木走日記

場末の時事評論

政府に代わって「宙に浮いた年金記録5000万件」不払い金額総額の試算をしてみる

年金記録対策 台帳照合、期限示せず〜柳沢厚生労働相

 昨日(5日)の朝日新聞記事から。

年金記録対策 台帳照合、期限示せず
2007年06月05日06時50分

 柳沢厚生労働相が4日発表した年金記録問題への対応策は、持ち主が分かっていない「宙に浮いた年金記録5000万件」の照合作業を若干前倒ししたものの、根本的な問題解消に不可欠な「年金台帳の原簿とオンライン記録との突き合わせ」については期限を明示できなかった。必要な財政費用についても「分からない」としており、国民の不安を解消するには不十分な内容だ。

 柳沢氏は会見で「加入者や受給者の目線に立って、親切を旨として丁寧に国民のみなさんの申し出に耳を傾ける」と述べ、受給漏れ対策に消極的だった従来の姿勢の転換を強調した。

 しかし、肝心の対策は先月発表した内容からほとんど前進していない。5000万件のオンライン記録と、年金受給者や保険料を支払う人の氏名、性別、生年月日を照合する作業は08年5月までに実施。記録が一致した受給者に統合を促す通知は同年8月までに行うとしているが、もともと通知は08年10月までに完了する予定だったから「2カ月前倒し」したにすぎない。

 オンライン上の照合作業は年金を給付する段階で受給者ごとに1度行っており、同じ作業を再度実施しても、どれだけ持ち主が確定するかは不透明だ。

 しかも、オンライン上の記録には年金台帳からの入力ミスや入力漏れが多く、受給漏れの主な要因とみられる。完全な照合には、年金台帳とオンライン記録の突き合わせが不可欠。しかし、今回の対策では「突き合わせを計画的に実施し、進捗(しんちょく)状況を半年ごとに公表」とするにとどまり、明確な期限を設けていない。

 「不正確なオンライン上の記録を修正するのが先決」とする民主党の主張に応えるものではない。

 歴代社保庁長官などの責任を問いただすため、総務相のもとに設置する外部有識者の検証委員会についても、柳沢氏は「菅総務相のイニシアチブで決める」と述べるにとどまり、設置時期や調査方法など具体的な内容には言及しなかった。

 調査や照合など記録の統合に必要な財源は「年金保険料はあてず、国庫財源で対応する」としたが、どれだけ費用がかかるのか、来年度予算でどう扱うのかなど、不明な点が多い。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070530it13.htm

「加入者や受給者の目線に立って、親切を旨として丁寧に国民のみなさんの申し出に耳を傾ける」

「突き合わせを計画的に実施し、進捗(しんちょく)状況を半年ごとに公表」

 「親切を旨として丁寧に国民のみなさんの申し出に耳を傾ける」のも「突き合わせを計画的に実施し、進捗(しんちょく)状況を半年ごとに公表」するのも大変けっこうなことですが、柳沢厚生労働相もさぞやつらい立場なんでしょうね。

 柳沢厚生労働相「根本的な問題解消に不可欠な「年金台帳の原簿とオンライン記録との突き合わせ」については期限を明示できなかった」の当然なのであります。

 だって「根本的な問題解消に不可欠な「年金台帳の原簿」」がないんだもの。

 極めて保管状態に不備があり、特に国民年金の原簿に関しては284もの自治体で完全にきれいに捨てちゃってこの世に存在してないんですから。

 ・・・

 この「宙に浮いた年金記録5000万件」問題ですが、当事者の国民として極めて不満なのは、今日に至っても、政府・与党は、「宙に浮いた年金記録5000万件」が何人分の情報であり、その不払い金額がいったい何円ぐらいなのか、「総額はわからない」の一点張りでいっさい情報を国民に示していない点であります。

 「宙に浮いた年金記録5000万件」、これ金額換算するとどのぐらいの額になるのでしょうか?

 もともと「宙に浮いている」わけですから、政府・与党の言うとおり「わからない」ことはわからないのでしょうが、いくら「宙に浮いている」にしても各レコードには「期間」や「支払金額」といった項目は正確に格納されているはずです(もしそれもあてにならないならば、それこそどうしようもありません)

 今日は「宙に浮いた年金記録5000万件」の不払い金額がいったいぜんたいどれぐらいの金額になるのか、政府・与党が逃げ回って試算を公表しないのなら、当ブログが天に成り代わり、概算・試算を試みてみましょう。



●19兆7190億円という試算結果(BY 週刊ポスト

 まず試算するに当たっては、類似の試算を試みている週刊ポスト最新号の以下の記事を参考にしていることを前置きしておきます。

 「天に成り代わり」などとえらそうに言いましたが、計算手法は週刊誌のパクリであります(苦笑。

週刊ポスト6月15日号 30〜35ページ
消えた年金20兆円はすでに乱脈浪費済み』
http://www.weeklypost.com/070615jp/index.html

 週刊ポストの試算では20兆円というとんでもない不払い額が試算されていまして、しかもそのお金は社保庁側が「すでに乱脈浪費済み」なんじゃないかと、過激な断定をしていまして、さすがの不肖・木走も読んでいてドン引きしてしまうような、ちょっと内容が過激すぎて付いていけないトンデモ記事なのであります(苦笑

 興味のある方は是非購入してお読み下さいませ。

 さてここでは週刊ポストの記事をあくまで参考に独自の見解・試算を示してみたいと思います。

 なお、いうまでもないことですが、この試算は一素人が行うモノであり、試算により得た概算値・数字はなんら正確な妥当性の検証を得たものではなく、あくまでも参考情報として扱っていただく性質のものであります。

 ・・・

【1:不明記録の内訳を押さえておく】

 不明記録5000万件のうち、現在、年金受給者になっていると推定される人の分が1800万件以上であります。

 それに対し、年金受給者の総数は約3000万人であります。

 かなりの受給者が、自分の年金が間違っていることさえ分からずに暮らしていることこそ問題なのであります。

 まず、不明記録の内訳(年金種別)を押さえておきましょう。

 社保庁が一部明らかにしている情報によれば、国民年金が1100万件あまり、厚生年金が約4000万件であります。

【2:そもそも各年金一月分支払うと受給額はいくら増えるのかを押さえておく】

 国民年金の保険料を1ヶ月払うと、受給額は現在の基準で年間1666円になります。
 また、厚生年金の場合は給与額によって保険料も受給額も違うので正確には言えないのですが、現在のサラリーマンの平均年収を元にすれば、保険料一ヶ月で年間4375円受給できる計算になります。

【3:問題の5000万件が「平均何ヶ月分の納付記録なのか」を推測する】

 問題は、5000万件が平均「何ヶ月分の納付記録なのか」という点です。

 週刊ポスト記事によれば、「政府はそこを明らかにしないが、社保庁などの聞き取りから、数ヶ月程度のものが多いようだ。平均すると6ヶ月分くらいと見られる」(民主党政調関係者)なのだそうです。

 もちろん、すでに明らかになった例でも夫婦2人の30年分の納付記録がなくなったという悲惨な例もあるのですが、今のところ「平均6ヶ月」という情報が唯一のデータなので、これを採用することにしましょう。


【4:問題の5000万件の納付記録の持ち主が何年年金を受給するかを推測する】

 政府・与党が「不払い額は分からない」と逃げ回っている根拠は、納付記録の持ち主が何年年金を受給するかによって、その額が大きく異なることです。

 しかし、全体の不払い額ならば、平均年齢を元に概算は出るはずであります。

 日本人全体の平均寿命である82歳を基準にすると、受給開始をすべて65歳と仮定しても、平均して17年間受け取れることになります。


【5:「宙に浮いた年金記録5000万件」の不払い金額総額を試算してみる】

 以上のデータから「宙に浮いた年金記録5000万件」の不払い金額総額を試算してみましょう。

 まず、国民年金の不明記録1件当たりの年金不払い額は、

1件当たりの年金不払い額(国民年金)= 1666円 * 6(保険料納付月数) * 17年 = 16万9932

 次に、厚生年金の不明記録1件当たりの年金不払い額は、

1件当たりの年金不払い額(厚生年金)= 4375円 * 6 * 17 = 44万6250円

 と試算されます。

 これにそれぞれの1100万件、約4000万件の不払い件数を掛けると、総額はなんと19兆7190億円というとんでもない数字になるのであります。

 ・・・

 この19兆7190億円をもって週刊ポストは「消えた年金20兆円」と記事に銘を打っているのですが、そいつはちょっと乱暴だなあ(苦笑

 社保庁の肩を持つわけではありませんが、この5000万件の中には、もう死亡している人もいるでしょうし(その場合でも遺族年金の問題が放置されていますので無視できないのですが、議論が拡散するのでそこはここでは割愛)、年金支払い期間が24年に達していない払わなくてよい情報も入っているはずです。

 だいいち、5000万件の平均期間を6ヶ月に固定してしかも厚生年金は平均年収で試算、また受給期間を一律17年とするなど、仮定にもとずく試算にすぎないのであります。

 読者のみなさまにはあくまでも参考数値であることをご理解下さい。

 ・・・

 しかしあくまでも参考数値でありながら、この19兆7190億円という試算結果には驚かされました。

 この試算は2つの点で非常に興味深いことを私たちに教えてくれそうです。

 ひとつは、不明記録5000万件の不払い金額総額は、おそらく10兆の桁に及ぶほどの深刻な金額に及んでいるだろうと推測できることです。

 政府は「5年時効撤廃」で新たな負担額が950億(ウチ政府負担60億)などと発言しているようですが、ちょっと政府の見込みとは桁違いの不払い額なんであります。

 もうひとつは、メディアや素人の私ですら、限られた情報だけでもこのような試算を試みることは可能なのですから、社保庁ならびに政府はまちがいなくもっと正確な試算情報を持っているにちがいない、という強い疑念です。

 ・・・

 政府は情報開示をするというならば、まず不明記録5000万件の不払い金額総額の試算結果を公表すべきです。

 そのような試算をいま試みていないというならば(それ自体ありえないことですが)、すぐに試みて、速やかに不払い金額総額の試算結果を公表すべきです。

 ・・・

 最もそれはできないでしょうねえ(苦笑

 やる意志があったらとうに試算して公表していますものね。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[社会]不明年金問題社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911
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http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070601/1180687074
■[社会]原簿を完全にきれいに破棄した自治体数は284〜社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質
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■[社会]年金不明問題:「自爆」発言で労組も政府もだめだこりゃ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070608/1181276510
■[社会]社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070611/1181541308
■[社会]不明年金問題:問われるシステム開発主幹会社NTTデータの責任
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