木走日記

場末の時事評論

新彊ウイグル地区の中国当局の暴力的政策について徹底検証〜中国政府がウィグル族への弾圧を暴走せざるを得ない理由

 まず中国における新彊ウィグル自治区の位置と中国の言語分布図を確認しておきましょう。

 地図画像をパブリックドメインとして使用フリーで公開しているウィキペディアから引用してご紹介。


新疆ウイグル自治区
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E7%96%86%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%AB%E8%87%AA%E6%B2%BB%E5%8C%BA

中国の言語分布図
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%B0%91%E6%95%B0%E6%B0%91%E6%97%8F

 二つの地図を比較すれば明らかですが、中国の国土の半分近くを占める3つの自治区、ウィグル、チベット内モンゴルは中国標準語の通用するエリアではありませんでした、言語的にも文化的にももちろん民族的にも、歴史上長らく漢民族の配下にはない地域でありました。

 中でも中国の国土の六分の一を占める新彊ウイグル自治区は、モンゴル、ロシア、カザフスタンキルギスタジキスタンアフガニスタンパキスタン、インドの8カ国と接していて中国で最も長い国境を有している、中国国防の要衝の地でもあり、石炭や石油の埋蔵量が中国国内一位の貴重な資源産出地でもあります。

 今回は当ブログとしてこの地における中国当局の暴力的政策について、その実態とその動機について徹底的に検証してみたいと思います。

 長文のエントリーとなりますこと、あらかじめご了承ください。

 お時間の許す範囲でお付き合いください。

 ・・・



アムネスティ・レポートで確認するウィグル族に対する人権侵害

ウイグル族は悠久なる歴史と輝かしい文化をもつ民族です、「ウイグル」とは“連合・団結”という意味のウイグル語でウイグル族の自称であります。

 ウイグル族母語であるウイグル語はアルタイ諸語に属するチュルク諸語の一つで、ウイグル自治区を中心に使用されてきました。ウイグル文字を用いるウイグル語は32の字母をもち、八つの母音の字母、24の子音の字母があって、右から左へ横書きにします、32の字母は実際には126種類の書き方を有しているそうです。

 民族音楽、伝統的手工芸は豊富多彩で、歌と舞踊が得意で、明朗、情熱的であり、おもに中国の西北部に分布しているほか、カザフスタンウズベキスタン、トルコなどにも少数居住しています、人口は1000万強。ウイグル語を話し、伝統的にはオアシスに定住して農耕や商業に従事します。

 イスラームを信仰する民族であり、ウイグル族は長い歴史の発展の中で食生活、服飾、祭り、礼儀作法などの方面で独特な風俗・習慣を形成したのであります。

 ウイグル族漢民族と違って、宗教上の理由もあり、豚肉・犬・ろばなどの肉、生肉、動物の血のついたものなどを食べません、牛・羊の肉類や乳製品を食べ、小麦粉で作った食物を主とし、主食の種類は数十種類あります、最もよく食べるのはナン、ポロ(羊肉入りにんじんピラフ)、まんじゅうなどです。

(参考文献)
中国の少数民族ウイグル族と私
https://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/200903g/4.pdf

 世界の人権問題を扱う国際団体であるアムネスティ・インターナショナルのサイトでは、この中国におけるウィグル族への人権弾圧について、多くのページを割いて訴えています。

アムネスティジャパン
ウィグル人
http://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/minority/world/minority_uyghur.html

 アムネスティの調査によれば、「中国政府による攻撃的なキャンペーンの結果、自らの権利を平和的に行使しただけで数千人のウイグル人が、「『テロリズム』、分離主義、宗教的過激主義」容疑で逮捕または恣意的に拘禁されて」いるといいます。

ウイグル人

中国・西北部に新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)という最大の自治区があります。ウイグル人はテュルク系の言語を使用し、大部分が中央アジアを中心に長い歴史を持つ、スンニ派イスラム教徒です。

ウイグル人アイデンティティは中国政府の民族政策によって脅かされています。ウイグル語の使用制限、宗教の自由への厳しい制限、そして継続的な新彊ウイグル自治区への漢民族流入など、中国政府の政策は、民族の習慣を破壊し、雇用差別とあいまって、不満や民族間の緊張を増幅しています。中国政府による攻撃的なキャンペーンの結果、自らの権利を平和的に行使しただけで数千人のウイグル人が、「『テロリズム』、分離主義、宗教的過激主義」容疑で逮捕または恣意的に拘禁されています。

 新彊ウイグル自治区の学校組織では、中国当局により実際は中国語を唯一の教育言語とした言語政策を進められ、悠久なる歴史と輝かしい文化の象徴でもある「ウイグル語」の使用が公教育の現場にて「禁止」されています。

ウイグル語での教育を制限

中国当局は、新彊ウイグル自治区の学校組織を「バイリンガル」にすると主張していますが、実際は中国語を唯一の教育言語とした言語政策を進めています。この政策は、1990年代に大学レベルの教育において、ウイグル語を排除することから始まりました。現在、新彊大学ではウイグル詩のコースのみがウイグル語で教えられています。2006年、当局は、就学前レベルで使用する主たる教育言語を中国語とする、政策措置を開始しました。

新彊ウイグル自治区南域の都市部出身の子どもや教師たちは、「学校構内で、ウイグル語を一言でも話せば、罰せられるだろう」と報告しています。これでは真の「バイリンガル二重言語主義)」と矛盾しています。

国連子どもの権利委員会は、「初等・中等教育レベルで使用する全ての教育・学習教材が、少数民族の言語を使用し、かつ文化的配慮がなされているものを使用できるよう保証すべきである」と、中国当局に要請しました。

 さらに敬虔なイスラーム信者であるウィグル人たちの宗教活動は著しく制限をされています、例えば「18歳以下の子どもはモスクへ入ることや宗教教育を受ける」と「学校から追放されてしまう」のです。

制限された宗教活動

中国当局は、地方のイスラム教指導者任命に干渉したり、モスク内外に警察を配備し、宗教活動、モスクそして宗教指導者すべてを厳重な管理下に置いています。新彊ウイグル自治区の政府職員(教師・警官・国営企業労働者・公務員を含む)は、宗教活動を行なうと職を失う危険があります。また、ウイグル人のメッカ巡礼を、中国当局は繰り返し妨害しています。全てのイスラム教徒にとってメッカ巡礼は必要不可欠なものです。

18歳以下の子どもはモスクへ入ることや宗教教育を受けることが許されません。親も自分の子どもに宗教について教えることが許されません。モスクに入ったり、家でお祈りをしているところが見つかると、学校から追放されてしまうと、子どもたちは恐れています。

 中国当局によるウィグル族への人権弾圧政策の中でも、アムネスティ・インターナショナルが最も強く避難しているのはウイグル人女性と少女への人権侵害です。

 「農村地域に住む少数民族コミュニティ出身の多くの女性・少女が拉致され、「妻」として、または、性産業に売買され」ており、「中国当局が労働力不足への対応と称して、新疆ウイグル自治区漢民族を大量に移住させる方針をとっている」一方で、「20万人以上とも言われるほど膨大な数の若いウイグル人女性・少女が、中国当局に強制されて送り出さ」ている実態が、アムネスティ・レポート(2008)でも指摘されています。

ウイグル人女性と少女への人権侵害

■国家による人口抑制政策に従わされる少数民族

中国では、一人っ子政策という厳しい人口抑制政策が実施されてきました。このことによって、女性の「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)」や子どもを何人持つか夫婦や家族を主体として計画的に考え決める権利が、中国では尊重されず、国家による「計画出産」が実施されてきました。

人口比率からすると、チベット人ウイグル人などの少数民族は、中国の全人口の9パーセントにも満たないと言われていますが、中国の国家統合という点から、イスラム系民族としてのウイグル人女性たちに対しても、国家による人口政策は押し付けられ、適用されてきました。

ヒューマンライツウォッチのワールドレポート(2005)によると、中国では、文化的に男の子を欲しがる傾向と国の人口抑制政策があいまって、内地の農村地域では女性・少女が少なくなり、人身売買業者にとっては儲かる市場が創出されています。特に農村地域に住む少数民族コミュニティ出身の多くの女性・少女が拉致され、「妻」として、または、性産業に売買されるのです。

強制移住させられるウイグル人女性

ウイグル人の元「良心の囚人」であるラビヤ・カーディルさんは、2007年11月に米下院人権連盟(Congressional Human Rights Caucus)で、かなり多くのウイグル人女性・少女が、安価な労働力や性的搾取を目的に強制移住させられ、その事実が、ウイグル人の人口減少に繋がっていると指摘しました。

アムネスティ・レポート(2008)でも、中国当局が労働力不足への対応と称して、新疆ウイグル自治区漢民族を大量に移住させる方針をとっていることが指摘されています。一方で、20万人以上とも言われるほど膨大な数の若いウイグル人女性・少女が、中国当局に強制されて送り出され、過酷な労働条件と低賃金で働かされています。

 ・・・



漢民族大量移住計画が招いた深刻な民族対立

 中国当局新疆ウイグル自治区への漢民族大量移住計画の実行により、新疆ウイグル自治区の人口における民族構成は大きく変質、もはや最大の民族は漢民族で人口の50%を占めると推測されています。

 特に移住してきた漢民族は都市部などに集中しています、そこに高層マンションなどを立てて大挙して居住しています。

 自治区の最大都市であるウルムチは、ウイグル語で「美しい牧場」を意味し、もともとウイグル族が住む街でしたが、現在では、当局が進める移民政策で漢族の数が急増、市内の総人口の8割を占めるようになり、ウイグル族は完全に少数派となったのです。

 ウルムチなどの都市部でウイグル族による爆発事件が頻発していますが、ウイグル族が自分たちの住む新疆ウイグル自治区で爆発事件を起こしているのは外部から見ると自民族を傷つける矛盾する行為に思えますが、主要都市部の大部分が漢民族に「支配」されてしまった実態があり、そこで無差別「テロ」事件を起こしても、場所を選べば不幸な犠牲者のほとんどが漢民族で占められてしまう冷徹な計算があるからだと言われています。

(参考記事)
強まる民族対立 爆発事件に収入格差で不信増幅 ウルムチルポ
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140524/chn14052422550010-n1.htm

 ・・・
 中国政府は2月、住宅や雇用の改善を改善するため、新疆ウイグル自治区に616億6000万人民元を追加投入すると発表。繊維産業の労働者80万人を新たに雇用する計画もあります。

 中国当局は「ウイグル族が不当に取り残されていることはないと強調」しますが、実態は広域的には漢民族大量移住およびウィグルの言語や宗教や文化への徹底的な弾圧による「民族同化政策」であり、しかしながら経済的には漢民族のみが潤いウィグル族は徹底的に取り残される「民族隔離政策」がとられているといいます。

 ロイター記事によれば、ウルムチ北部の頭屯河区は、都市計画構想の象徴的な場所になっており、高層マンションや大規模な政府庁舎、オフィスパークが並んでいるのですが、ここの住人はほぼすべて漢民族です。

 建設作業員のZhao Fupingさん(20)は、「実際、ウイグル族はここには来ない。理由は分からないが来ない」と話し、出稼ぎに来た理由については「単純だ。賃金がいいからだ」と言い切っています。

 甘粛省出身で中学校卒のZhaoさんは、最大で日給200人民元を受け取っているそうです。

 一方、配達で同地区を訪れた男性は、「ここはウイグル族のための場所ではない。われわれはここが好きではない。単に商品を配達しているだけだ」と語り、足早にバスに乗り込んだそうです。

 中国政府は、ウイグル族が不当に取り残されていることはないと強調していますが、ウイグル族が多く住む新疆南部などでは、まだまったく開発が進んでおらず、仕事も不足しています。

(参考記事)
ロイター記事
焦点:暴力事件相次ぐ新疆ウイグル、民族対立の火種に「経済格差」
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0DN08X20140507?sp=true

 ・・・

 そして現地では民族対立が当然激化します。

(参考論説)
中国民族問題のジレンマ 政府は漢族の騒乱をより警戒
星野 昌裕/南山大学教授(中国の民族政策)
http://www.asahi.com/shimbun/aan/column/20131004.html

 2009年7月のウイグル騒乱事件の際、胡錦濤(フーチンタオ)国家主席(当時)の講話では、「新疆ウイグル自治区全域を発展させる目標を掲げることはできても、その発展によって得られた富をウイグル族に優先的に分配する方針を示すことはできなかった」そうです。

 ウイグル族の騒乱発生後、社会の安定を図るため、新疆ウイグル自治区には中央政府からだけでなく省や直轄市からも、一層多くの支援がなされることになった。この政策を後押しするため、2010年5月に第1回新疆工作座談会が開かれた。しかし初日の胡錦濤(フーチンタオ)国家主席(当時)の講話では、ウイグル族という言葉はほとんど用いられなかった。新疆ウイグル自治区全域を発展させる目標を掲げることはできても、その発展によって得られた富をウイグル族に優先的に分配する方針を示すことはできなかったのである。この理由を理解するためには、新疆ウイグル自治区の人口構成と、騒乱を発端とする一連の政治展開を理解しておく必要がある。

 その理由は「漢族が自治区に大量に流入」したことにより漢族対ウイグル族という「民族対立の構図が極めて鮮明だった」からだとしています。

漢族が自治区に大量に流入

 新疆ウイグル自治区には中国全土のウイグル族の99%が住んでいる。しかし自治区総人口に占めるウイグル族比率は1950年代の76%から2010年の46%へと低下している。これに対して漢族の人口は7%から40%へと増加した。ウイグル族の人口比率低下は、漢族の自治区への大量流入によってもたらされたのである。この傾向は都市部で一層際立っており、首府ウルムチや石油の町カラマイでは漢族人口が約8割、ウイグル族は1割程度にすぎず、ウイグル問題はチベット問題以上に漢族との根深い対立関係がある。

 2009年の騒乱は、7月5日のウイグル族の騒乱が、7日になって漢族による反ウイグル族デモを誘発しており、民族対立の構図が極めて鮮明だった。

 「新疆ウイグル自治区全体の地域情勢を安定させようとすれば、都市部でマジョリティ集団となった漢族の不満を抑制することが何よりも重要な政治課題」だと指摘します。

 では中国政府にとって、ウイグル族の騒乱と漢族の騒乱のいずれがより政治的な脅威なのだろうか。実は騒乱から2か月後の9月3日、ウルムチでは再び数万人規模の漢族による騒乱が発生し、当局はウルムチ市党委員会書記を解任することで事態を鎮静化させている。漢族の騒乱によって市のトップが解任される事態に至った事実を踏まえると、中国政府は漢族の騒乱に一層高い警戒心を持っていると考えられる。

 つまり新疆ウイグル自治区全体の地域情勢を安定させようとすれば、都市部でマジョリティ集団となった漢族の不満を抑制することが何よりも重要な政治課題なのだ。言いかえれば、少数民族が政治的、経済的、文化的な不満をいくら訴えたとしても、中国政府は少数民族の優遇策を拡大することで、こうした不満に対処するのは難しくなっている。

 もし少数民族への優遇策をとりすぎれば、漢族による政治体制への反発が強まる可能性が高いからである。

 このジレンマの克服が容易なことではないことを考えると、やや過激なかたちで公的異議申し立てがなされるウイグルの民族問題は、今後も中国の重要な政治課題であり続けざるを得ないであろう。

 うむ、中国当局は、自身が勧めた漢民族大量移住計画により、自治区内の民族対立の激化を招いてしまったわけです、そして都市部でマジョリティ集団となった漢民族の不満を抑えることに政策の優先順位を真っ先に与えざるを得ないジレンマに陥ったのです。

 ・・・



●「ゼロ容認政策」すなわち「ウイグルを力でねじ伏せる政策」に暴走する中国当局

 中国当局はここにきて「ウイグルを力でねじ伏せる」強硬方針を決定いたします。

 2014年5月23日、新疆ウイグル自治区の政府系サイト「天山網」によると、ウルムチで22日に発生したテロ事件を受け、同自治区政府は15年6月までの1年間に及ぶテロ撲滅作戦を開始いたしました。

 1年間のテロ撲滅作戦では、全住民の力を結集し、極めて強硬な措置や特殊な手段を採用してでもテロ活動を徹底的にたたき潰し、テロリストやテロ組織を壊滅し、テロリストの傲慢(ごうまん)さを壊滅していく方針だとしています。

 具体的には見せしめ裁判を強行します、 ウルムチでの先月22日に130人以上が死傷した爆発テロ事件を受け、自治区イリ・カザフ自治州では27日、当局が「暴力テロ犯罪分子」と認定するウイグル族とみられる被告らに、公開の場で判決を下す「公開裁判」が開かれています。

 自治州の州都グルジャ市の大型スタジアムで開かれた。各民族の幹部や民衆ら約7000人が見守る中、死刑判決を受けた被告3人を含め、6件の事件で故意殺人罪や国家分裂罪、テロ組織に加わった罪などに問われた計55人に判決が下されました。

 中国メディアは、首を押さえつけられてトラックの荷台に乗せられたウイグル族とみられる多数の被告らの写真を掲載しており、この前時代的公開裁判は見せしめの側面が強いのです。

(参考記事)
中国「ウイグルを力で」方針決定
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140530/k10014841321000.html

(参考記事)
爆発事件多発の新疆ウイグル自治区、1年にわたる「テロ撲滅作戦」を開始―中国
Record China 5月24日(土)18時4分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140524-00000020-rcdc-cn

(参考記事)
ウルムチ爆発:「ウイグル族」被告らを公開裁判
毎日新聞 2014年05月28日 18時27分(最終更新 05月28日 23時49分)
http://mainichi.jp/select/news/20140529k0000m030025000c.html

 また「標準化」の名のもとにウイグル族固有文化への弾圧策も一気に強化し、伝統的民族衣装まで「規制」することを当局は決定しています。

(参考記事)
中国、「対テロ」で衣装規制 新疆の少数民族
2014.5.13 20:42 [テロ]
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140513/chn14051320420005-n1.htm

 このような国家権力による服装までもの弾圧は、宗教行為の制限や中国語教育の強要に対して反発を強めているウイグル族をさらに刺激することとなります。

 6月23日付け朝日新聞記事は「中国ウイグル自治区で警官5人殺害 検問所を襲撃」と報じています。

中国ウイグル自治区で警官5人殺害 検問所を襲撃
広州=小山謙太郎2014年6月23日10時56分

 米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)は22日、中国新疆ウイグル自治区のホータン地区モーユー県で20日早朝、何者かが警察の検問所を襲い、警官5人が死亡したと報じた。

 地元当局者の話としてRFAが伝えたところによると、犯人は複数とみられ、検問所の外で警備していた警官2人を刺殺した後、建物に放火した。部屋の外からカギをかけ、暖炉の煙突からガソリンを注いで火をつけたらしい。部屋で寝ていた警官3人が焼死体で見つかったという。

 警察は事件の2日前、スカーフで頭を覆った女性やあごひげを生やした男性を呼び止めて尋問するなどしており、ウイグル族の住民との間で緊張が高まっていたという。

http://www.asahi.com/articles/ASG6R3F8YG6RUHBI00D.html

 襲撃の原因は、「警察は事件の2日前、スカーフで頭を覆った女性やあごひげを生やした男性を呼び止めて尋問するなどしており、ウイグル族の住民との間で緊張が高まっていた」ことによるものです。

 中国当局による「ウイグルを力でねじ伏せる方針」は、かえって大きな反発を招いているのが実情であります。

 ・・・

 中国習指導部はテロ勢力に対しては「ゼロ容認」つまりゼロ・トレランス方式、一切の寛容を示さない無慈悲政策を掲げています。

ゼロ・トレランス方式

ゼロ・トレランス方式(ゼロ・トレランスほうしき、英語: zero-tolerance policing)とは、割れ窓理論に依拠して1990年代にアメリカで始まった教育方針の一つ。「zero」「tolerance(寛容)」の文字通り、不寛容を是とし細部まで罰則を定めそれに違反した場合は厳密に処分を行う方式。日本語では「不寛容」「無寛容」「非寛容」等と表現され、転じて「毅然たる対応方式」などと意訳される。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E6%96%B9%E5%BC%8F

 5月23日付けの人民日報では、賈秀東中国国際問題研究所特別招聘研究員が中国政府の強硬方針を掲載しています。

テロ勢力に対してはゼロ容認しかありえない
人民網日本語版 2014年05月23日13:49
http://j.people.com.cn/n/2014/0523/c94474-8731725.html

 ウルムチ市内の爆発事件を「テロ事件」と「定義」し、「基本的人権を無視し、人類の道義を踏みにじり、人類社会共通の秩序と人類文明共通の最後の一線に挑戦する」のが「テロ勢力の凶悪残忍な本質」であると指摘します。

 ウルムチ市内で22日、暴徒の運転する車が朝市の人混みに突っ込んだうえ、爆発物を起爆し、民衆多数が死傷した。今年3月1日に昆明駅で起きたテロ事件、4月30日にウルムチ南駅で起きたテロ事件に続く、人間性を喪失した、人々を激怒させる血腥い犯罪行為だ。22日のテロ事件でテロリストは極めて卑劣かつ残忍な手段によって、罪のない人々を無闇に殺害した。基本的人権を無視し、人類の道義を踏みにじり、人類社会共通の秩序と人類文明共通の最後の一線に挑戦するテロ勢力の凶悪残忍な本質が再び暴露された。

 「習近平国家主席李克強総理は、速やかに事件を解決してテロリストを逮捕し、厳重に処罰するよう重要な指示を出すとともに、テロ活動とテロリストに対して警戒を続け、力強く打って出て、厳しく叩く高圧的姿勢を維持し続け、社会の安定を全力で維持する方針を強調した」とします。

 ちょうどアジア信頼醸成措置会議(CICA)首脳会議が対テロで一致した声を発して閉幕し、新疆維吾爾(ウイグル自治区でテロ音声動画犯罪事件16件に判決が言い渡された際に、テロリストはテロ事件を引き起こした。その野心は明らかだ。これは中国社会と国際社会の対テロの決意に対する公然たる挑発だ。このところ相次ぐテロ事件によって、中国のテロ対策が厳しい状況にあることが浮き彫りになり、テロ対策は一刻たりとも油断ならないことが改めて示された。テロ事件発生後、習近平国家主席李克強総理は、速やかに事件を解決してテロリストを逮捕し、厳重に処罰するよう重要な指示を出すとともに、テロ活動とテロリストに対して警戒を続け、力強く打って出て、厳しく叩く高圧的姿勢を維持し続け、社会の安定を全力で維持する方針を強調した。

 その上で習主席は「テロリスト、分離独立派、宗教過激派の「3つの勢力」に対してはゼロ容認の姿勢で臨まなければならない」と演説したことに触れています。

 習主席はCICA首脳会議の基調演説で、テロリスト、分離独立派、宗教過激派の「3つの勢力」に対してはゼロ容認の姿勢で臨まなければならないと指摘した。少し前の新疆自治区幹部座談会では、テロ勢力に「壊滅的打撃」を与える方針を示し、テロ活動は早期に叩き、小さなものも叩き、芽のうちに叩き、電光石火の勢いで壊滅的打撃を与えなければならないと強調した。

 ・・・



●まとめ

 一言で言えば、中国政府はウィグル族への弾圧をもはや今となっては止めたくても止めることはできないのだと思います。

 彼らの乱暴な民族同化政策の一環である漢民族大量移住計画が新彊ウイグル地区において、漢民族を都市部でマジョリティ集団と押し上げてしまったジレンマが、漢族対ウイグル族という民族対立の構図も相まって、妥協を許さない「ゼロ容認政策」すなわち「ウイグルを力でねじ伏せる方針」を新彊ウイグル自治区で強行させているのです。

 中国当局にとって真に恐ろしいのは人口の9割を越える漢民族の反抗にこそあります。

 彼ら漢民族の不満が爆発しないために、中国当局はウィグル族に対し一切の妥協を許さない暴力的政策に転じざるをえなかったのだと思われます。

 なぜ中国当局ウイグル族の強い反発を招く危険を冒してまで、「ゼロ容認政策」すなわち「ウイグルを力でねじ伏せる方針」を強行しようとするのか、今回は当ブログとしてこの地における中国当局の暴力的政策について、その実態とその動機について徹底的に検証してまいりました。

 このエントリーが読者のこの問題に対する知的考察の一助となれば幸いです。



(木走まさみず)

中国にとり領土紛争はすべて「海洋国土を守る聖なる防衛戦」だ〜日本はいまこそ集団的自衛権について建設的かつ積極的に議論すべき

■因果関係が逆転している毎日新聞社説の詭弁

 25日付け産経新聞記事から。

常軌を逸している」 小野寺防衛相が中国軍機異常接近を批判
2014.5.25 15:21

 小野寺五典防衛相は25日午前、中国軍の戦闘機が自衛隊機に異常接近したことについて「(自衛隊機は)普通に公海上を飛んでいるのに、あり得ない。常軌を逸した近接行動だ。あってはならないことだ」と述べ、中国側の対応を批判した。防衛省で記者団の質問に答えた。

 中国軍機の異常接近を公表した理由について「このような近接する中国戦闘機の航行はかつてはなかった」と説明。中国軍の戦闘機にミサイルが搭載されていたことも明らかにした。小野寺氏は24日夜に安倍晋三首相に報告、首相は「引き続きしっかりと態勢を取ってほしい」と指示した。

 小野寺氏は「わが国の領土・領海・領空をしっかり守っていくために、必要な警戒監視を行っていく」と述べた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140525/plc14052515210011-n1.htm

 前代未聞の中国軍ミサイル搭載戦闘機の自衛隊機への異常接近でありますが、小野寺防衛相は「常軌を逸した近接行動だ。あってはならないことだ」と中国側を強く批判しておりますが、これに対して中国国防省は25日、自衛隊機2機に中国軍機が緊急発進(スクランブル)したことを認め、「自衛隊機が中国の防空識別圏に侵入し、中露合同演習を偵察、妨害した」と反論する談話を発表しています。

 さらに国防省は、すでに日本側に「一切の偵察と妨害活動の停止」を求めたことを明らかにし、その上で要求に従わなかった場合は「後の結果は日本側が責任を持たなければならない」と明言。さらなる強硬措置を示唆しています。

 また、武力衝突につながりかねないこうした挑発行為について、当初は「現場指揮官の暴走」の可能性も指摘されましたが、その後、現場指揮官が処分を受けた形跡はなく、いずれも中国共産党中央の指示によるものだったと証言する党高官も現れています。自衛隊憲法などに縛られ、対抗手段を持っていないことを知った上で、あえて挑発した可能性が高いのです。

(関連記事)

中国、逆に抗議「日本が侵入し中露演習を妨害」
2014年05月25日 19時15分
http://www.yomiuri.co.jp/world/20140525-OYT1T50048.html

党中央の指示か 現場指揮官の処分なし
2014.5.26 08:28
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140526/chn14052608280004-n3.htm

 ・・・

 さて、尖閣諸島周辺の東シナ海だけでなく、南シナ海においても中国がベトナムとフィリピンを相手に小競り合いを起こし、事態がエスカレーションの危険性を帯びつつあります。

 ベトナムとは中国が西沙諸島パラセル諸島)で始めた石油掘削を巡って、フィリピンとは南沙諸島スプラトリー諸島)でウミガメ漁をしていた中国漁船をフィリピンが拿捕したことを巡って衝突しています。

 今回の中国機の異常接近の背景には、「海洋強国」建設を掲げ、東・南シナ海で覇権の拡大を目指す習近平政権の強硬姿勢があろうことは明白でありましょう。

 「国家百年の計に有り」、中国による緻密に計画された長期海洋戦略が背景にあるのです。

 ならば懸念されるのは、中国軍の現場部隊が今後も海洋戦略に則り、過激な示威活動を繰り返しかねないだろうことです。

 集団的自衛権うんぬんで国内議論も落ち着かず有事法整備がまったく手つかずの日本にとって危機的状況であります。

 しかるにこの緊迫した情勢の中で「対抗だけの冷戦思考ではなく、中国を取り込みながら地域の安定、繁栄を図る新思考こそ必要なはず」などと呑気(のんき)な社説を掲げているメディアもいるのです。

 26日付け毎日新聞社説から。

社説:視点・集団的自衛権 対中戦略 対抗だけでは危険だ
毎日新聞 2014年05月26日 02時30分
 ◇論説委員 坂東賢治
http://mainichi.jp/opinion/news/20140526k0000m070128000c.html

 毎日社説より。

 冷戦期と違い、軍事的抑止だけで安全が保たれる状況にはない。日米安保体制の下で集団的自衛権を対中抑止に結びつけて考えようとすれば、米中衝突時の米軍支援を想定することになる。米国はそんなことを望んではいまい。

 中国も一枚岩ではない。タカ派も国際協調派も存在する。中国軍内からはすでに「自衛隊の軍事的役割が強化されるなら、軍備をいっそう強化すべきだ」との声が出ている。信頼醸成など国際協調の動きを引き出す外交戦略がないと危険だ。

 うむ、毎日社説は「日米安保体制の下で集団的自衛権を対中抑止に結びつけて考え」ることは、中国軍内から「自衛隊の軍事的役割が強化されるなら、軍備をいっそう強化すべき」との声を導き、「信頼醸成など国際協調の動きを引き出す外交戦略がないと危険」だと決めつけています。

 これは典型的な詭弁論法です、因果関係が逆転しています。

 そもそも中国の「海洋強国」建設という冒険主義的国家戦略が日本など周辺国をして集団的自衛権論議を招いているものであり、「自衛隊の軍事的役割が強化されるなら、軍備をいっそう強化すべき」との論は、後付けの理屈です、この理屈ではこれまでの中国の軍備拡張を何ら説明できはしませんし、日本以外の南シナ海での覇権の拡大をも目指している中国の行動に対して何も説明できはしません。

 日本の政権が媚中民主党政権であろうとタカ派自民党政権であろうと、中国による緻密に計画された長期海洋戦略が揺るぐはずもありません。

 今回は、中国による「国家百年の計」、緻密に計画された長期海洋戦略である「海洋強国」建設について、彼らが如何に本気で建設しようとしているのか、中国側視点で検証して見たいと思います。

 ・・・



■中国側の視点に立つために、中国起点で90度回転して東アジア地図を俯瞰して見る

 中国がなぜ国際的摩擦を顧みずに「海洋強国」建設にこだわるのか、あくまでも中国側の視点に立って考察してみたいです。

 まず、中国側の視点に立つために、中国起点で90度回転して東アジア地図を俯瞰して見ましょう。

■図1:中国起点で90度回転して俯瞰する東アジア地図

 実は中国は「海洋強国」とは名ばかり、大洋に進出するためには、北は、朝鮮半島、日本列島に阻まれ、中央には琉球諸島、台湾、フィリピン諸島に阻まれ、南にはマレーシアやインドネシア諸島、インドシナ半島に囲まれていることが、この図で見るとよく理解できます。

 中国はその広大な国土とは裏腹に、海岸線は、東シナ海(East China Sea)と南シナ海(South China Sea)に面しているだけであり、その排他的経済水域(EEZ)は約88万km2と日本の約1/5に過ぎません。

 中国から見れば、中国の海は、北朝鮮、韓国、日本、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム等に包囲されており、東シナ海(East China Sea)と南シナ海(South China Sea)の制海権を失えば簡単に海上封鎖されてしまう、地政学的に脆弱な条件のもとにあるわけです。

 1982年12月10日国連海洋法条約が採択されたのを機に、国連海洋法条約が導入した排他的経済水域、大陸棚制度の確立によって、中国は自国の管轄海域はそれまでから300万平方キロメートルに、排他的経済水域(EEZ)は12 カイリから 200 カイリに拡大したことを、一方的に宣言します(米国や日本などはこの主張を認めてはいません)。

 国連海洋法条約後、中国海軍では管轄海域を領土的なものと観念し、これを他国から防衛すべきであるとの思考が強まります。1982 年に海軍司令員に就任した劉華清は、1985年12月20日、海軍幹部による図上演習総括会の席において、新しい内容の「近海防御」を海軍戦略として正式に提起します。1986年1月25日に開かれた海軍党委員会拡大会議において、劉華清は「近海防御」の海軍戦略の詳細を説明しています。

 海軍戦略の制定にあたってとくに強調されたのは、領海主権と海洋権益の防衛であります。

 劉は、国連海洋法条約に基づき、中国は 300 万平方キロメートルあまりの管轄海域を設定できると主張し、これらの海域と大陸棚を中国の「海洋国土」と表現します。さらに劉は、黄海東シナ海南シナ海は「中国が生存と発展を依拠する資源の宝庫と安全保障上の障壁」であるが、「歴史的原因により、海洋資源開発、EEZ の境界画定、大陸棚、一部の島嶼、特に南シナ海では周辺諸国との間で争いと立場の違いがある」と指摘します。この状況下で海洋国土を侵犯されないためには、海軍は「戦略軍種」として海軍戦略を持つべきであると論じたのであります。

(関連レポート)

現代海洋法秩序の展開と中国
毛利 亜樹(同志社大学 助教
http://www2.jiia.or.jp/pdf/resarch/h22_Chugoku_kenkyukai/06_Chapter6.pdf

 これにより東シナ海南シナ海は中国に取り、「中国が生存と発展を依拠する資源の宝庫と安全保障上の障壁」となり、第一列島線(First Island Chain)と呼ばれる対米防衛線が確立されます。

■図2:東シナ海南シナ海を安全保障上の障壁とする第一列島線

第一列島線内のパラセル諸島スプラトリー諸島尖閣諸島をめぐる紛争はすべて「海洋国土を守る聖なる防衛戦」

 国連海洋法条約を受けて、中国は海洋に関する国内法整備にも注力いたします。

 1992年2月25日、「中華人民共和国領海および接続水域法」(以下、「領海法」)が施行され、他国と領有権争いのある島嶼を中国の領土と明記して注目されます。

 台湾、南シナ海パラセル諸島スプラトリー諸島などとともに尖閣諸島を中国の領土と規定し、1971年以来の尖閣諸島に対する領有権の主張を国内法で規定いたします。

 これらの領有権の主張を前提に、この法律は、中国が権利を持つと主張する接続水域において、中国の法律に違反する外国船舶に対し、他国の領海に入るまで追尾する継続追跡権を軍艦、軍用機、政府の授権を受けた船舶および航空機に与えています。

 ここにいたり、国際法上公海であるはずの東シナ海南シナ海および海域諸島が、中国にとって「中国が生存と発展を依拠する資源の宝庫と安全保障上の障壁」である「内海」的存在であることが、軍事的戦略としてだけでなく、国内法上においてもその整備が完成いたします。

 ここで、パラセル諸島におけるベトナムなどへの覇権、スプラトリー諸島におけるフィリピンなどへの覇権、および尖閣諸島における日本などへの覇権、これらはすべて「海王強国」を目指す中国にとって、「海洋国土を守る聖なる防衛戦」となったわけです。

■図3:東シナ海南シナ海における主な領土紛争

✖1:尖閣諸島(対日本など)✖2:パラセル諸島(対ベトナムなど) ✖3:スプラトリー諸島(対フィリピンなど)

 これらの紛争で中国が安全保障上一番懸念しているのは、対峙する諸国が集団を成して連合することです。

 従って中国は領土紛争をあくまで「当事者二国間の問題」として扱うことを主張し、国際問題化することに強硬に反対しています。

 ベトナムやフィリピンなど小国ならば一対一で対峙すれば経済的・軍事的に中国が圧倒できるからです。



■米国の「アジア回帰」(”Rebalance”)政策の実践〜オバマ外交の地政学的意味合い

 さて、アジア重視政策、「りバランス」外交を唱えるオバマ大統領ですが、国際的には「哲学がない」「行動力がない」などと酷評されていますが、この度の日本・韓国・マレーシア・フィリピンのアジア四カ国歴訪は実は地政学的には、中国を牽制するのに大きなインパクトを与えています。

 上述した、中国と紛争中の国(日本、ベトナム、フィリピン)と、日本とフィリピンは重なりますがオバマの今回の訪問国を、中国側の視点で見てみると興味深いです。

■図4:地政学的に中国を包囲した結果になったオバマ「りバランス」外交

 対中国紛争当事国日本・ベトナム・フィリピン(図中青の国)と今回訪問した韓国、マレーシア(図中緑の国)の5カ国の位置を地図上で見れば、中国の第一列島線に見事に対峙してそれを包囲していることが理解できます、これに台湾を加えればほぼ包囲網が完成します。

 中国やロシアなど26の国と地域が加盟するアジア信頼醸成措置会議の首脳会合で、習近平国家主席は演説で「アジアの安全は結局、アジアの人々が守らなければならない」と述べていますが、明らかにアメリカのアジア重視の姿勢を念頭に、アジアの安全保障を巡る新しい秩序を中国主導で作ろうという姿勢を強く打ち出しているわけです。

 領土問題はアメリカ抜きで二国間で解決を見る中国のこれまでの外交方針を堅持しているわけです。



■まとめ

 中国は、いま検証してきたように、「国家百年の計」とも申せましょう、緻密に計画された極めて長期に渡る海洋戦略を実行してまいりました。

 その戦略はあくまで中国が主体的に構築し実践しているものであり、中国にとって一周辺国である日本の政権が媚中派であろうと嫌中派であろうと、その日本政府の政策によって大きく方針が変換されるような受動的なものでは決してありません。

 ならば、駆け引きを伴う外交戦において、相手が嫌がる戦略をはなから排除する愚かな選択をしてはいけないのは自明であることから、このタイミングで日本が集団的自衛権を検討することは、当然であろうと考えます、むしろ遅すぎとも言えましょう。

 対中国においてベトナムなどのアセアン諸国との連携を深める意味でも、日本はいまこそ集団的自衛権について建設的かつ積極的に議論すべきだと考えます。




(木走まさみず)

突出した伸び率で軍事大国化を計る中国は実は無理をしていない〜日本のメディアの分析は甘い

 5日付け時事通信記事から。

中国国防費12.2%増=4年連続2桁の伸び−尖閣・歴史で対日けん制−中国全人代

 【北京時事】中国の国会に当たる全国人民代表大会全人代)が5日、北京の人民大会堂で開幕した。全人代に合わせて公表された2014年の中央国防予算は前年実績比で12.2%増の8082億3000万元(約13兆4400億円)に達した。4年連続2桁の伸びで、昨年の10.7%増という伸び率も上回った。李克強首相は就任後初の政府活動報告で「国の領土主権と海洋権益を断固として守った」とした上で、「平時の戦闘への備えと国境・領海・領空防衛の管理を強化する」との方針を表明した。

 さらに李首相は「われわれは第2次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を守り抜き、歴史の流れを逆行させることは決して許さない」と述べ、名指しはしなかったが、靖国神社に参拝した安倍晋三首相をけん制した。政府活動報告は、沖縄県尖閣諸島歴史認識問題で日本を意識した内容となった。(2014/03/05-11:41)

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2014030500083

 うむ、「2014年の中央国防予算は前年実績比で12.2%増の8082億3000万元(約13兆4400億円)に達した」とあります、「4年連続2桁の伸びで、昨年の10.7%増という伸び率も上回った」のであります。

 これを受け6日付け主要紙社説は一斉にこの中国全人代の方針表明を取り上げています。

【朝日社説】中国の国防費―危うい軍拡をやめよ
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=com_gnavi
【読売社説】中国国防費膨張 平和を脅かす露骨な軍拡路線
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20140306-OYT1T00018.htm
【毎日社説】中国全人代 改革すたれ軍拡栄える
http://mainichi.jp/opinion/news/20140306k0000m070173000c.html
【産経社説】中国国防費 秩序を崩すのはどっちだ
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140306/chn14030603420000-n1.htm
【日経社説】この改革で中国は安定成長できるのか
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO67828450W4A300C1EA1000/

 各紙社説とも、「中国の軍拡が止まらない」(朝日)、「中国脅威論にも拍車がかかろう」(読売)、「経済成長が鈍っているのに、国防費は12%増と群を抜く」(毎日)、「とどまるところを知らぬ中国の軍拡には警戒を強めざるを得ない」(産経)、「総額は過去最高だ。懸念を覚えざるを得ない」(日経)と、世界の中で突出して膨張を続ける中国国防費に対し強い警戒感を示しています。

 確かに「中国の国防力は防御的」との説明は全く説得力がありません。

 中国の全国人民代表大会全人代)に提出された2014年予算案の国防費は、8082億3000万元(約13兆4460億円)と前年実績に比べ12・2%膨らみました。経済成長率の目標が前年並みの7・5%にとどまる中での4年連続2桁増であります。

 しかも、中国軍事費の財源全体は、表に出ている国防費の2倍以上ともいわれています。

 とどまるところを知らぬ中国の軍拡には警戒を強めざるを得ません。特に尖閣諸島などへの海洋進出攻勢の裏付けとなる海軍力の著しい増強は、日本はもちろん、東南アジア諸国にも脅威であります。

 国際情勢の変化の軍事支出の増減に対する影響力を検証する資料として、信用性が高く評価されているデータベースとして、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計データがあります。

Stockholm International Peace Research Institute "Yearbook"
http://www.sipri.org/

 このデータベースより、中国、韓国、日本、台湾の1989年から2013年までの軍事費の推移を表にまとめてみましょう。

 なお数値は当時のレートで米ドル換算しています。

■表1:東アジア四か国の軍事費推移

Country 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
China 18336 19820 20833 25317 23454 22432 23059 25424 26335 29901 34454 37040 45422 52832 57390 63560 71496 84021 96906 106774 128869 136467 146154 157603 166107
Korea 14826 15059 15535 16439 17194 17698 18617 19620 20095 19399 18872 20031 20609 21177 21898 22859 24722 25613 26773 28525 30110 29912 30884 31484 31660
Japan 46592 47802 49399 52486 54607 56181 56827 57124 56988 57725 59430 60288 60250 60701 61460 61201 61288 60892 60574 59140 59735 59003 59572 59242 59271
Taiwan 10810 11406 11737 11865 13450 13297 12313 12703 12650 11833 11812 10384 10195 9860 9765 9782 9412 9030 9555 9729 10479 9903 9998 10513 10721

 わかりやすくグラフ化してみます。

■図1:東アジア四か国の軍事費推移

うむ、中国の軍事費の伸びが突出していることがわかります。

 1989年からのこの四半世紀で実に中国の軍事費は9倍に膨張しているわけです。

■表2:東アジア四か国の軍事費、直近25年間の伸び率

Country 1989 2013 伸び率
China 18336 166107 9.059
Korea 14826 31660 2.135
Japan 46592 59271 1.272
Taiwan 10810 10721 0.992

 この四半世紀において韓国は2倍にしておりますが日本や台湾が軍事費がほとんど伸びていない中、中国は実に9倍を越える膨張を示しています。

 各紙社説が警戒するのも無理からぬ統計数値であります。

 しかしです。

 日本のメディアの分析は甘いと申していいでしょう。

 当ブログとしてもう一歩踏み込んで統計数値を押さえておきたいです。

 統計情報は生の絶対的数値だけで分析すると起こっていることを見落としてしまうことがよくあります。

 中国の軍事費をその伸び率だけで追えばかなり無理して軍事力強化を図っている印象を与えますが、はたして実態はどうなのでしょうか。

 参照しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計データがほぼ正確な値だとして、ここで軍事費の各国のGDPに占める割合でグラフ化してみましょう。

 中国、韓国、日本、台湾に、参考までに米国、ロシア、インド、パキスタンを新たに加えてみます。

■図2:主要国の軍事費推移(対GDP比)

 うむ、たいへん興味深いことに、日本がほぼ1%で推移しているのに対し中国はほぼ2%で推移していることが見て取れます。

 これは3〜6%で推移している米国やロシヤ、3%前後で推移している韓国やインドよりも低い数値なのです。

 中国軍事費の財源全体は、表に出ている国防費の2倍以上ともいわれていますので、このグラフでもって断定的な分析は避けるべきでしょうが、ひとつだけ確信的に判断できることは、中国がその国力に比較して突出して軍事費を膨張させているわけではないということです。

 この統計数値が示す事実は、各紙社説が「とどまるところを知らぬ中国の軍拡には警戒を強めざるを得ない」(産経)という絶対的数値に対する警鐘より以上の深刻な現状を示しています。

 絶対額では世界の中で突出した軍事費の伸び率を示している中国ですが、実は国力に応じた軍事費に抑制している、決して無理をしていないという事実は、私たちは深刻に受け止めるべきでしょう。

 日本のメディアの分析は甘すぎると考えます。



(木走まさみず) 

箍(たが)が外(はず)れつつある中国の対日動向を警戒せよ

 ここにきて中国の対日動向が急に変化してきています。

 26日付け朝日新聞記事から。

強制連行、中国でも集団提訴 日本企業2社を相手取り
2014年2月26日12時38分

 第2次世界大戦中などに中国から強制連行され、日本の炭鉱などで労働を強いられたとして、中国人の元労働者や遺族ら計37人が26日、三菱マテリアル日本コークス工業(旧三井鉱山)を相手取り、連行された12人の元労働者1人当たり100万元(約1700万円)の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴えを北京市第1中級人民法院(地裁に相当)に起こした。

 中国の裁判所で強制連行を巡る集団提訴が受理された例はない。今回裁判所が受理すれば、同様の境遇にあった元労働者が中国各地で提訴する可能性もある。

 原告側の弁護士によると、原告は北京市などに住む元労働者や遺族ら。原告や請求対象とする企業はさらに増える見込みという。 

(後略)

http://www.asahi.com/articles/ASG2V32L2G2VUHBI009.html

 うむ、中国において初めて日本企業に対する強制連行を巡る集団提訴が受理されようとしています。

 「強制連行」問題で、これまで中国国内の裁判所に提出された訴状は対日外交への配慮から受理されておらず、仮に今回受理されれば、中国での方針転換を示すものとなります。

 受理の可否は形式上、同法院が今後判断しますが、中国は三権分立制を認めておらず、司法は中国共産党の指導下にあります。

 つまり訴状が正式に受理された場合、中国共産党政府が今まで封印していた対日強攻策である強制連行を巡る集団提訴を解き放つという大きな戦略転換を意味します。

 訴状が受理された場合、外交レベルで「解決済み」とされてきた戦争賠償の請求問題を「民間賠償」として蒸し返す形となり、日中関係への影響は確実です。

 また損害賠償請求の対象となる日本の旧財閥系企業の多くは現在、中国に進出しています。

 仮に賠償支払いが命じられた場合、応じなければ、中国司法当局が対象企業の経済活動や中国国内の資産に対して執行手続きに踏み切る可能性が高いのです。

 一方、判決に従って賠償金を支払えば、戦時中の活動を理由とする賠償請求訴訟が次々と起きかねません。

 日本企業がこうした訴訟に連鎖的に巻き込まれれば、中国に進出する際の新たなリスクとなるのは確実です。 

 ・・・

 次に17日付け産経新聞記事から。

尖閣侵攻で中国の強さ見せつけられる」ダボス会議中のある会合で発言した中国の“本音”…「世界戦争も辞さず」に凍りついた会場
2014.2.17 07:00

 スイスで1月に開かれた「世界経済フォーラム年次総会」(ダボス会議)で、取材にあたった米メディア幹部がぞっとする「影響力を持つ中国人の専門家」の談話を伝えた。この専門家は「多くの中国人は尖閣諸島への侵攻で軍事的な優位を地域に見せつけ、シンボル的な島を確保することができると信じている」と語った。世界大戦の引き金になりかねない話の行方に、周辺は凍り付いたという。

(後略)

http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/140217/wec14021707000000-n1.htm

 うむ、「世界経済フォーラム年次総会」(ダボス会議)という公式の場所のディナー会合にて、「影響力を持つ中国人の専門家」が「多くの中国人は尖閣諸島への侵攻で軍事的な優位を地域に見せつけ、シンボル的な島を確保することができると信じている」と発言したというのです。

 「影響力を持つ中国人の専門家」の発言を記事から抜粋します。

戦争犯罪者を崇拝する行為で、クレイジーだ」

「多くの中国人は、尖閣諸島への侵攻で軍事的な優位を見せつけ、このシンボル的な島を完全に支配できると信じている」

「日米の軍事的な対処で事態が大きな戦争につながっても、さほどひどいこととは思わない」

 この会合は発言者を特定させてはならない英語圏の「チャタムハウス・ルール」が適用され、発言者は「影響力を持つ中国人の専門家(プロフェッショナル)」としか記されていません。

 政府筋か、学識者か、あるいは経済人かなどは不明ですが、こうしたディナーに招かれる以上、それなりに発言が重視される影響力を持つ立場にある人物のようです。

 ・・・

 さて、最後に中国の環球時報の最近の興味深い記事を紹介します。

 環球時報(かんきゅうじほう)と言えば、中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』の国際版です。

 中国共産党政府の主張の代弁者と見なしていいでしょう。 

 例えば、2013年11月29日、環球時報は中国の東シナ海での防空識別圏設定をめぐり、「戦闘の目標を日本に絞るべき」とする社説を掲載しています。

 その中で、「今後、最も直接的な戦いは日本との間で起きるだろう」「われわれは日本を圧倒することに集中し、」「日本の戦闘機が中国の防空識別圏に進入すれば、われわれの戦闘機も日本の防空識別圏に進入する。敵に後れをとるわけではなく、中国空軍の自らのタイミングでしかるべき方法をとる。米ソ冷戦時代のようなし烈な空中戦が行われるだろう。中国軍は訓練し、強化し、事態に備えなければならない」「中国には持久力があり、自信と忍耐力がある。中国にはどう対応すべきか、日本に思い知らせてやるのだ」と書いています。

 このように最近では日本に対しては好戦的とも言える論説を掲載している環球時報なのですが、興味深い小さな変化が最近見られています。

 以前なら希(まれ)であった対日戦における中国軍の劣勢を報じる海外メディア記事を報じ始めています。

 12月14日付け新華経済記事から。

アジア最強の軍事強国は「日本」、中国ではない―米メディア

中国紙・環球時報(電子版)は13日、米紙の報道として、世界中の人々から「アジア第一の軍事強国」は中国だと思われているが、実はこの称号に最も相応しいのは日本だと報じた。

米紙クリスチャン・サイエンス・モニター(電子版)は11日、日本の戦後憲法は「国権の発動たる戦争」を永遠に放棄するとうたい、その軍隊は「自衛隊」という耳触りのよい名称を冠していると指摘。だが、これに対し、著名な軍事専門家、ラリー・ウォーツェル氏は最近、「こうしたごまかしに騙されないよう」警告していると報じた。

同紙はまた、「日本は軍人の数で中国のわずか10分の1、戦闘機の数は中国の5分の1、艦隊のトン数は中国の半分。軍隊の規模だけ見ると、日本はかなり劣っている」とした上で、「だが、近代戦争のカギとなる要素である訓練と科学技術の面では、日本は軽く中国を越えている。海上の領土紛争が武力衝突に発展した場合、優勢に立つのは日本だ」との見方を示した。

(編集翻訳 小豆沢紀子)
http://www.xinhua.jp/socioeconomy/economic_exchange/368726/

 米紙クリスチャン・サイエンス・モニター(電子版)の「近代戦争のカギとなる要素である訓練と科学技術の面では、日本は軽く中国を越えている。海上の領土紛争が武力衝突に発展した場合、優勢に立つのは日本だ」との見方を報じています。

 26日付け毎日中国経済記事から。

中国軍は釣魚島を占拠した後、絶体絶命の窮地に陥る―ロシアメディア

中国紙・環球時報は25日、ロシアのラジオ局・ロシアの声の報道として、「中国軍は釣魚島を占領した後、絶体絶命の窮地に陥る」と報じた。以下はその概略。
中国人が釣魚島(日本名:尖閣諸島)一帯で日本の艦船を破壊し、島への上陸に成功したとしよう。まずは、すぐに日本のディーゼル・エレクトリック潜水艦と米国の原子力潜水艦が現れる。中国と彼らとの戦いは楽観できない。中国は空母への対抗能力は大量に蓄積しているが、地理から考えると、米国は空軍をこの島に派遣することも可能だ。
中国はロシアから射程距離400キロの超長距離地対空ミサイルシステム、S−400 「トリウームフ」を購入することで、自らの戦略的地位を固めようとしている。これにより、地上から釣魚島(尖閣諸島)空域を制御することは可能だが、中国本土から釣魚島までの距離は330キロもある。地形の複雑な小さな島にこのようなシステムを配備するのも合理的ではない。
そのため、仮に釣魚島(尖閣諸島)を中国軍が占拠しても、結局は封じ込められた形となり、窮地に陥ることになる。東シナ海に大量の日米軍事力(主に潜水艦)が集結すれば、中国軍は占拠を続けることができなくなり、部隊に戻ることすらかなわなくなる。事態がここまで発展し、中国が痛い目に遭う可能性は大いにある。
(編集翻訳 小豆沢紀子)

http://news.livedoor.com/article/detail/8574289/

 こちらではロシアのラジオ局・ロシアの声の報道として、「仮に釣魚島(尖閣諸島)を中国軍が占拠しても、結局は封じ込められた形となり、窮地に陥ることになる。東シナ海に大量の日米軍事力(主に潜水艦)が集結すれば、中国軍は占拠を続けることができなくなり、部隊に戻ることすらかなわなくなる。事態がここまで発展し、中国が痛い目に遭う可能性は大いにある」との記事を報じています。

 中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』の国際版である環球時報がこのように中国にとって不愉快な海外メディアの記事を掲載するとはたいへん興味深いことです。

 ・・・

 まとめです。

 まず中国において初めて日本企業に対する強制連行を巡る集団提訴が受理されようとしています。

 三権分立が確立していない中国において、この意味することは中国共産党政府が今まで封印してきた対日強攻策を解き放つという、大きな政略変換を決断したということです。

 このような訴訟が今後続出するとすれば、中国に進出している日本企業に取り大きなリスクとなり、その経済的悪影響は測りしれません。

 日本国内で起こされた同様の訴訟で、最高裁は2007年4月に「1972年の日中共同声明で、個人の請求権も放棄された」との判断を提示していますので、外交的にも日中の間で深刻な対立を招くことは避けられないでしょう。

 また「世界経済フォーラム年次総会」(ダボス会議)という公式の場所のディナー会合にて、「影響力を持つ中国人の専門家」が「多くの中国人は尖閣諸島への侵攻で軍事的な優位を地域に見せつけ、シンボル的な島を確保することができると信じている」と発言したことも重要なひとつのシグナルと見なせます。

 「日米の軍事的な対処で事態が大きな戦争につながっても、さほどひどいこととは思わない」との発言の意味するところは、個人的発言ではありながら中国共産党政府の意向の一部を代弁しているのだとも推測可能でしょう。

 そして中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』の国際版である環球時報の最近における興味深い報道の小さな変化です。

 「アジア最強の軍事強国は「日本」、中国ではない」(米メディア)、「中国軍は釣魚島を占拠した後、絶体絶命の窮地に陥る」(ロシアメディア)などの中国が軍事的に劣勢であるとの海外メディアの報道を報じていることは、加熱する国内輿論を沈静化するためや共産党内の強硬派を抑えるためが目的なのかもしれません。

 しかしこのような報道が共産党機関紙の環球時報で報じられていること自体がひとつのシグナルと考えることもできるのではないでしょうか。

 共産党機関紙が中国の軍事的劣勢を報道する海外メディアを紹介するほど、実は国内強硬派の発言が加熱してきたことの証左なのかもしれません。

 「箍(たが)が外(はず)れた」という言葉があります。

 現在の木製の桶(おけ)は細長い板を円状に並べ、竹などをらせん状に束ねた「箍」(たが)で結う結物構造となっており、接着剤等は使用しないのですが、箍が外れれば桶は今までの形状を維持できず板はバラバラになってしまうことから、外側から締め付けて形を維持しているものがなくなり、それまでの秩序が失われることを「箍(たが)が外(はず)れた」と表現するわけです。

 中国の対日外交政策は今大きく方向転換を始めたと云えましょう。
 初めて日本企業に対する強制連行を巡る集団提訴が受理されようとしていることに象徴されますが、今まで抑制してきた一線を明らかに越えて強硬姿勢が目立つようになりました。
 おそらく内部の強硬派の発言を穏健派が抑えきれなくなりつつあるのかも知れません。
 総合的に判断して、今まで抑制してきた対日強攻策が抑制不能になりつつある、すなわち対日戦略の守られてきた「箍が外れつつある」のではないでしょうか。
 不必要に過剰反応するべきではありませんが、中国の動向には今後も冷静に見守る必要があるでしょう。
 中国の今後の動向をしっかり監視し冷静に対応していくことが必要です、警戒を怠るなということでしょう。


(木走まさみず)

米爆撃機無通告飛行に手も足もでず防空識別圏が一日で無力化した中国〜本気の米軍に赤っ恥をかかされた中国・習近平指導部

 25日付け産経新聞記事から。

「中国の決意見くびるな」防衛識別圏設置で軍機関紙、日米に警告2013.11.25 12:40 [日米関係]

 中国軍機関紙、解放軍報は25日、日米両国が中国の防空識別圏設定を強く批判したことについて「国家主権を守ろうとする中国軍の決意を見くびってはいけない」と警告する社論を掲載した。

 防空識別圏の設定にはどの国の許可もいらず「大国の顔色をうかがう必要はない」と強調。「日本が1969年に防空識別圏を設定した行為こそが非常に危険で一方的な行為だ」と反論した。

 中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報も25日、もし日本の戦闘機が中国の防空識別圏内で中国機の飛行を妨害するなら、中国の戦闘機も断固として日本の戦闘機の飛行を阻むべきだと主張した。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131125/chn13112512430001-n1.htm

 中国軍機関紙、解放軍報は25日、日米両国が中国の防空識別圏設定を強く批判したことについて「国家主権を守ろうとする中国軍の決意を見くびってはいけない」と警告する社論を掲載しました。

 中国軍の決意を見くびるなと中国軍機関紙が日米両国に強烈な警告をした訳ですが、これに対しアメリカは中国に対し速攻で軍事行動を起こします。

 27日付け産経新聞電子版記事から。

米軍爆撃機2機が飛行 事前通報なし 中国スクランブルなし2013.11.27 09:02 [米国]

 【ワシントン=青木伸行】米国防総省によると、米軍のB52爆撃機2機が日本時間26日(米東部時間25日夜)、中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏内を事前通報なしに飛行した。中国側から2機に対する呼びかけや戦闘機の緊急発進(スクランブル)はなかった。

 2機はグアムのアンダーセン空軍基地を離陸し、防空識別圏内に入った。尖閣諸島沖縄県石垣市)の上空周辺を飛行し、圏内での飛行時間は1時間未満。爆弾などは搭載しておらず、護衛機も伴っていなかった。

 爆撃機はその後、アンダーセン基地に帰還した。国防総省は以前から予定されていた飛行訓練としている。

 米政府はこれまで、(1)防空識別圏を認めない(2)飛行経路の事前通報や無線の開放など、中国が要求する措置には応じない(3)米国の軍事作戦遂行に一切変更はない−との立場を明確にしている。

 爆撃機の飛行は、こうした米国の姿勢と日米同盟の強固さを誇示する明確な示威行動であり、中国を強く牽制(けんせい)するものだ。同時に米軍機が防空識別圏に侵入し飛行した際の中国側の出方を探る狙いもある。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131127/amr13112709030000-n1.htm

 うむ、事前通報無しでB52爆撃機2機を中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏内に飛行させ、中国側から2機に対する呼びかけや戦闘機の緊急発進(スクランブル)は一切無く、中国の防空識別圏を速攻で無力化したのであります。

 アメリカは本気で今回の中国の新たに設定した防空識別圏を潰しに掛かってきていると見てよいでしょう。
 そもそも現在の日本・韓国・台湾の防空識別圏第二次世界大戦後にアメリカ軍が設定したものを各国が継承しているものです。
 それを日本圏・韓国圏・台湾圏すべてにおいて中国の新たに設定した防空識別圏は侵犯した形で重なっています。 東アジアでアメリカ軍の築いてきた軍事的秩序への中国による露骨な挑発とアメリカが捉えたとして不思議ではありません。
 さらには在日米空軍の訓練域や射撃場が含まれているのですから、アメリカとしては在日米軍の通常の軍事活動まで制約を受けてしまいますので、とても看過できなかったのでしょう。
 中国としては軍機関紙で「中国軍の決意を見くびってはいけない」と日米に強烈に警告した翌日に、米爆撃機に通告なし飛行を許し、手も足も出ず、防空識別圏が速攻で無力化されたわけですから、中国・習近平指導部は赤っ恥をかかされたわけです。
 おそらく中国指導部は米軍がここまで強行に反発してくるとは想定していなかったのではないでしょうか?
 今回の米軍のすばやい行動は中国に対するアメリカの強烈なシグナルだと考えます。
 中国軍こそ米軍の決意を見くびっていたと言えるのでしょう。

 この重大な局面において、日本は対中国においてどのような外交戦略を取れば日本の国益に叶うもっとも有効なものとなるのでしょうか。

 短期的な視座で持って日本単独で中国に日中首脳会談開催などの呼び掛けをするなどの戦略なく右往左往することは愚の骨頂と云えましょう。

 中国の新たなる軍事「覇権主義」に日本一国で対処するのは避けるべきだからです。

 日米同盟を基軸に、豪州・ニュージーランドとの連携、フィリピンやベトナムなど中国と領土問題を抱える国や伝統的な親日国タイなどASEAN10ヶ国との安全保障関係強化、さらにはインドやロシアとの連携を、粛々と並行して進めるべきと考えます。

 日本は、台頭する中国に対し驚異を覚えている諸国と幅広い外交を展開し、中・長期的にぶれる事ない外交戦略を取るべきでしょう。

 


(木走まさみず)  

今こそ対中国包囲網・「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべき

 中国国防省は23日、日本の領土である尖閣諸島の上空を含む東シナ海に、中国が防空識別圏を設定したと発表いたしました。

 中国国防省が出した公告は、識別圏内を飛ぶ各国の航空機に、国防省の指令に従うことや飛行計画の提出を求めています、従わない航空機には「防御的緊急措置を講じる」としています。

 また中国国防省報道官は「適切な時期にその他の識別圏も設定する」と述べ、東シナ海だけでなく今後はフィリピンやベトナムと領有権を争っている南シナ海にも防空識別圏を拡大していく意向も表明しました。

 いよいよ、中国が軍事的拡張主義を露わにしてきました、軍事力によって現状変更を図ろうとする強い意図による危険な挑発行為が始まったのです。

 23日付け毎日新聞記事。

中国:尖閣周辺の上空に「防空識別圏」設定 日本側抗議 
毎日新聞 2013年11月23日 21時40分(最終更新 11月24日 00時34分)
http://mainichi.jp/select/news/20131124k0000m030053000c.html

 今回はアメリカがすばやく反応しています、ケリー米国務長官は、中国の「一方的な行動」は東シナ海の現状変更を試みるもので、「地域の緊張を高めるだけだ」と批判。さらに沖縄県尖閣諸島日米安保条約の適用範囲内にあることも声明に明記いたします。

中国の防空識別圏設定「深い懸念」…米国務長官
(2013年11月24日09時27分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20131124-OYT1T00200.htm?from=main4

 ・・・

 この重大な局面において、日本は対中国においてどのような外交戦略を取れば日本の国益に叶うもっとも有効なものとなるのでしょうか。

 短期的な視座で持って日本単独で中国に日中首脳会談開催などの呼び掛けをするなどの戦略なく右往左往することは愚の骨頂と云えましょう。

 中国の新たなる軍事「覇権主義」に日本一国で対処するのは避けるべきだからです。

 日米同盟を基軸に、豪州・ニュージーランドとの連携、フィリピンやベトナムなど中国と領土問題を抱える国や伝統的な親日国タイなどASEAN10各国との安全保障関係強化、さらにはインドやロシアとの連携を、粛々と並行して進めるべきと考えます。

 日本は、台頭する中国に対し驚異を覚えている諸国と幅広い外交を展開し、中・長期的にぶれる事ない外交戦略を取るべきでしょう。

 最近の安倍政権の外交姿勢及び周辺国の動静をこの動きを念頭にトレースしておきます。

 21日付け時事通信記事から。

日本の安保政策見直し支持=防衛協力協定の交渉開始−米豪

 【ワシントン時事】米、オーストラリア両政府は20日、ワシントンで外務・国防閣僚会議(2プラス2)を開いた。両政府は、安倍政権が進めている日本の安全保障政策の見直しを支持すると表明した。
 米豪は会議後、共同声明を発表。声明は、日米豪閣僚級戦略対話などを通じ、日本との協力を深めていくと強調し、「安保・防衛政策の見直しに向けた日本の取り組みを支持する」とうたった。日本との情報共有を進めていく方針も示した。
 米豪はまた、豪州北部への米海兵隊のローテーション(巡回駐留)や合同軍事訓練・演習、人道支援活動をめぐる2国間協力について定めた協定の締結を目指し、交渉を始めることで合意した。経済面では、環太平洋連携協定(TPP)の年内妥結を目指す姿勢を再確認した。 
 ケリー米国務長官は会議後の記者会見で、「アジア太平洋への米国の関与を強化する上で、豪州は不可欠のパートナーだ」と強調。ビショップ豪外相は「米国が地域で一段と指導力を発揮することに期待を寄せている」と述べた。(2013/11/21-09:21)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201311/2013112100154&g=pol

 米、オーストラリア両政府は安倍政権が進めている日本の安全保障政策の見直しを支持すると表明、加えて日米豪閣僚級戦略対話などを通じ、日本との協力を深めていくと強調しています。

 今後、日・米・豪にニュージーランドを加えた4カ国による合同軍事訓練・演習が強化されると予測されます、もちろん対中国を睨んでの動きでありましょう。

 17日付け産経新聞記事から。

ラオスが積極的平和主義支持、首相年末に対ASEAN新ビジョン
2013.11.17 20:08 [安倍首相]

 【ビエンチャン=山本雄史】安倍晋三首相は17日(日本時間同)、ラオスのトンシン首相と会談し、外務・防衛当局間の安全保障対話を創設することで一致した。トンシン首相は安倍首相が提唱する「積極的平和主義」への支持も表明した。ラオス訪問で安倍首相は就任から約11カ月で東南アジア諸国連合ASEAN)加盟の全10カ国の訪問を終えたことになる。

 首脳会談後の記者会見で安倍首相は「ASEANは世界経済の牽引(けんいん)役として、日本経済再生に欠かせない友人だ」と述べ、12月に東京で開かれる「日・ASEAN特別首脳会議」で対AESAN新ビジョンを表明する意向を示した。

 首脳会談では、アジア太平洋地域の平和と繁栄の維持、海洋安全保障の重要性を確認し、北朝鮮の非核化を求めることでも一致。安倍首相は、首都ビエンチャン国際空港ターミナルの拡張計画に対する約90億円の円借款供与、ベトナムからラオス、タイを横断する「東西経済回廊」などの交通インフラ整備支援を表明した。

 日本の首相のラオス訪問は多国間の国際会議を除けば平成12年1月の小渕恵三首相以来13年ぶりとなる。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131117/plc13111720110012-n1.htm

 今回のラオス訪問で安倍首相は就任から約11カ月で東南アジア諸国連合ASEAN)加盟の全10カ国の訪問を終えたことになります。

 とりわけASEAN諸国の中でカンボジアとともに親中国国であるラオスにおいて、外務・防衛当局間の安全保障対話を創設することで一致、さらにトンシン首相が安倍首相が提唱する「積極的平和主義」への支持も表明したことは、大きな外交的成果と評価できます。

 21日付け「ロシアの声(日本語版)」記事から。 

天皇陛下 初のインドご訪問
21.11.2013, 15:43

天皇皇后両陛下は11月30日から12月5日、インドをご訪問される。インド外務省が明らかにした。

インド外務省公式声明では、「天皇皇后両陛下はインドを初めてご訪問される。今回のご訪問はインドと日本の世界的戦略協力関係を大きく拡大および強化するものである。」とされている。
インドと日本の関係は歴史的に友好関係であり、現在、インドが毎年首脳会談を行っているのは日本とロシアのみ。

リア・ノーボスチ
http://japanese.ruvr.ru/2013_11_21/124772171/

 インド外務省公式声明で、「天皇皇后両陛下はインドを初めてご訪問される。今回のご訪問はインドと日本の世界的戦略協力関係を大きく拡大および強化するものである。」と発表されました。

 この動きに対してインドと伝統的に軍事的結びつきが強いロシアのメディアが注目している点が興味深いです。

 記事の結びの「インドと日本の関係は歴史的に友好関係であり、現在、インドが毎年首脳会談を行っているのは日本とロシアのみ」との表現が、ロシアとして天皇陛下の初のインドご訪問を好意的に受け止めているのだと感じます。

 ・・・

 さて、当ブログでは3年前のエントリーで「パックス・シニカ」中国の覇権主義に対抗するには、アメリカとの日米同盟を要(かなめ)とした反中国諸国同盟による対抗勢力の構築、いわば「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべき」と主張しています。

2010-12-28 ”Pax Anti Sinica”の薦め〜アジアを赤く染めないために
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20101228

 主張のコア部分を再掲します。

 「パックス・シニカ」(Pax Sinica)というラテン語の歴史用語があります。

 「パックス・シニカ」とは中国の覇権により維持された中国国内と近隣諸国の平和状態を指し、唐の時代にその全盛期を迎えています。

 中国こそ文明の中心であるという「中華思想」のもとで漢民族は周辺のさまざまな民族を吸収し一大帝国を築きます。さらに後進的な近隣諸国に対しては「朝貢」を要求し、中国の属国であることを認めさせています。

 さて過去の歴史用語であった「パックス・シニカ」でありますが、どうもこの21世紀の現在に、中国経済の急成長とともに急速な軍備強化を伴い復活しつつあるようです。

 一方。世界でソ連崩壊後のアメリカ一極体制いわゆる「パックス・アメリカーナ」がリーマンショック以来の世界不況によりその力の衰退が明白になりつつあります。

 アメリカの衰退で生じる力の空白を突いて中国がその勢力圏を膨張させる、東アジアにおいて「パックス・シニカ」、中国による覇権が復活しようとしてるとの分析は、興味深いです。

 我々日本は衰退していくが価値観は共有できる「パックス・アメリカーナ」と最後まで迎合するのか、あるいは危険で粗暴だが勢いのあるこの21世紀に復活した「パックス・シニカ」に迎合するのか、2者択一を迫られているとも言えましょう。

 たしかに同盟国アメリカの衰退は特に経済力において顕著であります。

 またアフガン・イラクで米軍は疲弊仕切っており、新たに東アジアで軍事衝突が起こるとき、その対処能力には疑問を持つ専門家も多いのが現状です。

 このような視点で考察する限り、日本はアメリカだけでなく、インド・オーストラリア・東南アジア諸国等の日本と同じ海洋諸国であり民主主義という価値観も共有でき、なおかつ対中国で利益を共有する地域諸国と力を合わせて「パックス・アメリカーナ」の衰退によるこの東アジア地域の力の空白をカバーする、それが新たなる「パックス・シニカ」東アジアの「中国圏」化を阻止する唯一の方策であろうと思います。

 つまり「パックス・シニカ」中国の覇権主義に対抗するには、アメリカとの日米同盟を要(かなめ)とした反中国諸国同盟による対抗勢力の構築、いわば「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきです。

 「パックス・アンチ・シニカ」の概念は、これまでの「パックス・ブリタニカ」(大英帝国)や「パックス・ロマーナ」(ローマ帝国)などに代表される一国による覇権というよりも、冷戦時代に表現された「パクス・ルッソ=アメリカーナ(Pax Russo-Americana )」(ロシアとアメリカ)と同様、複数国による平和維持になります。

 もちろんこのような反中国的名称で勢力結集を図ることは外交的には愚策でしょうから、現実には中国のいらぬ警戒心を煽らぬように構築されるべきでしょうことは言うまでもありません。

 21世紀に復活した中国によるむき出しの覇権主義、新たなる「パックス・シニカ」に、どう対峙するのか、日本政府は今歴史的決断を求められているのであります。

 私は、アジアを赤く染めないために、日本は静かに冷静に「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきだと考えています。

 ・・・

 この重大な局面で機は熟したと言えるでしょう。

 今こそ、日本は動じることなく静かに冷静に対中国包囲網・「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきでしょう。

 13億の人口と成長を続ける世界第二位の経済規模をバックに急速に軍備拡張を続ける中国がついにその軍事覇権主義の意思を明確に国際社会に顕した現在、日本は単独で中国と対峙するのは愚策であります。

 日米同盟を基軸としてしかしアメリカのみを頼ることなく中国を驚異と感じている多くの諸国と連携していくことが必要です。

 24日付けサーチナ記事によれば、中国メディアの米爾網は24日、「尖閣諸島をめぐって日中が開戦した場合、中国を援護してくれる国はパキスタン北朝鮮の2カ国しかない」と報じています。

日中が開戦した場合、わが国を援護してくれる国は2カ国のみ=中国

  尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐり、日中関係の悪化が続いている。中国は23日、尖閣諸島を含む東シナ海に「防空識別圏」を設定したと発表したが、これによって日中の東シナ海をめぐる対立に新たな火種が持ち込まれたことになる。

  中国メディアの米爾網は24日、「尖閣諸島をめぐって日中が開戦した場合、中国を援護してくれる国はパキスタン北朝鮮の2カ国しかない」と報じた。

  対インドという点で利害が一致している中国とパキスタンは2005年4月に軍事や安全保障、経済、政治などの分野において「善隣友好協力条約」を締結している。

  中国の李克強首相が13年5月にパキスタンを訪問した際、パキスタン側は中国が抱えるすべての問題において中国と同じ立場を取るとし、「中国に対する主権侵犯はパキスタンへの主権侵犯と同様である」と主張した。

  また、中国のもう1つの盟友は北朝鮮だ。中国と北朝鮮は1961年に「中朝友好協力相互援助条約」を締結しており、一方が武力攻撃を受けた際にはもう一方が即時かつ全力の軍事援助を提供することが定められている。

  近年、中朝関係は悪化の一途をたどっているが、それでも北朝鮮は中国にとっての「盟友」と言っても差し支えないだろう。(編集担当:村山健二)

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=1124&f=national_1124_010.shtml

 中国の軍事力に対抗するために日本一国で軍事的に対峙することは困難です。

 軍事力だけでなく、日本国としての信頼度・ソフトパワーによる国際連携を深め、国際社会において圧倒的数的優位を構築し、もって日本の安全保障強化につなげるべきと考えます。

 静かに冷静に対中国包囲網・「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきです。



(木走まさみず)

天安門前自爆事件の背景にある民族格差は氷山の一角〜中国の経済格差は国家体制を揺るがすほどの危険なレベル


 3日付け日本経済新聞の記事から。

中国・ウイグル自治区漢民族との格差が対立招く
2013/11/3 0:17

中国・北京の天安門前で自爆テロを実行した容疑者らの出身地、新疆ウイグル自治区カシュガル市内や郊外では経済開発が急ピッチで進む。そのために次々取り壊されているのは、古くからウイグル族が住むイスラム式住居や農地だ。従来の宗教上の摩擦に加え、こうした経済問題が地元政府を仕切る漢民族への反発に拍車をかけている。

(後略)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM02025_S3A101C1FF8000/

 天安門前で発生した自爆テロの背景として、ウイグル族漢民族との経済格差の拡大を指摘している興味深い日経記事であります。

 記事によれば、中国中央政府は、新疆ウイグル自治区に年間約1500億元(約2兆4000億円)もの膨大な財政支援をしていますが、恩恵を被るのは漢民族ばかりなのであります。

 中央政府は、新疆ウイグル自治区の経済発展に年間約1500億元(約2兆4000億円、2011年)の財政支援をし民族融和をアピールする。だが、恩恵を被るのは漢民族資本の企業ばかり。開発を主導する漢民族と、土地を奪われたウイグル族との経済格差は広がるばかりだ。

 うむ、確かに中国の抱える深刻な民族対立問題には、チベット問題でも当てはまりますが、拡大の一途である漢民族と他民族間の経済格差が要因のひとつでありましょう。

 しかしながら中国の経済格差問題が真に深刻なのは、民族間格差に留まらず国全体規模で格差が急拡大をしている事実であります。

 9月29日付けの産経新聞の記事によれば、「世帯所得で上位5%の富裕層と下位5%の貧困層の年収格差が、2012年時点の全国平均で234倍に達した」というのです。

「貧富の格差」中国234倍 一段と深刻化 上海支局長・河崎真澄
2013.9.29 12:59

 ■不満爆発と社会不安に懸念

 中国経済のアキレス腱(けん)である「貧富の格差」が一段と深刻化している。北京大学の中国社会科学調査センターの調べでは、世帯所得で上位5%の富裕層と下位5%の貧困層の年収格差が、2012年時点の全国平均で234倍に達した。2年前の10年段階の調査では129倍だった。既得権益層とも重なる富裕層の世帯所得の伸びが貧困層を大きく上回ったものとみられる。

(後略)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130929/chn13092913000005-n1.htm

 記事によれば、社会の所得格差や不平等さを測る指標として有名なジニ係数が、中国人民銀行中央銀行)の調査で0・61に達して関係者に衝撃が走ったのだそうです。

 一方、中国人民銀行中央銀行)は昨年12月、10年段階でジニ係数が0・61に達したとの調査を発表し、関係者に衝撃が走ったことがある。

 北京大学、国家統計局、人民銀行など権威的組織が、これまで国内でタブー視されがちだった所得格差問題を正面から指摘し始めたのは、昨年11月の党大会で総書記に就任した習近平氏や新指導部の意向と受け止められる。

 ジニ係数0・61という値は、社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4と言われておりますから、異常値と言ってよいでしょう。

 ちなみにOECD諸国では、日本が0.329、ドイツが0.295、アメリカが0.378などとなっております。 

社会実情データ図録 所得格差の国際比較(OECD諸国)
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4652.html

 ジニ係数にはカラクリがあります、日本のジニ係数0.329ですがこれは「直接税、社会保障給付金、現物支給」の再分配を考慮した所得のジニ係数でありまして、当初所得ジニ係数は当然ながら0.4を超えているのです。

■図1:ジニ係数の推移と社会保障と税による改善

・赤線は「直接税、社会保障給付金、現物支給」の再分配を考慮した所得のジニ係数
・青線は「社会保障給付金、現物支給」の再分配を考慮した所得のジニ係数
・緑線は当初所得ジニ係数
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Jpgini.png

 日本も社会保障と税による再分配で改善されていなければ社会騒乱レベルにあるわけです、所得格差の固定化が問題となりつつあるアメリカでは改善後のジニ係数が0.378ですので、0.4越えも時間の問題のレッドゾーンにあるわけです。

 中国のジニ係数がとんでもない異常値であることは昨年当ブログでも取り上げましたのでご参考までに。

2012-12-11 中国のジニ係数がとんでもない異常値な件
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20121211

 ここからはジニ係数の計算方法と0.6という異常値について上記エントリーの説明を少し再掲いたします。

 ・・・

 難しい数式は登場しませんのでご安心ください。

 以下にジニ係数の計算式とジニ係数の計算例(その1)を示します。

■図2:ジニ係数の計算式とジニ係数の計算例(その1)

 ご覧のとおり、150万、200万、300万の例ではジニ係数は0.23であります、最小所得と最大所得は2倍の差が有りますがこの例ではジニ係数OECD諸国平均より低いですね。

 では、300万の所得の人を3000万として格差を拡大したジニ係数の計算例(その2)を示します。

■図3:ジニ係数の計算例(その2)

 ご覧のとおり、150万、200万、3000万の例ではジニ係数は0.85に跳ね上がります、もちろん現実にこんな高い値の国はないでしょうが、この例のような国があれば間違いなく社会騒乱が頻発し下手をすれば革命が起こりかねないことでしょう。

 ・・・

 さて社会保障と税による改善後のジニ係数が0.6という格差の意味について数式でしっかり検証しておきます。

 最終ジニ係数が0.6という異常値はおそらくごく一握りの人に富が偏在している状態のはずです。

 そこで標本数10人で各所得が9人は100万、一人だけがX万として、Xがいくらならばジニ係数が0.6という異常値を示すのか計算していきます。

 まず平均差ですが、これは次式でもとまります。

 平均差=(X−100)*18/90=(X−100)/5 ・・・式(1)

 次に平均値は次式となります。

 平均値=(X+900)/10 ・・・式(2)

 式(1)、式(2)より、ジニ係数は以下の式になります。

 ジニ係数=平均差/(平均値*2)=((X−100)/5)/((X+900)/10*2)・・・式(3)

 式(3)で示されるジニ係数が0.6に等しいですので次式が成立します。

 0.6=((X−100)/5)/((X+900)/10*2)・・・式(4)

 式(4)を解けばXが求まります。

 X = 1600

 最終ジニ係数が0.6という異常値は、10人の標本で9人が100万の所得のケースでなら最後の一人に1600万の所得が集中していることになります。

 すごい所得格差、不平等な社会なのです。

 ・・・

 10月30日付け日本経済新聞の興味深い記事があります。

天安門前に車突入 中国政府が恐れるシナリオ
2013/10/30 9:41
http://www.nikkei.com/money/gold/toshimagold.aspx?g=DGXNMSFK30007_30102013000000

 記事によれば、中国には深刻な四大格差があり、そのひとつが1%の家庭が41.4%の資産を保有しているとの世界銀行の統計が示す「貧富格差」なのであります。

四大格差とは、中国の東部と西部の間の「東西格差」、都市と農村の「城郷格差」、国営企業と私営企業の「業種間格差」、そして「貧富格差」を指す。

 例えば、電力、電信、金融、保険、水道ガス、たばこなどの国有企業の職員は全国職員数の8%にすぎないが、全国職員の給料総額の55%を占めるという「業種間格差」の例。そして、1%の家庭が41.4%の資産を保有しているとの世界銀行の統計が示す「貧富格差」だ。

 「城郷格差」も構造的問題に根差す。農民は割り当てられた農地を売却したり賃貸したりする権利がない。地方政府が土地販売を独占することで、地方政府の重要な収入源となっているのだ。

 ・・・

 中国中央政府は北京の天安門前自爆事件を「テロ」問題として国際的に宣伝し独立派を封じ込めようと躍起です。
 しかし彼らが本件で真に恐れるのは、この事件が、深刻な経済格差で爆発寸前までに充満している漢民族の一般大衆の不満に引火することでしょう。
 平等が謳い文句の共産主義国家であるのに、中国のジニ係数0.61とは皮肉なことです、異常な数値です、異常な富の偏在です。
 中国の拡大する格差問題は、国家体制を揺るがすほどの危険なレベルです、大衆の不満がいつ爆発してもおかしくない水準に達しています。
 日本としてもこの問題を軽視すべきではないでしょう。
 天安門前自爆事件の背景にある民族格差は氷山の一角だということだと思います。


(木走まさみず)