木走日記

場末の時事評論

経産省よ、恥を知れ!〜世界一高い電気料金を作り出したのはあなた方ではないのか?

 13日付け読売新聞記事から。

原発停止なら…家庭の電気代1千円アップと試算

 経済産業省所管の日本エネルギー経済研究所は13日、すべての原子力発電所が運転停止し、火力発電所で発電を代行した場合、液化天然ガス(LNG)や石炭など燃料調達費が増えるため、2012年度の毎月の標準家庭の電気料金が平均で1049円上昇し、6812円になるとの試算を発表した。

 試算は、燃料の単価や為替の変動に応じて電気料金を上下する燃料費調整制度を考慮せず、電力会社が料金の抜本改定を実施しないことを前提としている。世界的に燃料の需給が逼迫(ひっぱく)したりすれば、電気料金が更に上昇する可能性もある。

 今年4月のLNGの輸入価格などを基にすると、12年度の火力発電の燃料調達費は10年度より3兆4730億円増加するという。電気料金に転嫁すると、1キロ・ワット時あたり3・7円の値上げになる。

(2011年6月13日22時06分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20110613-OYT1T00849.htm

 うむ、すべての原子力発電所が運転停止し、火力発電所で発電を代行した場合、毎月の標準家庭の電気料金が平均で1049円上昇し、6812円になるとの誠に有難い提灯(ちょうちん)試算が、経産省天下り外郭団体の財団法人日本エネルギー経済研究所から発表されたのであります。

 元レポートはこちら。

原子力発電の再稼動の有無に関する2012年度までの電力需給分析
http://eneken.ieej.or.jp/data/3880.pdf

 原発が廃止されると庶民の家計を直撃しますよとのこのタイミングでの誠に有難いご教示なのであり、経産省OBの元経済産業審議官・豊田正和理事長初め、ずらっと並んだ経産官僚OB常勤理事諸氏、非常勤理事に名を連ねる東京電力副社長様筆頭の各電力会社幹部様ならびに電気事業連合会専務理事様、庶民を代表してまことに有難い貴重なレポートを労を惜しまずこのタイミングで作成・公開されたこと、謹んでお礼を申し上げます。

財団法人日本エネルギー経済研究所 役員名簿
http://eneken.ieej.or.jp/about/pdf/business/yakuin_110401.pdf

 現状でも世界一高いとされている日本の電気料金がこのまま原発を再開しないとさらに月1000円も高くなるとの試算なのでありますが、十兆を超えるかもと囁かれている東電負担する原発賠償金に比べたら私ども庶民としましてはこれぐらいの負担で済むのであればそれもありと考える人も多いかと存じますが逆効果にならないことを祈念しております。

 レンホウさん、もしまだ事業仕分けする根性があるならば、このような有難い財団こそ成仏して差し上げなければ罰が当たるというものです。

 ・・・

 ふう。

 経産省よ、このタイミングで天下り財団に提灯(ちょうちん)レポートを書かせるとは、恥を知りなさい。

 このような財団の存在自体が電気の無駄、資源の無駄、税金の無駄というものです。

 日本の電気料金が世界で一番高いと言われているのは、経産省が主導してきた一地域一電力会社という地域独占の殿様商売がもたらしていることは自明なのに、その構造問題には一切触れないでこんな下らん試算をいくらしても問題の本質的解決にはなりません。

 まず地域独占ライバルがいないからこそ成り立つ東電初め電力会社の価格設定の仕組み「総括原価方式」の民間では有り得ない出鱈目さを即刻打ち切るべきです。

 発電などのコストに一定の割合の利益を上乗せして価格設定できる「総括原価方式」は、独占企業でなければ有り得ない「夢のシステム」なのであり、この方式のおかげで電力会社は「コストがかかればかかるほど利益が大きくなる」という大変不健全なインセンティブを経営方針に内在することになっております。

 例えば民間で神戸製鋼所02年稼動の神鋼神戸発電所(定格出力140万kw)が2000億円の建設費だったのに対し、同じ石炭燃料火力発電である04年稼動の舞鶴発電所(同180万kw)は5700億円です、出力1万kw当たりの建設費は31.7億と14.3億と実に2.2倍も電力会社のほうが割高になっているのです。

 「総括原価方式」があるから、コストがかかっても返って利益が出るからコスト意識がゼロなわけで、これらがすべて高い電気料金に反映されているわけです。

 今週号の週刊ポスト(6月24日号)に大変興味深い記事が掲載されています。

立川競輪場 脱・東電で別業者と契約し電気料金を3割削減
http://www.news-postseven.com/archives/20110614_22982.html

 記事によれば、東京・立川市にある立川競輪場を運営する立川市は、電光掲示板や照明などで大量の電力を消費する競輪場の経費削減に、電力の購入先を東電から特定規模電気事業者(PPS)のサミットエナジーに切り替えたらば、同競輪場が支払った2010年度の電気料金は4500万円で、前年度(6200万円)からの3割削減に成功したというのです。

 記事中の同市行政経営課の田中準也・課長の発言。

「見積もり段階で安いことはわかっていたつもりですが、最初の請求書が届いた時には、“こんなに安くなるのか”と目を疑ったほどです。5月で比較すると、2009年の使用量は約16万kWhで480万円。10年は20万kWhと増えましたが380万円でした」
 立川市では今年度、市立の小中学校や図書館など53か所の公共施設で「電力供給」の競争入札を実施。するとすべての施設でPPSが東電より約2割安い金額で落札した。「競輪場を含めると、市の年間の電気代は年間約5000万円減と見込んでいます」(同前)というから驚きだ。

 電力会社よりも特定規模電気事業者(PPS)のほうが電力料金が3割も安いのです。

 記事に出てくるサミットエナジー住友商事100%子会社の事業者ですが、そのサイトで確認するとベースロード電源としての石炭焚き熱・電併給型発電所、ミドルロード電源としての木屑バイオマス発電所、ピークロード電源としての都市ガス焚き熱・電併給型ガスタービン発電所から構成されておるようです。

サミットエナジーは2001年7月1日から関西電力管内での電力小売事業開始を皮切りに事業を開始、同年10月1日からは中部電力管内でも小売事業を開始し現在に至っております。
2004年度からは60Hzのエリアでの小売に加え、新規電源として複数の発電所を建設し、50Hzエリアである東日本地区での事業展開も開始しました。
これらの発電所はベースロード電源としての石炭焚き熱・電併給型発電所、ミドルロード電源としての木屑バイオマス発電所、ピークロード電源としての都市ガス焚き熱・電併給型ガスタービン発電所から構成されており、地球温暖化防止にも配慮した環境負荷の低い発電所つくりに腐心しております。
特に我が国では最先端をゆく発電端出力50MWの木屑バイオマス発電所である『サミット明星パワー』は、環境負荷の低い発電所づくりを目指した結果として2003年4月1日施行のRPS(Renewables Portfolio Standard)法にも合致した先進の発電所として世界にも誇れるものになっております。
これら3つの発電所は今後益々厳しくなると思われる自由化分野での電力会社との競争に打ち勝つ事が出来る競争力のある電気をつくる発電所として重要な役割を担っております。

http://www.summit-energy.co.jp/jiyuuka/yasasiidengen.html

 このサミットエナジーだけではないですが、多くのPPSはバイオマスなどグリーンエネルギーを経営戦略として取り入れつつ企業努力で売価を下げPPS事業者同士で厳しい競争を展開しています。

 殿様商売の「総括原価方式」が、市場原理にさらされれば吹っ飛んでしまうのは無理はないのです。

 もっと電力自由化を進めれば電気料金は確実に下がります。

 しかし愚かにも経産省は契約電力50kw未満の小口需要家、すなわち一般家庭や商店、町工場は、電力自由化とは無関係、規制を受けPPSと契約すること認めていないのです、強制的に電力会社との契約をさせられて高い電力を買わされています。

 経産省資源エネルギー庁の規制理由は「消費者保護の観点」というまったく訳のわからない理由なのですが、電力会社が一番甘みのある一般家庭における地域独占を守るためであることは明白です。

 結果、出鱈目の「総括原価方式」も経産省によって守られているのです。

 ・・・

 経産省外郭団体が全原発停止なら電気料金がさらに月額1000円高くなるという提灯試算を発表しました。

 世界一高い電気料金がこのままではまた上がりますよとの国民に対する恫喝です。

 経産省よ、恥を知れ。

 世界一高い電気料金を作り出したのはあなた方ではないのですか?



(木走まさみず)