなってしまった。何かのイベントで着るぐらいですよ」。

 今、映画の出演はほとんどない。それでも木刀の素振りや鉄アレイによる鍛錬を欠かさない。

2005年02月13日 朝日新聞
http://book.asahi.com/review/index.php?info=d&no=7614

1985年に制作された北朝鮮製怪獣映画「プルガサリ」でありますが、大の日本映画フアンであった金正日書記(当時)の肝いりで、日本の東宝特撮スタッフがわざわざ数ヶ月の間、金正日の別荘に滞在しながら制作に関わったのでした。

 その辺の事情が克明に書かれているのは、今は絶版になりましたが、
ゴジラが見た北朝鮮』(薩摩剣八郎著:文芸春秋社1988年発刊)
 にくわしく書かれています。何故私が知っているかともうしますと、私の愛読書なのでした。(汗

 彼は北朝鮮スタッフともすっかりうちとけ、別れの日には「剣八郎同志(トンム)は男らしい、侍です。」と声を掛けられます。(231頁)

 感動的な別れのシーンを引用してみましょう。

ゴジラが見た北朝鮮』より
(前略)

 所長が、真剣な表情で語るのを、光一さんが、訳していった。
「北京の撮影を完了してから、全員で祝杯をあげましょう。その時は、私も行きますから、北京電影で会いましょう。たのみます」
 所長はそういうと、頭を下げた。
 名もない、一介のヌイグルミ役者に、申フィルムの撮影所長が頭を下げている。それほどまでに、この人達は『プルガサリ』にかけているのか!
 おいどんも、つい、熱くなった。
「わかりました。無事に撮影を終えてから、パーっとやりましょう。私は、九州の南端、薩摩という国で生まれ育ちました。その国では、男がいったん事を約束した以上は、死んでもその約束は果たす。そういう習わしが今でも生きています。私も薩摩の国の人間です。引き受けた以上は、最後までやりとげます。どうかご安心ください」
 おいどんは所長をにらみつけるように身を乗り出した。

(後略)

 どうです。怪獣映画にかける当時の人々のパッショが熱く感じられますでしょう。(笑)まあ、20年前の北朝鮮の国情を、イデオロギー論抜きでかいま見れる佳作でもあります。

 かんじんの作品ですが、日本でも怪獣映画の品揃えのいいレンタルビデオ屋さんに置いてありますから、興味を持たれた方は、ビデオ鑑賞されたらどうでしょう。

 私も見ましたが、一見の価値がありますよ。いろんな意味でですが。

(参考)
薩摩剣八郎ホームページ(う〜む、ほとんど工事中です)
http://www.fjmovie.com/satsuma/menu.html
BLACK徒然草(映画「プルガサリ」の感想が抱腹絶倒モノです。オススメ)
http://my.reset.jp/~mars/btg/black.htm


 伝説の子ども時代劇ヒーロー風雲ライオン丸の中身も若き日の薩摩さんなのでした。