木走日記

場末の時事評論

原簿を完全にきれいに破棄した自治体数は284〜社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質

 当ブログでは、過去2回に渡り不明年金問題を取り上げてきました。

 5月26日付けの当ブログのエントリー。

■[社会]不明年金問題社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911

 6月1日付けの当ブログのエントリー。

■[社会]原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070601/1180687074

 5月26日付けエントリーでは、原簿がないんだから一部データでは照合なんかできないわけで、政府としては「申請」を待つしか打つ手がないんですよ、というリアルな指摘をさせていただきました。

 6月1日付けエントリーでは、実は社会保険庁自身が85年9月に年金記録の原簿、いわゆる手書きの「年金台帳」の破棄を命じていた、というおバカな事実を指摘させていただきました。

 6月1日付けエントリーのポイント部分を抜粋。

 年金記録の原簿、いわゆる手書きの「年金台帳」の破棄を命じたのは、自治体関係者からの情報によれば、なんと信じられないことに社会保険庁なのであります。

 社会保険庁は85年9月に課長名で都道府県の年金担当者に通知を出して、入力済みの原簿(手書き年金台帳)は全て破棄せよ、と命じていたのであります。

 このおバカな指示を出した当時の社保庁長官は週刊新潮によれば正木馨氏(76)なのであります。

 で、この2回のエントリーですがたくさんのトラバ・リンク・ブクマやコメントを頂戴いたしまして、賛否両論、活発な議論をいただいてるようです。

 批判も含めて議論をいただくのは、異論・反論大歓迎の当ブログですので、たいへんありがたいことでございます。

 ということで、今日もしつこく「不明年金問題社会保険庁による「人災」PART3」でございます。(←何が「ということで」なんだか(苦笑))



●原簿を完全にきれいに破棄した自治体数は284

 さて議論を進める上で、過去2回の当ブログの主張に対する真摯な貴重なご批判に対してこの場で論点整理させていただきましょう。

 まず一部から「大切な原簿(手書き台帳)を自治体が破棄するはずがないだろう」というご意見がございます。

 うーん、だって現実に私の担当した東京都下の自治体はきれいにすべて破棄してるんだってば(苦笑

 どうも不肖・木走のあてにならん話だけでは信憑性に欠ける(←しごくごもっとも(苦笑))、と言うのだとしたら、日本経済新聞の地味な記事を引用しておきましょうか。

国民年金保険料、284自治体が納付記録廃棄

 2001年度末まで国民年金保険料の徴収業務をしていた市区町村のうち、全体の15%の284が加入者の氏名や納付実績を手書きした名簿をすべて廃棄していたことが社会保険庁の調査で分かった。業務が02年度に社保庁に移管された後は保存義務がなくなったため、保管場所などに困って捨てたとみられる。こうした市区町村では過去の記録の再調査は難しく、加入者が領収書を保管していなければ年金受取額が減る例も出てきそうだ。

 国民年金には現在、自営業者を中心に2190万人が加入している。廃棄された名簿に記載されていた加入者の総人数は不明。社保庁は廃棄した市区町村名も公表していない。 (07:00)

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070516AT3S1501R15052007.html

 この日経記事によれば「全体の15%の284が加入者の氏名や納付実績を手書きした名簿をすべて廃棄していた」事実が、他ならぬ「社会保険庁の調査」で判明しています。

 原簿をすべて破棄した全体の15%の自治体数284が多いのか少ないのかは議論ありましょうが、一部自治体が年金の原簿(台帳)を破棄していた事実は揺らがないだろうと思います。

 全ての自治体の状況は無論わかりませんが、上記15%の自治体はあくまで、納付実績を手書きした名簿を「すべて」廃棄した自治体でありまして、はなはだ心配なのは、残りの85%の自治体の原簿保管の状況が見えていない点であります。

 で私の調べたところでは、おそらく原簿保管している自治体の中には、完全に保管している自治体と一部破棄されて情報が欠落している自治体に分かれるのではないかと感触を得ています。

 でここで重要なのは2190万人が加入している国民年金ですが、日経記事の結びの指摘「廃棄された名簿に記載されていた加入者の総人数は不明。社保庁は廃棄した市区町村名も公表していない」点ですね。

 これ問題大きすぎて市区町村名は絶対公表できませんから(苦笑

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●年金「原簿の破棄」は、責任の所在を問われる重大な問題になる

 さて次に「「5,000万件問題」と「納付記録問題」は別の問題であるので、「5,000万件問題」を「原簿の破棄」で語ろうとするのは基本的に間違っている」というありがたいご指摘もいただいております。

 おっしゃるご指摘はごもっともでありまして、5000万件の名寄せの失敗と一部自治体の年金「原簿の破棄」には何も関係はありません。

 ただこれから政府が 「5000万件を2010年までの社会保険庁の残務整理としてゼロにする。国の責任として行うことを原則としたい」(自民党中川秀直幹事長)とするならば、少なからずの原簿が破棄されている現実は重大です。

 少なからずの人々の過去の年金支払実績調査において原簿に遡っての照合ができないからです。

 ここまで年金不明問題が国民の注目を集めているわけですから、私はこの年金「原簿の破棄」は、責任の所在を問われる重大な問題になると考えています。

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社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質

 二日付けの朝日新聞記事から。

年金、入力ミス2割 都内の台帳対象に調査
2007年06月02日15時08分

 過去に支払ったはずの年金保険料の納付記録が見つからず、受け取る年金額の目減りなどが生じている問題で、社会保険庁のオンラインシステム上で見つからなかった年金記録のうち約2割が年金台帳には記載されていたことが、同庁の東京都内を対象とした調査で明らかになった。台帳からの入力ミスなどが原因とみられる。「宙に浮いた年金」はオンライン上に5千万件あり、政府・与党は持ち主の確定を進める考え。だが、調査結果にもとづくとオンライン上にない記録も相当数あるとみられ、救済が不十分となる可能性が高い。

 調査は、3月15日から同月末までの間に、オンラインでは記録が見つからず、東京都内分のマイクロフィルムに保存されている台帳での照会を求められた358件について実施。うち17%にあたる61件で実際に記録が見つかった。

 年金の納付記録は紙の台帳や磁気テープなどで保管されていたが1988年の完全オンライン化に伴い、コンピューターに入力した。その後も、厚生年金の台帳と国民年金の台帳の一部は、マイクロフィルムで保存されている。

 建前上は、台帳の記録はすべて正確にオンライン入力されているはずだが、生年月日の入力漏れや、名前を間違って入力したケースがあることを社保庁も認めている。今回の調査結果は、何らかの事情で記録自体をまったく入力しなかったか、検索不能なほどの大きな入力ミスがあった恐れを示している。

 都内で05、06年度の2年間に、オンライン上に記録が見つからず、台帳にさかのぼって照会した件数は約18万5千件に達する。社保庁はこのうち実際に記録が見つかった件数を明らかにしていないが、今回の入力漏れの割合を単純にあてはめれば約3万1千件。

 政府・与党は今後1年間で、全国で5千万件あるオンライン上の「宙に浮いた年金記録」と、年金受給者や保険料を支払っている人の名前・生年月日とを突き合わせ、持ち主を割り出す方針だ。

 しかし、そもそもオンラインに未入力の記録があるなら、記録の統合は不十分となり、問題は解消できない。そのため、民主党は「台帳とオンライン上の記録をすべて突き合わせてミスを修正した上で、5千万件の照合をするべきだ」と主張。一方、政府・与党は「突き合わせには10年ぐらいかかる」として、まず5千万件の統合を優先させる考えだ。
http://www.asahi.com/politics/update/0602/TKY200706020142.html

 社会保険庁のオンラインシステム上で見つからなかった年金記録のうち約2割が年金台帳には記載されていた」とは興味深いことです。

 建前上は、台帳の記録はすべて正確にオンライン入力されているはずだが、生年月日の入力漏れや、名前を間違って入力したケースがあることを社保庁も認めている。今回の調査結果は、何らかの事情で記録自体をまったく入力しなかったか、検索不能なほどの大きな入力ミスがあった恐れを示している。

 いかに杜撰な状態なのか、朝日新聞記事も心配しています。

 ただ記事の結論部分はずいぶんトンチンカンですねえ。

 しかし、そもそもオンラインに未入力の記録があるなら、記録の統合は不十分となり、問題は解消できない。そのため、民主党は「台帳とオンライン上の記録をすべて突き合わせてミスを修正した上で、5千万件の照合をするべきだ」と主張。一方、政府・与党は「突き合わせには10年ぐらいかかる」として、まず5千万件の統合を優先させる考えだ。

 民主党はまだ「台帳とオンライン上の記録をすべて突き合わせてミスを修正した上で、5千万件の照合をするべきだ」と主張しているようですが、だからね、くどいですがそのような全件調査は不可能なんですってば。

 少なからずの原簿がないんですもの(苦笑

 一方、政府・与党のほうもおかしなことを言ってますね。

 「突き合わせには10年ぐらいかかる」って、そうじゃないでしょう、一部原簿がないんだから、原簿との全件「突き合わせ」は永遠に不可能でしょう。

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 私は社保庁の今回の年金不明問題の本質のひとつには、社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質が底辺にあると考えています。

 「入り」である年金支払実績のこの杜撰な管理と「出」である年金の不正な使われ方、これは通底していると思います。

 「出」に関しては、公的年金資金はこれまで常に官僚の利益を念頭に浪費されてきたのです。

 グリーンピア事業の限りなく壮大な無駄と惨めな失敗。

 20兆を超える年金を自主運用しうち10兆円株式市場に投資、そして1兆4000億という損失。

 この点を尋ねると櫻井よしこ氏によれば、矢野朝水年金局長(1998年当時)は

「23兆円余りの運用で1兆4000億円の赤字は、市場の平均並みです」

 と言ってのけたそうです。(櫻井よしこの「日本ルネッサンス」(6月7日号)より)

 「入り」である年金支払実績のこの杜撰な管理と「出」である年金の不正な使われ方は、汗水たらして働いた国民から預かった貴重なお金をまったく軽視してきたという深刻な公僕モラルの欠如という点で通底していると思うのであります。

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 不明年金問題社会保険庁による「人災」であります。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[社会]不明年金問題社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911
■[社会]原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070601/1180687074
■[社会]政府に代わって「宙に浮いた年金記録5000万件」不払い金額総額の試算をしてみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070606/1181100250
■[社会]年金不明問題:「自爆」発言で労組も政府もだめだこりゃ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070608/1181276510
■[社会]社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070611/1181541308
■[社会]不明年金問題:問われるシステム開発主幹会社NTTデータの責任
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070615/1181876332
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070606/1181100250